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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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王子と王女

「――いいでしょう」


 エメナ王女は剣を抜く。リヴィナ王子の周囲にいる騎士達も、動揺を隠せない状態ではあるが戦闘態勢に入った。


「どのような経緯であれ、ここで雌雄を決しなければいけないのは事実」

「そうだな……エメナ、そちらが勝てば、私はどんな処罰を受けよう。というより、これが明るみとなれば私は終わる。だからこそ、ここで始末をつける」

「ええ」


 エメナ王女の仲間達が進み出る。戦いが始まるが……俺はその勝負がどういう結末を迎えるのか、激突を前にして確信できた。


「私達の出番はなさそうですね」


 ソフィアも続く。そして戦いが始まるのだが……エメナ王女の仲間と騎士達がぶつかると同時に、エメナ王女側が圧倒し始めた。

 その理由は、騎士達の動揺……さすがにリヴィナ王子の病という情報は騎士達を動揺させるには十分過ぎるもの。理由が明確となり、自分はどうすべきか――いや、何をすべきかわかっていても、頭がまとまっていない。そんな状態で戦闘をすればどうなるかは明白だった。


 エメナ王女の仲間達はまさしく騎士を圧倒し、押し込んでいく。とはいえその実力は王子の側近だけあって、人数が多い面々に対し不利ながらどうにか対処する……が、長くはもたないだろう。エメナ王女達のレベルが高いのもあるし……おそらく十分も経たない内に勝負が決まる。

 とはいえ、この戦場においてはそのわずかな時間で……王女と王子が対峙する。彼女の仲間達は不安だろうけど、最後の勝負は兄妹の対決という形にしたようだ。


 王女が踏み込む。旅を通してその剣にも磨きが掛かったか……王子と激突して押し負ける様子はなかった。そればかりかリヴィナ王子に反撃の隙を与えないだけの衝撃を食らわせたようで、王女はさらに押し込んだ。

 その剣は……まるで、彼女の感情が乗っているかのように、非常に苛烈だった。業火をまとうが如く攻め立てる王女に対し、王子は守勢以外の選択肢がない。このまま圧倒できれば勝負はもうついてしまうが……さすがにリヴィナ王子も抵抗する。


「舐める、な……!」


 王子は吠え、一歩距離を置いた。攻め込んでいたエメナ王女でさえ対応が遅れるほど見事な退避。王女が追撃を掛けるにも数秒の時間が必要――そこで王子は左手を懐を突っ込んだ。

 それは十中八九星神の技術由来の道具を使おうとする動作……ゲーム的に言えばスキルか技か、あるいは魔法か。何かしら効果のあるもので、リヴィナ王子にとって切り札とでも言うべき代物だろう。


 それに対しエメナ王女は……迷いなく足を前に。いや、そればかりか退避するリヴィナ王子に追いすがるくらいだった。その一事で、俺は王女の目論見を理解する。

 星神由来の何かを抱えていることは既に想定内。つまり、切り札を出そうとする瞬間を見極め対処する心づもりだった――彼女の攻撃は成功。王子が懐から取り出したのは水晶球のような物だが、それを彼女は剣先から放たれる雷撃によって、弾いた。


「っ……!?」


 王子もこればかりは対処が遅れた。というより雷撃に応じるなど彼にとっては不可能で、水晶球を取り落としてしまう。


「技術を利用している以上、戦闘でもそれは発揮されるでしょう」


 エメナ王女はそう告げながらリヴィナ王子へ肉薄する。


「だからこそ――予測していました」

「く、お……!」


 呻き声のようなものを発しながらリヴィナ王子はさらに後退しようとする。距離を置いて仕切り直そうという動きのようだが、それでもエメナ王女は突き進む。

 王女自身、長期戦というか腰を据えた戦いなんてしていたら勝てないと思っているのだろう。おそらく彼女は王子の能力は把握済み。旅をしてきたとはいえ、その技量などはまだまだ王子の方が上だと考えている。だからこそ、相手がエメナ王女の動きに戸惑っている間に決着をつけようとしているわけだ。


 とはいえ、少しでも勢いが止まれば間違いなく窮地に陥る……不安要素の高い戦い方ではあったのだが、俺達は援護に入るべきかという相談をしなかった。

 というより、必要がないと悟っている……王子と王女の攻防を見ていて、これで決着がつくと察したためだ。数え切れないほど戦い続けてきたからこそわかる、不思議な感覚だった。


「――はああっ!」


 エメナ王女が声を発する。怒濤の攻勢に対しリヴィナ王子は苦虫を潰したような顔を伴いながら防いでいく。だが圧倒的な攻撃に防御が少しずつ遅れ……やがて、エメナ王女の剣が王子の剣を弾き飛ばそうとした。

 リヴィナ王子はそうならないところでギリギリ踏みとどまったのだが、二の太刀を決めようとするエメナ皇女に対しては為す術もなかった。今度こそ王子の剣は弾き飛ばされ、剣が地面を転がる。


 それと共に周囲の戦いも決着がついた。王子に帯同していた騎士は全員倒れ伏し、エメナ皇女の仲間は無傷。まさしく完全勝利だった。


「……笑うがいい、エメナ」


 そして首筋に切っ先を向けられたリヴィナ王子は、皮肉を込めて笑う。


「妹を犠牲にしようとした人間の末路がこれだ」

「兄上……」

「ひと思いにやれ。社会的に抹殺される以上、私に生きる理由はない」


 だがエメナ王女の剣は動かない……もしかすると、俺達から何も聞かされていなければそうしたことを実行したかもしれない。けれど、


「……兄上を裁くのは、私ではありません」

「そうか……ならば、勝者に従うとしよう」


 エメナ王女は険しい顔つきとなった後、剣をヒュン、と一閃した。それにより王子は倒れ伏す。苦い終わりではあるが、今回の騒動はこれにて終幕だった。


「……戻りましょう」


 そしてエメナ王女は仲間達に指示を出す。


「これからのことを考えなければいけません……そして、大きな事件を引き起こした兄上のことを、父上に報告しなければ」


 勝ったというのに、王女の仲間達は沈鬱な表情を浮かべる……わかりきっていたことだが、勝ちを喜べる状況ではないからな。

 とはいえ、事件はエメナ王女の勝利に終わった……俺達の作戦はひとまず続けられる状況になった。


 もっとも不確定要素があるため、俺達はどう動くべきか……悩みながらも先へ進むしかない。俺はエメナ王女が動き始める中で、引き上げるように指示を出した。


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