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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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大きな相違

 リヴィナ王子達が迎え撃つ態勢を見せる中、俺達はじっと物陰に潜み動向を窺う……エメナ王女がこの戦いに勝利する……はずであり、介入する必要性はない。

 もし危機的状況に陥ったら……それが物語の流れなのか微妙なところではあるため、判断に困るところだけど、ひとまず露見しないよう密かに介入する手段はカティに考案してもらっている。それを準備しつつ……いよいよ、エメナ王女一行が姿を現した。


「……兄上」

「よくここまで来たな、エメナ」


 剣を抜き放ち、さらに周囲にいる騎士達が散開する。話し合いの余地はない――そういう意思表示だった。


「ここまで来た以上、理解はしているはずだ。決着をつける……雌雄を決め、どちらの考えがこの国にふさわしいか、決めようじゃないか」

「……ここまで来た以上、覚悟はしています。しかし、その上でだからこそ、問うべき事柄もある」


 エメナ王女は真っ直ぐリヴィナ王子を見据え、告げる。


「私が、兄上のお考えと大きく違うことは理解しています……ですがその上で尋ねたい。なぜ、こうまでして私を排除しようとするのか」

「なぜそれを知りたい?」

「最後だから、ですね。どういう決着を迎えようとも……ここで死することになろうとも、それを知らなければならないと」

「……いいだろう。冥府への手向けとして聞かせようか」


 剣は相変わらず握ったままではあるが、リヴィナ王子はそう応じた。


「遺跡から出土した技術……それがこの国に多大な利益をもたらしたことは、エメナもわかっているはずだ。しかしどうやらそのやり方そのものに、納得がいっていない」

「今回の旅路の中で、兄上が用いている技術について学びました。あれは非常に危険なものです。ともすれば、この国の崩壊すらあり得る」


 実際は、世界崩壊だが……さすがにリヴィナ王子に伝えるわけにもいかないため、そのように言及した。


「兄上は生き急いでいる。星神の技術を用いて、何もかも得ようとしている。その急進的な行動は、いつか――」

「身を滅ぼす、とでも言いたいのか」


 リヴィナ王子は小さく息をついた。次いで、


「なるほど、懸念は理解できる。この技術を用いて国は発展したが、技術の全てを解明できたわけではない……解析できていないものの中に、危険なものも混ざっているかもしれない」

「ならば――」

「禁忌に触れる前に、止めるべきだ……そうエメナは考えているようだな。だが私は、そう思わない。危険なものがあれば止めればいい。手に余るものを見つければ、保留にすればいい。技術全てを余すところなく使おうなどとは考えない。この国の発展のために……栄えある未来のためだけに、技術を利用する」


 そこでリヴィナ王子は天を仰いだ。


「かのシェルジア大陸の王女達も技術を見て驚いていた……遺跡に眠っていたものは、間違いなくこの世界のためになることだ。それを止めようとするのは、私が許さない」

「……殺してでも、ですか」

「そうだ」


 返答と共にヒュン、と一度リヴィナ王子は剣を素振りした。

 どこまでも見解の相違……そういう風に王子は説明したいようだが、俺は疑問を抱いた。いくらなんでも今の説明でエメナ王女を狙う理由としては弱い。


 妹を狙うという最悪のスキャンダルを引き起こしてまで……リスクをとってまで行動しようとする理由は何だ? エメナ王女が来て、冥土の土産のように話していてなお、核心部分は語らないのか?

 ここでエメナ王女は沈黙した。リヴィナ王子の主張を、心の内で吟味している様子。


 賢者が見た未来では、どのようにしていたのか……答えはわからないが、その状況と大きく違うことがある。

 それはエメナ王女……彼女はこの戦いの顛末まで知っているということだ。


「……嘘、ではないでしょう。兄上、確かに技術の発展を止めようとする私を疎んじていることは事実だと思います」


 エメナ王女は語る。その瞳は、非常に鋭かった。


「ですが、それだけの理由ではないでしょう」

「他に何か理由があるとでも言いたいのか?」

「ええ……といっても、私のはあくまで仮定の話ですこの旅を通して……得た知識を利用して、推察したまで」


 ――ここは賢者が見た未来で決定的に違う場所だろう。もしここで抱いた結論が物語の流れと同じであったのなら、それは間違いなく物語の枠組みの中で話は進むはずだった。

 しかし、


「……古代の技術に関する情報を持つ人物と話をしたことがあります。そこで様々な情報を得て……あることを、お尋ねしました」

「尋ねた?」

「はい。それは兄上がなぜ私を狙うかという動機とも関係する場所……どれだけ考えても、兄上が私を狙う理由が思い浮かびませんでした。旅の途中で幾度も考えた。ここまで執拗に狙う理由は何なのか」


 リヴィナ王子は黙っている。何を話し出すか、エメナ王女の言葉に興味が湧いたと言うべきか。


「単なる意見対立であれば、私を政治的に失脚させればいいだけの話。そもそも兄上は王位継承権をお持ちである以上、いずれこの国を統べる存在になる。父上も継ぐのは兄上であると明言もしている以上、私のことを排除する理由にはならない」

「なら、どう考える?」

「旅の途上で考え続けても、霧の中に手を伸ばしているような感覚でした。答えは絶対に見つからなかった……しかし、古代の技術に関する情報を持つ方々。その人達と接し、私は古代の技術に関することで一つ思い浮かんだことがあります」


 ……人達と語っている以上、俺達のことも含まれている。つまりここから語る内容は、俺達の存在によって、新たに得た見解ということ。大きな相違――


「星神の技術……現代に生きる私達からしたら、途方もない偉業のものばかり。私としても驚異的な技術として、どういう力があるのか完全に理解できてなかったし、今もその一端をつかんだだけです。けれど、その一端だけで十分でした」


 エメナ王女はなおもリヴィナ王子を見据え、告げる。


「星神の技術……それを用いて兄上が何をするのかはわかりません。結果は不明ですが……過程は理解できました。つまり、私の力……私の持つ魔力の器と言い換えてもいい。それを利用して、兄上は何かを成そうとした……そういう結論に達したのです」


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