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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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待ち構える敵

 翌朝、俺達はリヴィナ王子が動き出したことで行動を開始した。エメナ王女もまた動き始め王都に歩を進めていく。王都近くで騒動を起こせばどうなるかわかったものではないし、そもそも人通りが多いので障害となる存在は皆無だった。

 次いで俺達の方だが、想定通りの時間に所定のポイントに到達。気配を隠し身を潜め、動向を観察することに。


「決戦は昼頃かしら?」


 カティの問いに俺は肩をすくめ、


「どうだろうな。さすがに賢者の未来も時刻までは指定されているわけではなかったしな」


 かといって夜まで待つこともないだろう。エメナ王女はリヴィナ王子の居所がわかれば真っ直ぐ向かってくる。王都からここまではそう遠いわけでもないし、駆けつけるだろう。それは早く決戦をという気持ちもあるだろうが、一番の理由はリヴィナ王子自身が何をしでかすかわからないため。

 そしてエメナ王女は王都へ到達し……伝言を受け取ったかこちらへ進路を向けた。そうこうする内にリヴィナ王子が森へと入ってくる。


 俺達に気付いたら面倒なことになるが……索敵魔法などを使っている様子はないな。現在かなり遠方から使い魔を用いて観察しているのだが、とりあえず使い魔に関しても気付かれている様子はない。


「決戦前で高ぶっているし、気取られる可能性も危惧していたが……」

「ずいぶんと警戒していましたが」


 と、ソフィアが告げる。


「元々、星神に関連する技術を取り込んだとはいえ、私達の隠密行動を察知する能力には至らなかったのでは?」

「確かに、そうかもしれないな。でも俺達としては相手の力量などがまったくわからなかった以上、こうして慎重に慎重を重ねて行動するしかなかったけど」


 まあそれならそれで構わない……少なくとも、かなり遠回りではあるが、俺達にとって理想的な展開に持ち込めているわけだし。

 やがてリヴィナ王子が神殿前に姿を現した。その右手にはザックのような物が握られており、周囲には護衛となる騎士がいる。人数は三人。リヴィナ王子は神殿へと真っ直ぐ進み、階段跡の手前で立ち止まった。


「……王子」


 そして護衛の男性騎士が声を上げる。


「本当に、よろしいのですか?」

「当然だ」


 即答する王子。その声音は、冷厳なものだった。


「ここまでやって来て仕損じてきた……次こそ失敗は許されない」

「ですが、今まではあくまで間接的に……王子に影響が及ばない形でした。それに対し今回は――」

「その話は宮廷内でやったはずだ」


 遮るような言葉に騎士は押し黙る。残る騎士二人は質問した男性を咎めるような視線を投げている。

 王子を諫めることができる人間みたいだけど、どうやらブレーキ役は彼だけで、他は王子の判断が正しいという認識らしい……側近でも意見が割れているにしろ、質問した男性のような人物は少数派だろうな。


「エメナは間違いなくここへ来る。少なくとも現時点で証拠は何一つないからな」


 そう述べてリヴィナ王子はザックを傍らにある草むらに放り投げた。


「城に残っていた情報については全てここにあるな?」

「はい、全て」

「ならば、燃やせ」


 指示に従い騎士の一人が炎の魔法を用いてザックを焼いた――あれはエメナ王女を暗殺しようとするための手紙とか、情報のやり取りの証拠なのだろう。それを焼いている……ただ、あれを焼いたからといって全ての証拠がなくなるというわけではない。

 というのも、手紙などをやり取りしていた側に証拠が残っている……リヴィナ王子としてはやり取りしている人間に手紙などは破棄しろと命じているはずだが、中には残している者もいた……賢者が見た未来の筋書きによれば、王子を倒しエメナ王女は直接国王――つまり父親に嘆願する。城内に証拠がないにしても、さすがに娘の証言……つまり狙われていた事実を無下には当然できないので、早急に調べ証拠が出てくるというわけだ。


 現時点でリヴィナ王子としては証拠隠滅は完璧だと考えているだろうけど……やがてザックが消し炭になった。王子をそれを一瞥した後、


「後は待つことにしよう。そう時間は掛からない。一時間もしないうちに来るだろう」


 その言葉は間違いなかった。エメナ王女とその仲間はかなりの速度でこちらへ向かってきている。決戦まで残りわずかだ。


「……王子自ら、戦うということでよろしいのですか?」


 リヴィナ王子に先ほど質問した男性騎士が問い掛けた。


「ああ、直接引導を渡す」

「報告によれば、仲間を引き連れています。私達だけで対応するとしたら――」

「問題ない。こちらには」


 と、王子は懐をまさぐる。


「……これがあるからな」


 そして取り出したのは、ピンポン球くらいの大きさを持った青い球体。何だろうと思いつつ、おそらく星神由来の道具であることは予想できた。

 もしかすると魔物を生成するような道具かもしれない……それならエメナ王女が仲間を伴ってきても、護衛と彼だけで対処できそうな雰囲気ではある。


「私はエメナを仕留める。お前達は周囲の人間を始末しろ」


 指示に騎士達は頭を垂れた。諫めていた騎士も仕方がないとばかりに指示に従う様子だった。

 そして彼らは周囲を警戒しながら、王女が来るのを待つ……ふと、ゲームではボスがこうして待ち構えているケースが散見されたわけだが、現実になってみるとなんだか奇妙な感じに思えた。


「……ルオン、どうしたの?」


 気配を察したのかリーゼが問い掛けてくる。


「あー、いや……主人公を勝ち構えているボスってこんな感じなのかなあと」

「ボスって何……? まあいいわ。確かになんだか、奇妙な絵面なのは間違いないけれど」


 だからといって緊張感がないというわけではない。むしろ俺達が見つからないかこっちがヒヤヒヤするような有様である。


「カティ、もし騎士がこっちに近づいてきたらどうする?」

「誤魔化せるけど、見つかるリスクを考えたら接近されるのは嫌よね」


 そんなカティの言葉と同時――エメナ王女がとうとう森に辿り着く。それと同時にリヴィナ王子も使い魔か何かを用いていたか、


「……来たぞ」


 小さく呟いた。


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