ある人物の仕込み
案内により通されたのは、精霊ノームのように岩をくりぬいて作られた集落。その中にある一室を訪れると、会議室のようにテーブルと椅子が並べられていた。
「あなた達が来訪者か」
そして部屋の中にいたのは金髪の男性……ただその身長は俺と同等で、少年ではなく大人だった。
「私はこの群れの長、エルアだ。手を貸して欲しいという話でここに来たようだが」
「ええ。古代の道具について調査をしていまして」
俺達は着席して会話を始める……で、当のエルアは俺達を見て目を細めた。
「……身なりからすると旅人のようだが、単なる冒険者ではないな?」
う、うーん……これ、もしかしてこちらの素性を探ろうとしている? そりゃあまあ、突然現われた俺達に対し警戒を抱くのは理解できる……が、俺の説明を受けてそれを信じたのであれば、単なる金目当てということで門前払いしてもおかしくはない。
ということは、精霊エルア自身は何かしら思うところがあって、俺達をここへ招いたのは間違いないはずだけど……果たして何を探ろうとしている?
ここで俺はソフィアやリーゼに相談するか迷った。ただあからさまに密談などできるような状況ではないし、どうやって対処すべきか――
「……何かしら、そちらは考えていることがあるようですね」
けれど俺が何かを言い出す前に、ソフィアが口を開いた。
「私達をここまで招いた以上、邪険に扱うような気はない……人間をすみかの中へ入れるのはそちらにとってリスクがあるはずです。しかし、私達の様子により少なくとも粗暴な者達ではない……よって、どういう素性なのかを判別するために長であるあなたが出てきた。違いますか?」
「……おおよそ正解だ」
「なら、互いの素性を明かす前より一つ質問が。なぜ私達をこの場所に?」
「そうだな……端的に言えば、君達がここを訪れたわけだが、それより前にとある人間がこの場所を訪れた。その御仁が言ったのだ。遠くないうちにこの場所を訪れる人間がいるかもしれない、と。その者達は、古代にまつわる何かを携えてくるかもしれないと」
それは――俺が答えを出すより前に、ソフィアはさらにエルアに向けて話を行う。
「その人物は信用における人物だったのですか?」
「そうだ。私自身は話をしたことはその時までなかったが、どうやらこの場所を訪れたことがあるらしい。保管してある記憶により判明した」
なるほどと理解した。そこでソフィアは、
「……賢者様、ですね」
断定に精霊エルアは少し目を見開き、
「関係者ということで、良いのだな?」
「はい……ルオン様」
「そうだな。賢者のことが出てきたんだ。話してもいいだろう」
というわけで、俺達は本当のことを話すことにした。
結果的に精霊エルアは俺達の事情に納得の顔を示した。で、俺としては話し終えた後で疑問が生じたのだが、
「なぜ賢者はこの場所に?」
エルアへ疑問を投げかける――ちなみに話をする過程で、口調は戻している。
「予言のことについては何も言及していなかった……さすがにその点については私達に喋っていないのだろうが」
俺の言葉に精霊エルアが答えを示す。
「おそらくリーベイト聖王国における技術にウィスプが関わっていることは把握していたのだろう。そこで同じように調べている者達に手を貸してくれ……ここに来たのは古き時代に縁があったのと、何より聖王国に手を貸している精霊がいる場所とは別だから。あなた方の来訪を予期していたかどうかは不明だが、事前に手を打っていたということだろうな」
「数ある仕込みの一つってことか」
「おそらくは」
本当に感謝しなければならないな……領主フォルナのことといい、今回のこともそうだ。
「君達の活躍を知り、この大陸に顔を出すことまで予見し、その上で準備をしていた……私達の所へ赴く可能性をどこまで高く見積もっていたかは不明だが、何かしら遺跡から手に入れたとしたら、その策を講じておく……道筋を作ったのは間違いない」
「そういうことだな……で、精霊エルア。改めて確認だが――」
「ああ、こちらは協力させてもらう」
すんなりと話はまとまった。俺は持参してきたタブレット端末を取り出し、
「扱い方とかは?」
「過去の記憶を読めば自ずとわかるはずだ……この情報機器の中で、特に知りたいものはあるか?」
「当時の映像がこの中に残っている。操作するのに現代の言葉に直すのもそうだが、特にその映像の翻訳が欲しい」
「わかった、いいだろう。どのように処置をするのか保有している記憶と照らし合わせて仕事をさせてもらう」
「期間はどのくらいだ?」
「中身を見なければどうとも言えない。とはいえあなた方にはエメナ王女と話し合う必要があるんだろう? ならば、そちらに注力している間に私達は作業を進めよう」
データ量とかがどの程度なのかを含め、仕事が完了するまでには時間が掛かるかもしれないな。うん、ここは精霊エルアに任せるのが一番か。
「わかった。なら目処が立ったらここに戻ってくる」
「いや、直接出向こう。星神……その点については私達も脅威を感じる。元々賢者から話を聞いて戦線に加わろうと考えていたところだからな」
協力的で助かる……と、ここでリーゼがエルアへ質問をした。
「一ついいかしら? 違う群れとはいえ、同胞の精霊が星神の技術を翻訳している……これについてはどう考えているのかしら?」
「私達精霊も一枚岩ではない。人間は多種多様に政治信条を持っているだろう? エメナ王女とリヴィナ王子という肉親同士の戦いにもその一端は現われている……それは私達も同じだ。翻訳作業に手を貸した者は、技術を利用することに賛同したのだろう。ただそこに、星神の降臨を願っているかどうかはわからない。わからないのだが……」
「どうしたのかしら?」
「不明であるにしても、少なくとも翻訳作業に手を貸していたのであれば、どのような技術なのかは理解できたはずだ。私達は記憶を持つ……つまり星神の降臨について、多少なりとも知っているからな」
確かに……その辺りのことについてエルアの群れがどの程度把握しているのか気になったが――
「私達ウィスプは、例え記憶を保有していても星神に関連する情報は皆無に近い。精霊の中でも、世俗にそれほど関わらなかったからな……ただ今回群れの一つが人間に手を貸した。もしかすると、星神の降臨について……それを狙っている可能性もまた、十分考えられる――」




