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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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乱戦開始

 ゲーム上では戦いに参加してから戦闘が始まるまでは一瞬で終わるのだが、現実ではそうもいかない。

 行軍が始まったのは翌日であり、二日移動が行われた。その間に他国の軍と連絡を行いベルーナにプレッシャーをかける。やがて周囲は森に包まれるようになったが、魔物の姿も少なく、ここまでは順調。


 構図的にはベルーナの居城を取り囲むように連合軍が布陣。俺達は南側から仕掛ける手筈となっている。一方フィリは北側。彼らはゲームのシナリオに沿った形で参戦しているため、スムーズに城まで到達するはず。彼の動向については、特に注意しなければならない。


 俺は心の中で気合を入れ直し……そこでソフィアがこちらへ視線を向けているのに気付く。


「どうした?」


 声を掛ける。彼女は目を合わせながら一時沈黙し、


「……ルオン様」


 ――俺が五大魔族の居城では思うように戦えないことを気にしているのかもしれない。俺もレドラス戦の時と比べ訓練により力を抑えてもいくらか立ち回れるようになった。今回は乱戦である以上多少なりとも動く必要もあるだろう。よって――


「……現時点でも多少体が重いのは確かだ。居城を構える魔族の影響だろう。軍が包囲しているため相手も色々と仕込んでいるのかもしれない」

「そう、ですか」

「けど、二度目ということで体も多少ながら慣れたところもある……前よりかは、立ち回れると思う。もっとも、魔族そのものが出てきた場合はキツイと思うが」

「どうしたんだい?」


 ラディが問う。そういえば説明していなかった……ここで俺は、ラディとネストルに五大魔族の居城では思うように戦えないことを説明。


「――だから、基本サポートに回ることになる」

「そうか……大丈夫かい?」

「自分の身は自分で守るさ……ソフィア、俺のことは気にするな。そしてサポートはできる限りする。頼むぞ」

「はい」


 強い返事を返すソフィア。賢者の力を宿すことを考える場合、ソフィアにはこの戦いでさらに強くなってもらう必要がある……現時点でレベル的にはラディと同じくらいだろうけど、差をつけていた方がいいだろう。


 そう考えた時だった。前方から、鬨の声が聞こえてくる。

 始まったらしい――思うと同時に周囲にいた戦士や兵士達がざわつき始める。


「さて、どうなるか」


 俺は呟きつつ剣を抜く。ゲームでは幾度か戦闘した後、部隊が散り散りとなり、プレイヤーだけで居城へ進んでいくのだが――


 そこでまず居城を監視していた使い魔から報告――魔物の詳細だ。入って来た魔物の情報を頭の中で整理し……現時点でもソフィア達なら十分対応することができそうな相手とわかる。

 よし、と心の中で思ったと同時、ラディが魔物を発見したか声を上げた。同時に、周辺に瘴気が生じる。


 それと共に、魔物を視界に捉える――いよいよ、ベルーナ討伐が始まった。






 最初に姿を現したのはゴブリンとは異なる、人間くらいの身長を持つ全身鎧の戦士……頭部は豚の顔をさらに醜くしたような風貌で、オーク種の敵だとわかる。


 ゴブリンとの違いはやや鈍重だが基本ステータスが高い――五大魔族が生み出す魔物にはそこそこ法則性があり、ベルーナの場合はゴブリン系の魔物は生み出さない代わりにオーク系の魔物とエンカウントする。つまりベルーナにとってオークこそが雑兵というわけだ。


 もし五大魔族の中で一番最初に戦っていた場合はオークでも下級種である『ブロンズオーク』だったと思うのだが、今目の前に存在しているのは中級種の『スチールオーク』だ。魔族が生み出す魔物なので、実際スチール――鋼の装備なのかどうかはわからないが、ともかく攻撃力と防御力はそこそこ高い。


 前方から聞こえる兵士の声は、気合を入れる声の他に攻撃を受けたのか悲鳴に近い叫び声のようなものも混ざっている。オーク種は尖った能力がない代わりに目立った弱点がない。そのため地力がものをいうのだが……兵士ではこのレベルのオークは対処が難しいということなのだろう。


「気合を入れないとやばそうだ」


 ラディが言う。オーガと戦った経験から考えるとスチールオークなら十分対処できるはずだが……視界に見えるだけでもそこそこ数がいる。数の多さを懸念しているのだろう。


 周囲の傭兵達が戦闘を開始する中、俺達も戦闘を始める。こちらに向かってきたのは二体……だが森の中にはいつ布陣したのか、かなりの数がいる。これを全滅させるのはかなり骨が折れるだろう。

 よく見るとこちらに攻め込んでくる魔物と、監視でもするように取り巻いているだけの魔物がいる。こちらにプレッシャーを与えているつもりなのか。


 そこに、兵士の喚声。見れば前を進んでいた兵士が分断されている。賢者の力による結界を用いて、ベルーナが動いている証拠だ。

 俺は近くにいるソフィアやシルヴィに目を向ける。離れるなと言おうとしたのだが……ソフィア達はわかっているのか小さく頷いた。


 このままできればベルーナの居城へ向かいたいところだが――そして使い魔の報告。フィリもまた戦闘を開始したようだ。


 二体のオークが迫る。最初に応じたのはソフィア。


「ふっ!」


 近づき剣を放とうとしたスチールオークよりも先に、間合いを詰め一閃する。魔力を伴った斬撃はしかと入り、鎧を多少なりとも損傷させたが当然撃破には至らない。

 彼女はそれを見越していたか、追撃の魔法である『サンダーボルト』を浴びせる。これは多少なりとも効いたらしく、オークは動きを止め、その間に彼女は追撃を行う。


 一騎打ちであれば問題なさそうだ――もう一体はシルヴィが相手にしていた。いつのまにか魔物の背後に回った彼女は、上段からの振り下ろしを放つ。

 攻撃は見事成功。魔物が怯んだ矢先、目にもとまらぬ速さで追撃を仕掛け横薙ぎを放つ。その結果、技と共に放った魔力が衝撃波を生み、オークはそれに飲み込まれさらなるダメージを受ける。


 今のは汎用中級技の『天衝(てんしょう)烈波(れっぱ)』だ。技初めの隙は多少あるが威力が高く、また相手と距離を置くのにも使えるためゲームをやっていた時、俺もよく使っていた技だ。

 そのオークへ、俺は『ホーリーショット』を使い腹部を撃ち抜く。魔法は鎧を貫通し、さらにシルヴィの斬撃によってとうとう沈んだ。


 ソフィアを見ると、魔法と剣を組み合わせて撃破に成功。周囲では戦士達も交戦を始め、取り巻いているオークも断続的に接近してくる。


 本来ならば周囲にいる魔物を全滅させた方がいいのかもしれないが……この魔物達はベルーナの力に従い湧き続けるはず。だから俺は仲間達に告げる。


「この様子だと、居城にいる奴を倒さないと終わりがなさそうだ……先に進もう!」


 言葉にソフィアとシルヴィは即座に頷き、さらにラディを始め周辺にいた戦士も俺の意見に賛同する様子。乱戦となり周囲は混乱した状況となっていたが、俺達は進むことにする。

 その道中、真正面からまたもオーク。ソフィアとシルヴィ、さらにネストルが前に立ち、交戦を開始する。


「森の中だからさすがに炎はまずいよな」


 近くにいるラディは呟きつつ詠唱を開始。また俺も詠唱を開始。ソフィア達はオーク達に対処できているが、ここからさらにスピードアップをした方がいいだろう。

 よって俺はソフィアに攻撃力強化の魔法を――すると、切り結んでいたオークを大きく弾き飛ばし、また『清流一閃』によりオークの胴を薙ぎ、撃破に成功する。


 さらにネストルとシルヴィがオークを斬り、ラディが風の魔法によりもう一体を滅して道がひらけた――その時、俺は背後から気配を感じた。

 それは魔物ではなく賢者の結界――分断を行うベルーナの結界は俺達の退路を断つ結果となり、さらに後方にいた戦士や兵達との連携もできなくなる。


「進むしかなさそうだな」


 ラディが言う。俺は同意し前を見ると、充足した気配を放つ士気の高い様子のソフィア達の姿。

 これなら進んでも大丈夫――そう判断した俺はすぐさま前進の指示を出し、城へ向け先を急いだ。


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