滅びを招く災厄
俺達は幻想樹については断片的な情報しか知らないが……あの崩壊も星神が関与しているとしたら、古代文明の崩壊は文字通り、星神が全ての主犯ということになる。
『より正確に言えば、幻想樹の破壊を願った者がいた……星神は自らが行動することはない。あくまで思念体というだけで、能動的に……星神が意思をもって動き出すということはない。それはどうやら星神のルール……絶対的なものらしい。しかし、思念体は同時に破壊衝動を抱えている。これは地上に生きていた人間……つまり死者の魔力を取り込み、その思念を持っているが故のものだ』
ブレッジは語りながら険しい顔を示す。
『思念により……憎悪が膨らみ、星神は破壊衝動を抱える。それを取り除くことはできない。そして、最悪なのは思念体は人間をそそのかして、間接的に破壊を引き起こす……つまり、星神は願いを聞き届けるという形で、私達の世界に干渉してくるのだ』
そう語るブレッジの顔は……土気色というわけではないが、ずいぶんと悪いものだった。
『現時点で星神は何かをしているわけではない。しかしあの思念体は、世界に恨みを持つ存在を見つけ出し、願いを叶えさせるだろう。破壊衝動により、星神は負の方向に話を持って行く。それを止める手立ては……星神そのものを滅するしかない。しかしエネルギーと思念体は表裏一体。破壊することはすなわちエネルギーを失うことを意味する』
そこでブレッジは一度言葉を切った。
『いや……もはやエネルギー云々などと言っている場合ではない。すぐさま星神を封印するべきだが……それもおそらく手遅れだ。星神は顕現した以上、必ず自らの望みを成就するべく動くだろう。それを止める手段は私にはない……できるとすれば、国家元首クラスの存在だ。そうした人物達が結集し、星神を滅ぼすために戦力を投入する。それしか道はない』
断言と共に、彼の表情は沈鬱なものとなる。俺も理解できた。そんなこと――到底あるはずがない。
『わかっている。そう主張する私自身が何よりわかっている……これが夢物語でしかないことを。星神に刃を突き立てる者はいない。真実を知っても、おそらく星神と共存するために動くとのたまい、思う存分エネルギーを享受するだろう……友人は言っていた、あれは目覚めさせてはいけないものだったと。幻想樹の破壊についても、結局は人間の願いを聞き届けただけだと星神は主張したらしいが、そんなものは詭弁だ……いや、人間が願ったことであるのならば、ある種因果応報と言えるのかもしれない』
ブレッジは沈黙する。言いたいことを全て言い尽くしたのか……しばし動画の中は静寂が生まれた。
『とはいえ、私はこの世界に生きる人間だ。星神が破壊と混沌をもたらそうと、それを見届ける責務がある。ただ、私は疑問がある。幻想樹を失い、星神が牙をむいたのであれば、私達はどのように生きれば良いのだろう? いや、人間は生きていけるのだろうか?』
その問い掛けそのものは杞憂……ではあるのだが、ある意味彼の疑問は当たっているのかもしれない。
「確か、俺達は古代人を祖先としているわけではなかったはずだな」
「はい。古代の文明とは離れた人間が、生き残り私達の祖先となっている」
ソフィアが応じる。さすがに古代人がゼロになったというわけではないだろうけど、大半が消え失せたとなれば、古代人というカテゴリーの種族は滅びたと解釈してもいい。古代人という人は、確かに生きていくことができなかったのだ。
ここで動画が消える。まだ動画はいくつもあるのだが……俺は一度周囲を見た。すると全員が俺に注目を集め、早く再生させろと目で訴えかけてくる。
よって、俺は次の動画を選択する。
『ついに、始まってしまった』
ブレッジはそう語り始めた。
『友人が近隣の場所に避難をしてきた。現在都の方ではとんでもないことになっているらしい。星神という存在を迎え入れたことで、戦争が勃発した。何がきっかけだったのかなど、大半の人間がわからないまま、多くの人間が殺し合いを始めた。友人は問い掛けた。あれはお前の……星神の仕業なのか。他ならぬ星神はそうだと答えた。間違いなくあれは、人類の希望などではない……滅びを招く災厄だ』
そう語りながら、ブレッジは周囲に一度視線を向けた。
『物音が……新たな患者が来たか。現在この病院は、そうした人間を収容するために忙しくなっている。とはいえ、元々霊脈の異常が顕在化していたため、迎え入れる人数はそれほど多くない。他の病院ではそれこそ、医者が倒れるような事態になっているらしい。私は休憩をとり動画を撮影できていることから、まだ恵まれた環境なのだろう。とはいえ、いずれこの施設を放棄することになったら……私もまた、苦難の道が待っている』
彼はそういう未来を確実に予感しているらしい……そして、この動画を撮影している時から、そう遠くないのだろうことはなんとなく予想できた。
『私はこの端末をどうするか現在悩んでいる。多数の真実を記録しているが、知ったからといってどうにでもなるような話ではないだろう。星神は友人に問われ無邪気に答えた。つまり、知られても星神は気にしないということだ。友人も一時身の危険を感じていたが、結局無事だった。星神は真実を知る人間……私や友人のことなど興味もない。なぜなら恐怖し、星神に対し警戒しているからだ。願いを叶えるなどという行為もしないため、興味の対象にならなかったのだ。そしてヤツは、真実を誰かに喋っても無意味であり、また場合によっては口封じに……という結末をしかと理解していた。だから放置していたというわけだ』
ブレッジはそこまで語ると、疲れた風に笑みを浮かべた。
『私は、文明の崩壊の中で生き続けることになるだろう。王国が、世界が壊れていく様を真実を知った上で見ることになる。絶望しかない……だが、それもまた責務なのだろう。であれば、私はそれを全うしようと思う。またここに友人を迎え入れ、活動していくつもりだ。今はとにかく、可能な限り人を救う……壊れていく世界の中で、私は全力を尽くし、抗うことにしよう――』




