王女との再会
そしてエメナ王女が領主フォルナの屋敷を明日、訪れる……そうした時がとうとう到来し、俺達は準備を行う。といってもやったことは俺達が滞在しているという痕跡を消すことだったのだが、相応の時間滞在しているので、色々と大変だった。
「王女も宿泊はするのか?」
「そこは不明だが、頼まれたら断るわけにはいかないな」
俺の疑問にフォルナはそう答えた。まあ当然だな。
「よって、屋敷へ泊まる場合は王女だけを連れ出してそちらと引き合わせることにする」
「わかった。もし屋敷を出る場合は?」
「ここを訪問して宿のある街まで帰るというだけで一日仕事くらいにはなる。ならば王女が滞在する宿まで赴いて、話をするでいいだろう」
そうだな……うん、そういう方針で問題はなさそうだ。
そして俺達は作業を終えて、間借りしていた部屋から移動する。端の方へ部屋を割り当て、その日は就寝。
翌日、朝食をとって王女の動向を観察していると……いよいよ屋敷へ近づく一行の姿があった。
この旅で王女の姿もたくましくなっているだろうな……俺はフォルナに「頼んだ」と告げ、部屋で待機することに。ちなみにシルヴィとラディは別所で待機。その辺りのことはエメナ王女に伝わっていないようだけど。
そして屋敷を訪ねる面々が……一瞬だけ窓の外を見ると、旅装に身を包む王女と、その仲間達。王女を含め六人で旅をしており、核心的な情報を求めてここまでやって来た。
現状の領主フォルナだが、賢者が見た予知と比べても多くの情報を持っている。星神のことを含め、俺達のこともあるし……ただ、フォルナは必要以上のことは話さないと俺達へ明言した。王女に席を設け話す以上、仲間達もそれを聞くことになる。俺達はあくまで王女だけと話をしたいため、核心的な部分については、仲間達が離れた時に行うわけだ。
王女が屋敷を訪れたのは昼前。どのくらいの時間になるかはフォルナもわかっていないし、場合によっては夜を迎えるかもしれない……そんなことを考えていると、部屋にカティが訪ねて来た。
「領主から伝言よ。王女は今日、ここに泊まるらしいわ」
「なら夜、どこかに部屋を用意して話し合いかな?」
「そういうことになりそうね……誰が話をする? 全員? それともメンバーを厳選する?」
「一度俺とソフィア、それにリーゼは顔を突き合わせて町中を歩いている……三人と領主フォルナで問題ないだろう」
「わかったわ。時間が来るまで私達は待機ね」
カティは頷いて部屋へと戻った。さて、いよいよだな。
その日は星神に関する調査もせず、夜を迎えた。領主フォルナも王女ということでそれなりに歓待している様子で、食堂から声が漏れ聞こえてくる。とはいえ、決して明るい話ではないだろう。なぜならエメナ王女はこれからリヴィナ王子と決戦を迎える……つまり肉親との戦いが待っているわけだから。
一方で俺達は時間が来るのをひたすら待つことに……俺達の存在はフォルナが話をしなければ出てこないと思うが……人の気配が多いとか指摘されれば、星神の研究者とか食客とか、そういう適当な理由で応じてくれるだろうか。
やがて、夜も深くなってきた頃に部屋へフォルナがやって来た。
「準備は?」
「いつでも……どこで話を?」
「部屋を用意した。案内するから先に入っていてくれ」
「王女にはどういう理由で部屋へと案内するんだ?」
「王族にまつわる話と。今日話をした際に王族の中にも何かある……という含みを持たせたので、王女は食いつくはずだ」
なるほど。で、王族内の話なので他の仲間には聞かせられない……ってところかな。
俺は頷き、廊下出てきたソフィアとリーゼを伴い客室へ。俺達が移動した部屋とそれほど距離のない場所で、屋敷の端の方である。
明かりを灯し、俺達は待機。少しばかり緊張してきたが……この作戦の要はここである以上、しっかりとやらないと。
「誰がメインで話をする?」
リーゼが問う。彼女は俺へ視線を移し、
「ルオンでもいいけど、ソフィアの方がエメナ王女としては親身になれるかもしれないわよ?」
「微妙なところではあるが……ソフィアはどう思う?」
「私達二人で、ということでよろしいかと。ルオン様の素性も含め語ることになりますし、私だけでは説明不足になります」
「そうだな……リーゼは?」
「私はもし説明に不足があると判断したら、指摘するわ」
「一歩距離を置いた立場ってことか。うん、それがよさそうだ」
俺は承諾し、ソファに座った。ソフィアは俺の背後に立ち、リーゼは窓際で景色を眺める。部屋の明かりは魔法なので風で揺らぐようなことはないが……時折、魔力の変化によるものが光量に変化が起こったりする。
その辺り少し調整するか……と思って立ち上がろうとした時、部屋の扉が開いた。
「こちらだ、王女」
「どうも……それで、話とは――」
そこで人がいることに気付いた。次いでエメナ王女は俺達のことを見て……驚いた。
「皆さん……!?」
「どうも、エメナ王女」
「お久しぶりです」
俺とソフィアが告げると、エメナ王女は少し戸惑った表情を見せた後、合点がいくような顔をした。
「なるほど、あなた方がここにいる……それは、偶然ではなく、必然なのかもしれませんね」
「その辺りの事情を含め、作戦会議をしたい」
「わかりました……ただ、私の仲間は――」
「領主フォルナは王族絡みと説明しただろう? さすがにその辺りを事細かに説明していいものか判断つかなかったからな……今回はこういう形になった。エメナ王女の仲間に話すかどうかについても、ここで協議させて欲しい」
「わかりました」
フォルナが扉を閉め、エメナ王女が俺の対面に座る。ソフィアが右、リーゼが左へ座り、領主フォルナはエメナ王女の隣に着席した。
さて、どういう風に切り出すか……少し迷いながら口を開こうとしたその時、こちらが話をするより先に、まずエメナ王女が俺達へ向けて口を開いた。




