戦いに対する責任
五大魔族に今から挑む中で最大の問題はラディの存在。この流れだとまず確実に共に戦うことになるだろうけど――
「……ネストル」
「ああ、わかっているさ」
ラディの声に応じるネストル。
「戦いに参加するって話だろ?」
「ああ。さすがに放っておくのもね」
「一緒に戦うということでいいのか?」
シルヴィが問う。するとラディは頷き、
「ああ、こっちがよろしくと言うような状況かな」
――ラディと共に戦うとなれば、当然五大魔族ベルーナとの戦いも彼と共にということになる。つまりレドラスの時と同じく賢者の血筋が二人いる状態で戦うことを意味している。もしベルーナを倒した場合どうなるのか、考慮しなければならない。
以前レドラスと戦った際、アルトとソフィアの二人がいて、ソフィアに力が宿る結果となった。レベル、トドメを刺した人物、倒した時点における五大魔族との距離、魔力の保有量など、考えられる余地はいくらでもある。
もしラディに魔力が宿ったとなると、それは魔王が大規模魔法を行使し大陸が荒廃することを意味する。それを防ぐためには、ソフィアに力が宿るよう調整しなければならない。
完全なランダムという可能性がゼロではない以上、確実なものとするためにはラディがベルーナとの戦いに参戦しないことが一番なのだが……ここで「俺達は独自に動く」と言っても、彼らは別口で戦いに赴くだろう。
二人とは別行動でいた方がいいのか、それとも同行させた方がいいのか……ベルーナとの戦いにおいて、城に入るまでは乱戦となる。俺もできるだけ城へ行けるよう動くが、別行動だとすると俺達よりラディが先に城に入り込んでしまう可能性もゼロではなく……そうなると彼が死ぬ場合を含め、取り返しがつかなくなるケースだってあるだろう。
この辺りの判断は非常に難しい……確実にソフィアへ力を宿らせるには彼がいないのが一番なわけだが――
色々と考える間に、ふと思うことが。他の主人公はどうなっている?
「明日情報を集め、俺達も参戦できるように動くとしよう」
思案する間にラディが提案。ソフィア達も同意し……ひとまずお開きとなった。
夜、俺は「外に出る」と同室のラディ達に話し、町中を歩く。静まった通りを黙って歩いていると、横から声が。
「ご用ですか?」
事前に呼んでいたレーフィンだ。俺は小さく頷き、通りを外れ適当な場所で立ち話をする。
「五大魔族についてだが……」
「ラディさんについて、ですね?」
「ああ。レドラスを倒した時ソフィアに魔力が宿った。俺達は彼女に魔力を宿さないといけないわけだが……」
「とはいっても、状況的に彼を外すのは難しいと思うのですが」
「まあ、そうだな……それに、もう一つ懸念がある」
「懸念?」
聞き返したレーフィンに対し、俺は説明を始める――どうも、ラディ以外にもフィリが動き出しているらしい。
しかも彼はゲーム上に存在していたイベントの流れに沿っている――ゲームでベルーナとの戦いに加わる場所は別の町。そこを訪れフィリ達が戦いに参加しようとしている。
「フィリという方々に先を越されては元も子もありませんね」
「ああ。ベルーナとの戦いは最初乱戦になる。物語の中で主人公達はスムーズに城まで到達したが、他の騎士や戦士は阻まれてしまうため、彼とその仲間だけで居城に入る。俺達がどういう状況で戦うかはわからないが、フィリのようにスムーズに行けるかどうかわからない。もし阻まれた場合、魔物を素早く倒せるだけの戦力がないとキツイだろう」
俺が本気を出せばその辺りは解決するが、今度は魔王にこちらの力が知れ渡る危険性が出てくるためやめたほうがいい。無論力を制御した状態で最善を尽くすが、乱戦である以上ソフィア達の力も必要だろう。なおかつどういう状況になるかわからないため、ソフィアの無事を考えるなら戦力は多い方がいい。
やはり判断が難しい……感想を抱いていると、レーフィンが質問した。
「五大魔族が率いる魔物について情報は?」
「現段階で居城周辺にいる魔物は元々生息していた奴しかいない。つまり、まだ判断できない」
「ならばラディ様達と協力し、城へ行くよう善処しましょう。入った後はソフィア様に御力が宿るよう、全力を注ぐしかありませんね」
「……それしかないか」
息をつく。戦いの中でできることは、ソフィアを今以上にレベルアップさせることか。魔力が宿る人物がどう選ばれるかわかっていない以上、できる限りのことをするしかない。
「……一応、魔力の誘導についても試みましょう」
レーフィンが言う――もし賢者の力が精霊によって変わるのであれば、色々考えずに済むのだが。
「できるのか?」
「わかりません。レドラスの戦いの時に試すこともなかったので」
「わかった……ひとまずあらゆる可能性を想定して、今回の戦いに加わろう」
「はい……ですがルオン様、最悪の事態も想定しておくべきかと」
「最悪……ラディやフィリに力が宿ることか」
「はい」
ベルーナを倒すのは通過点であり、最大の問題は俺が懸念する魔王が強化されるパターンになることを防ぐわけだが……そうなってしまう場合のことも、今のうちに考えておいた方がいいというわけだな。
頭が痛いと思いつつも、こういう流れになった要因は俺にも一端がある。責任は持つ。そしてどういう事態にも相応の手段を講じる――
「レーフィン……心積もりだけはしておく。ともあれ現時点でベストなのは、乱戦の中で一番に城へと入りベルーナを倒すことだ」
「わかっています。しかし、もしフィリという方が物語の流れで訪れるとしたら、先行しても後続からやってくるのでは?」
「先に入った方が主導権を握れるだろ? ただ、成功失敗両方考慮しておくべきかな……」
今回の戦いは様々な国が同時に仕掛けるため戦況が非常に読みにくいというのが問題……レドラスの時とは異なり、臨機応変に動く必要がある。
「レーフィン、大変だと思うけど頼む」
「わかりました」
こうして会話が終わり――俺は深呼吸をしつつ、宿へと戻った。
翌日、行動を開始する――イベント発生場所についてはゲーム上とは異なる場所へ行くことになるが、戦いは問題なく始まるだろう。
情報を集め、向かったのはベルーナを倒すべく用意されたラムシード王国の駐屯地……ベルーナは様々な国の国境が集まる場所に拠点を構えている。とはいえ中には魔族の強襲を受けダメージを負っている国々も存在し……だからこそ、人間側は足りない兵力を連合することで補ったという形だ。
連合軍はベルーナの居城へ取り囲むように一斉に攻撃を仕掛ける……相手もまた迎え撃つのだが、ここで彼女は分断を図る。例えばレドラスは賢者の力を利用した絶対的結界を自身を守るために使っていた。だがベルーナの場合は包囲された状態で交戦するため、防衛ばかりではまずいと考え攻撃に転用した。
自身の魔力を大地の奥深くだけでなく地表にばらまき、それを経由して賢者の力を持つ結界を行使する。それは連合軍の連携を封じるための策で、絶対防御の結界が邪魔をして各国の軍は連携がとれなくなり、魔族の襲撃によりダメージを与える、というわけだ。
しかし、これは人間側に良い面もある。賢者の力を外に拡散しているため、ベルーナ自身はレドラスのように結界を行使することができない。その中主人公達は敵の猛攻を突破し居城に到達。ベルーナと相対し倒す……というのが、戦いの流れとなる。
俺達は昼前くらいに目的の駐屯地へ到達する。既に騎士や雇われた戦士が戦う準備を進めており、物々しい雰囲気に包まれている。
「さて、どこに話を通せばいいのか」
ラディが周囲を見回し呟く。すると正規の兵士が気付き、俺達へ近寄って来た。
「討伐隊志願者ですか?」
「はい、そうです」
俺が応じると兵士は一礼した後、説明を始める。
「助力、感謝いたします……ガーナイゼの戦士や傭兵の方々には我ら軍に追随するような形で行軍するようお願いしています」
「わかりました」
「では、手続きを」
兵士に促され、手続きを済ませる……これで討伐隊に加入するのには成功した。今日の午後ガーナイゼからの戦士が来たら動き出すとのことで、それまで待機ということになった。
さて、戦闘が始まったら常に戦況を把握する必要がある……特にフィリの状況については動向を把握しておく必要があるだろう。俺は使い魔との連携を密接にしつつ、行軍が始まるまで待つことにした。




