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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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真実に近い人間

 俺はさらに別の日に撮影した動画を見てみる。日付はドンドンと進んでいく。ここから先、どのような結末になるのか。


『友人から新たな情報が入った。手に入れたエネルギーについては順調らしいが……私は霊脈の変化について彼に告げてみた。結果としては、友人は調べるとして預かってくれることになった。ひとまず変化そのものは落ち着いているが、場合によってはこの病院を放棄する必要性がある……それは覚悟しておかなければならない』


 そこで動画の男性、ブレッジは言葉を切った。


『友人も、不安に思い始めていた。どうやら霊脈以外にも大地……地底が変化している兆候があるらしい。ある場所では地震が頻発し、またある場所では火山活動が活発になったと聞く。その全てが新エネルギーを手にしたから……と、断言することはできない。しかしそのエネルギーを利用し始めたからこそ起き始めている以上、何らかの関連性は疑わなければならないだろう。今後もあのエネルギーを利用するのか否か……いや、人類は手放さないだろう』


 ブレッジはどこか悲しげな表情を浮かべる。


『私達は魔力の恩恵を授かっている。それなくしては生きていくことは無理だ。いや、より正確に言えばなくても生きていくことはできる。だがそれは、文明を放棄することを意味している。それを望む人間が、皆無だ』


 便利さを知ってしまったら、戻ることはできない……それは俺の前世における世界だって同じだった。古代の人々も、同じだろう。突然エネルギーが尽きたから文明を捨てるなどと言われて頷くとは思えない。


『友人はさらなる代替エネルギーの開発を急ぐと語っていた。例えば太陽の光を魔力に変換するものや、あるいは水流、風、火山の熱を利用したもの……言わば自然の力を魔力に変えるものだ。これを友人は自然魔力と名付け、魔力を得ようとしているが……それは私自身、幻想樹があった時から研究テーマとして存在していることを把握している。現状では、人々の生活水準を維持するほどのエネルギーを生み出すのは不可能だ』


 自然エネルギー……それを利用するのも、難しいと。


『異変が新エネルギーによって起こされているのであれば、それを補うだけの別の何かが必要だ。けれど、現状その答えは見えていない……異変について言及しようにも、変わりとなるものがなければ誰も新エネルギーを手放そうとしないだろう……現状でも幻想樹が喪失し、人々は不便さを味わっている状況だ。新エネルギーを手に入れるまではかなり無茶な方法で魔力を得ていた。それこそ土地を枯らしてしまうような方法で……それを繰り返せば遅かれ早かれ文明は崩壊する。けれど……』


 ブレッジは言葉を詰まらせた。動画が撮影されている時……古代の人々は閉塞感が漂っていたのだろう。しかし星神の力という大きな希望を手にした。これではそれを捨てろと言われても無理だ。

 加え、


『さらに言えば、新エネルギーについては様々な利権が存在している。私達が声を上げても黙殺されるだろう。友人も下手に否定すれば自分の立場が危ないと語っていた。私の告げた内容についても調べてくれるとは言ったが、無理はしないで欲しい』


 映像が途切れる。この後の動画でどうなっているのか……不安に思いながら次のものを閲覧する。


『……友人から驚くべき情報が入ってきた。私としても、信じられない話だ。思わず友人に本当か、と問い質してしまうものだった。新エネルギー……地底に眠っていたそれは、意思を持っている』


 とうとう星神そのものに干渉したのか。


『我々はそれを星神と名付けた。意思といっても地底に眠る思念の一部だとのことで、新エネルギーそのものの総意ではないらしいが……友人は、その存在と二人きりの時に、異変のことを尋ねたらしい。結果としては、影響が出ているので間違いないとのことだった。無理な力の引き出し方によって、悪影響が出ていると。しかし友人は公表することはなかった。もはや友人の力ではどうすることもできない状況に陥っている……新エネルギーが、星神の力が必要なものとなっているからだ』


 ブレッジはどこか諦めたような顔を見せ、


『この施設についてだが、霊脈の変化が顕著に表れるようになった。まだ院内の器具を使用することに支障はない。だがいずれ……数年以内には影響が出てくるだろう。霊脈の異変によって医療ミスなどが起きるより前に、放棄しなければならない。いずれ別の場所に建造しろと指示が来るだろう。そういう可能性も既に私は覚悟している。だが、それで終わりだとは思えない』


 彼はどこか恐れるように、言葉を紡いでいく。


「魔力が意思を持っている……しかもそれは地底に眠る力の総意に等しい存在だと。そんなものが信じられるか? つまりそれは、星神という思念体によって、私達の生殺与奪が握られていることになるのではないか? もし星神が反旗を翻したら、私達は新エネルギーを手放すなどというレベルではなく、場合によっては文明そのものが崩壊するのではないか?」


 ――彼の言説は紛れもなく真実だろう。古代、どれだけの人がそういう風に予感していたかわからないが……彼は間違いなく、古代という時代において星神に関して真実に近い人間だった。


『もし、星神が何かしら行動するのだとしたら……場合によってはこの僻地が避難場所になるかもしれない。その場合、私達は引き受けるが……施設維持がどこまで可能なのか、不安の中で作業をしなければならないだろう。そうならないよう、私は祈っている』


 映像が途切れる。段々と状況が悪くなる。次は果たしてどういう状況なのか。

 次の動画を再生すると、少し場所が変わっていた。今まで背景は明るかったのだが、今回は暗い。そしてブレッジの雰囲気も暗い。


『……友人から、星神に関する資料が届いた』


 なおかつ声も小さい。何が起きている?


『今回はいつもの部屋ではなく、誰にも聞かれない場所だ。情報の危険性からそう判断した。けれど記録は残す。それが私の使命だと考えるからだ』


 少しだけ間があり――ブレッジは告げる。


『星神が言うには……幻想樹の崩壊は、星神自身が関わっているそうだ』


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