言うは易く
翌日以降、エメナ王女が出立したのとほぼ同時期に俺達はフォルナの屋敷を離れた。精霊ウィスプの翻訳についてはひとまず待つしかないので、フォルナに任せることにして……俺達はエメナ王女の後を追う。
「まあ基本的に使い魔を通してだから、鉢合わせとかにならないけどな」
旅を始めて一日目、俺達はフォルナ達が滞在する町とは別所で宿をとっていた。夕食をとりながら今後のことを打ち合わせする。
「王都へ踏み込むより前にリヴィナ王子も動き出す……決戦は王都から少し離れた場所だ。俺達は距離を置いて観察して、リヴィナ王子が変な動きをしても対処できるようにはしておく」
「変なって、具体的には?」
スープを飲みながらカティが問い掛ける。
「例えば王子が逆上してエメナ王女へ斬りかかるとか……俺達は賢者が見た未来……俺が言う物語通りに進めるべく作戦を組み立てたわけだが、その中に王子の真意を聞くということは入っていない。つまり、このこと自体は物語の枠外ってことだ。そうなったら当然、想定外のことが起きてもおかしくはない」
「それに対処するために……ってことかしら。でもそうした場合、私達の存在が認知されるわよ?」
「直接的な介入じゃなくてもいい。ラディやシルヴィに密かに援護させるとか、あるいは使い魔を用いて……やり方は今のうちに決めておいた方がいいかな」
「なんというか、大変ねえ」
と、リーゼが頭をかきながら言及する。
「筋書き通りに……そうするために、色々と立ち回らないといけないというのは……それほど難しくないと思っていたけれど、思わぬ形で色々な出来事に対処を迫られる」
「言うは易く行うは難し……ってところだな。ただまあ、そこまで神経質になる必要はないと思う。エメナ王女が危機的状況に陥ることに注意すれば、たぶん筋書き通りに話は進むさ」
「それは経験者だから何かしら根拠があるのかしら?」
リーゼの質問に俺は肩をすくめる。
「そういうわけじゃないけど……魔王との戦いにおいては、俺が動き回っても大勢にそれほど影響はなかった。もし俺が本気を出せば無茶苦茶になっていたと思うけど、存在を知られないのであれば、やりようはあるって話だ」
「実際、物語の大枠から外れてもなお、魔王を打倒できましたし」
ソフィアの言葉。彼女の存在自体、予定外だったわけだが……その彼女が最終的に魔王を討った。それを踏まえれば、今回のこともよほどのことがなければ物語通りに進むはず。
「そうだな……魔王との戦いと比べて、エメナ王女の旅路は比較的わかりやすい。それに辿る道筋が一通りだ。俺達が場をかき回さなければ大丈夫さ」
「魔王との戦いの時は、選択肢があったのよね」
リーゼが述べる。俺は即座に頷き、
「そうだな……どういう形で戦いが進んでも良いように俺は動いていた。結果として、想定外な形になってしまったけど」
「私ですね」
ソフィアは苦笑しながら言う。俺も彼女と同じ表情をして、
「そういうこと……ただ、これはこれで話がわかりやすくなったかな、とは思ったけどさ。そもそも魔王を倒す条件は、普通なら達成することは難しい……それを結末を知る俺が、魔王を討てる資格を持つ人間と一緒に旅ができたから、比較的良い道筋を選べたわけだ」
リチャルのこともあるし、現実的に魔王を討つ条件を整えるのは難しかっただろうしなあ……と、魔王との戦いとの比較についてはこのくらいでいいか。
「俺が言いたいこととしては、今回の戦いにおいてそれほど気を遣う必要性はないってことだ。俺達は全員どうなったらまずいのかは弁えているし、戦闘能力もあるから不測の事態にも備えられる。魔王との戦いと比べたら、今回の作戦はそう難しくはないさ」
「ルオンがそう言うのなら、私はとやかく言わないわよ」
と、リーゼは引き下がった。カティやフィリなんかも納得顔なので、方針に賛同で良いようだ。ここで意見対立とかしても問題だからこれは良かった。
「とりあえず、この旅の方針ですが」
と、フィリが俺へ向け話し出す。
「エメナ王女に追随する形で移動を重ね、道中問題が発生すれば都度対処、ですか」
「そうだな。リヴィナ王子側もエメナ王女の動きは察知しているだろうし、俺達は下手な動きさえしなければ見つかることもないだろ。ただ、王都周辺に俺達の顔を知っている人間がいる可能性はある。町中で遭遇すると面倒だし、顔を隠すか魔法を使って対処するかした方が良いかもな」
「服装を変えて適度にメイクとかすればいいかしら」
リーゼの言及。まあそれでも良いけど。
「遠目から見られても誤魔化せるかもしれないが、偶然顔を合わせてしまったら……という場合、露見する可能性はゼロじゃないな」
「用心深いわね」
「複数で行動する以上、露見するリスクは常に考えないといけないからな。魔王との戦いと大きな違いはそこだな……変装方法とか、今から改めて協議するか。何か購入する物があれば、今のうちに対処できそうだし」
「そうね……具体的な方法はルオンが指導する?」
「女性陣の変装方法はそっちに任せるよ。とにかくバレなければいいわけだし、自由にやっていい」
「なら、今のうちに決めちゃいましょうか」
リーゼはそう言うとソフィア、カティと和気あいあいと会話を始めた。それを見ながら俺は食事を進める。そこで、
「こちらはどうします?」
フィリから問い掛けが。うーん、変装なあ……。
「顔立ちを変えたいところだけど、魔法を使うか?」
「そうした魔法を使えるか怪しいですけど……」
「ああ、確かに付け焼き刃で習得して失敗したら目も当てられないな……維持が簡単な程度の魔法と、着替えるのと合わせ技でいくか。食事の後にその辺りのことを教えよう」
「はい、お願いします」
……万全を期するために、不安要素は排除しておくべき。そう思いつつ、俺達は試行錯誤を重ねる。
ただ女性陣の会話はなんだかどうコーディネートにするかという、衣服の方に終始している感じだ。まあバレなければ何でもいいけど……ソフィア達の会話を聞きつつ、俺は食事を進めることとなった。




