技術の解析
精霊ウィスプが古の記憶を保有している――そのことから、星神のことについて知っている可能性は十分ある。俺達が訪れた群れを統括する精霊エルアは別の群れが保有する記憶についてはわからないと答えつつも、
「リーベイト聖王国に手を貸した精霊のいる群れは、どちらかというと人間と関わろうとしている者達だ。何の目的があるのか不明だが、そこに星神のことが関連しているかもしれない」
「星神を地上に降臨させるために……活動していると?」
「そこまでは言っていない。しかし、あり得るかもしれない」
俺の質問に精霊エルアは難しい顔をした。ふむ、精霊ウィスプと出会ったことで、星神に連なる敵の存在が浮かび上がってきたか。
「一方でここの群れは人間と深く関わっていた時期もあるが、現在は俗世との関係を断っている。別に理由があるわけではないが……過去に狙われていた時期もあったからな。人間側が私達に対しどういう気持ちを抱えているか……その辺りを調査し、今は動かない方が良いと判断した」
「その方針はあなたが?」
「そうだな。長である私が方針を決めている。もっとも、私とてこれが正解なのだと断定しているわけではない。場合によっては同胞から反発にあうかもしれないと思っていたのだが、ひとまずそういう騒動には至っていないし、人間が来たからといって追い返しているわけでもない。中立的な立場だな」
ここの群れは安定しているってことか。ひとまず俺達が来訪したことで騒動になることはなさそうだ。
ふむ、現状で目的は達成したので後はよろしくと言って帰ってもいいのだが……どうしようか思案していると、ソフィアが口を開いた。
「もう少し話をしても構いませんか?」
「ああ、いいだろう」
「現状、わかる範囲で良いのですが……精霊ウィスプの他の群れの動向はどの程度把握していますか?」
「基本的にはすみかにこもって何事もなく過ごしている。むしろリーベイト聖王国と関わっている群れが例外というくらいだ」
「そうですか。少なくとも、他の群れに人間と関わっている精霊はいないと」
「そうだな。もっとも、私も全てを把握できているわけではないため、見えないながら何かしら動きはあるかもしれない」
「わかりました、ありがとうございます……ルオン様」
「何か気になることが?」
「少し疑問が。ルオン様を含め、疑問に及ばなかったところですし、そもそもそこについて考える必要性は薄かったかもしれませんが……リーベイト聖王国はなぜ、こうも技術を発展させたのでしょうか?」
技術。それは遺跡で得た星神関連の情報を指しているわけだが、
「精霊ウィスプのおかげで技術の解析が進んでいる……これ自体は特段疑問に感じるところはありません。問題は速度です。およそ数年……星神の情報を解析して、国に技術を浸透させて発展させたわけですが、その速度が早いように思えるのです」
俺は夜の繁華街を思い起こす。王都で見た景色。あれはまさしく、他の場所にはない聖王国が過去の技術を掘り起こして手に入れたもの。
「単純に模倣するだけではありません。足りないものは補って再現している……現状では再現不可能な技術だってあるはずです。しかし多くの技術が蘇り、多数の恩恵をもたらした……現状は発掘した情報の中で簡単な部類の技術かもしれませんが、普及させたにしては……」
「なるほどな……ソフィア、それはもしかして城で技術を目の当たりにして疑問に思っていたりしたか?」
「引っかかりは感じました。もちろん、顔には出しませんでしたが」
「確かに、少し危なっかしいような気はしたわね」
続いてリーゼからの言葉。危なっかしい?
「古代の技術を利用するのは良いのだけれど、安全性は問題ないのか。そこについて商談の際に疑問を呈したのだけれど、大丈夫の一言で済ませていたわね」
「それで納得したのか?」
「貴族達は他ならぬ王族のお墨付きがあるから、と言い換えることだってできるでしょうけれど……肝心の王族だって星神の技術全てをつぶさに把握できているとは思えない。ソフィアの言う通り、技術を解析してからの利用は早い。リヴィナ王子という後ろ盾があるとはいえ、少々強引に技術を普及させようとしているかも」
「仮にそうだとして……どういう結論が導き出される?」
「――星神を復活させるために、誰かが聖王国に技術を教え発展させている」
と、精霊エルアが話した。
「そういうことで良いか? 二人の王女」
「そうですね……もちろん、あくまで私なりの推測です」
「決してゼロではないでしょうね」
ソフィアとリーゼは相次いで表明。なるほど、そういうことか。
「ルオン様、どう思われますか?」
「……賢者の未来では出てこなかったよな?」
「確かにそうですが、賢者様とて何もかも見通すことができたわけではないでしょう。予言の能力だって、きっかけと結果が主であり、その過程の多くは省かれている。その中で陰謀が渦巻いていたとしても、何ら不思議ではありません」
……俺達は星神がどのように降臨するか知っている。ただその行き先はあくまでエメナ王女が中心。彼女の行動をどうするかによって、俺達は方針を決めた。
賢者の未来も彼女の行動により出現するという結論だったからこそ、彼女の動向を注視したわけだが、確かに彼女のあずかり知らぬところで何かあってもおかしくはない。賢者の能力であっても、限界があるかもしれない。
「なら、仮にそういった勢力があると仮定しよう。俺達はどう動くべきだ?」
「エメナ王女の旅路に……そして戦いの展開にどこまで関わりがあるのかですね。現在、表面上エメナ王女は私達が想定する通りに動いています。しかし私達がいることで、王女を狙った貴族のように予想外の勢力が出ている。それを踏まえれば……一番懸念すべきところは、精霊ウィスプを始めとした星神を支持する勢力……彼らが私達のことを知っているかどうかです」
星神と戦う俺達を、か。もしそうであれば、前面衝突になる可能性があるな。
現在のところ、俺達の行動はバレていないはず。けれど、いずれ白日の下に晒される……そうなった際、どうなるのか。
懸念の種が増えた形だが、今この時点で想定できたのは良かったかもしれない……そんな結論を抱き、俺達はなおも話し合いを続けることとなった。




