表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

850/1082

交渉事

 予定通りの行程を経て、俺達はウィスプのいるすみかへと辿り着く。山岳地帯の一角で、精霊ノームのように洞窟を根城にしているのだが……最近、本当に山ばっかりだな。


「気配はあるけど……俺達のことは察しているのか?」


 洞窟の入口から中を覗き見ているのだが……少なくとも、周辺に精霊の姿はない。

 精霊である以上はこちらの気配を察するのは容易だと思うのだが……とはいえ、例えば逃げる気配があるとか、そういうことはなさそう。


「行くしかないか……」

「そうですね」

「ま、出たとこ勝負といったところかしら」


 ソフィアとリーゼが相次いで告げた後、俺達は洞窟へ足を踏み入れる。外気温と比べてヒンヤリとした空気だが、自然洞窟としては何かぬくもりのようなものを感じる。これはきっと精霊ウィスプの力だろう。

 少しの間、俺達の足音だけが響いていたのだが……俺達はふいに立ち止まる。一度角を曲がった先。そこに、金髪の少年の姿を目に留めた。


 お出ましだな、と心の中で一つ呟いた後に俺達は彼へ近づいていく。


「……精霊、ウィスプでいいんだよな?」

「いかにも」


 少年の姿に似合わない、どこか格式ばった口調で精霊は応じた。


「ここを偶然人間が訪れることはない……我ら精霊に用があるものと推測する。何の目的でここに来た?」


 ――できる限り感情を表に出さないような喋り方だった。これは警戒しているのか、それとも来訪した人間を刺激しないようにするための処世術か。

 うーん、これはこれで反応が見れないので困るのだが……とはいえさすがに答えなければ始まらないだろう。俺は口を開く。


「精霊ウィスプには、古代より記憶を管理しているという話を聞いた」

「それは事実だ」

「その力を使って、翻訳して欲しい古代の道具がある……偶然遺跡より見つけた物なんだが、どういう用途なのかわからないため、いかんともしがたい。そこで精霊ウィスプのことを聞き、ここを訪れた」

「こんな辺鄙な場所まで来るということは、それだけの価値があると?」

「どういう役割の物なのか知りたいってことだ。仮に売り払うにしても、価値をきちんと把握していた方が高く売れるだろ?」


 とりあえず、俺達はリーベイト聖王国とは関係ないという感じでアピールしておく。もし後々本当のことを話すにしても、聖王国側の翻訳者により警戒していたと説明すればいい。


「もし歴史的価値があるとしたら、リーベイト聖王国に売れるかもしれない。どうも古代技術について、色々と研究しているようだから、価値があるかも」


 その言葉で精霊ウィスプは沈黙した。俺の説明を受けて単なる冒険者……という認識でいるなら、少なくとも自分達の生活を脅かしたりする人間には見えないだろう。

 で、もし素性を隠した状態で翻訳作業を手伝ってもらえるのなら、それでもいい。なんだか騙しているような感じになってしまうけど、この際仕方がない。


 さて、相手はどう応じるか……次に沈黙を破ったのは精霊ウィスプだ。


「少し待っていてくれ」


 一方的に告げた後、精霊は俺達に背を向けて奥へと引っ込んでしまった。少なくともこちらの言葉を聞いて応対はしてくれるようだ。門前払いではないだけ良かった。


「どう受け取ったのかしら」


 リーゼからの疑問。俺はそこで肩をすくめ、


「精霊からは何も読み取れなかったな……感情を排し、可能な限り自分達のことは語らないようにしているな」

「そうしなければいけない理由があるのかしら?」

「さあな……まあ保有している記憶から、人間は注意しなければ大変なことになる……とか、そういう認識でいるのかもしれない」


 ここからは相手の出方次第で立ち回りが変わる……果たしてどのようになるのか。

 俺達は待機し続けるのだが……結構時間が掛かっている。もしかすると長とかに連絡しているのだろうか? 単なる冒険者風を装っているわけだが、実はこちらの様子から嘘をついているように感じられるとか……さすがに考えすぎだろうか?


 と、色々考えていると精霊が戻ってくる。


「長と話をしてきた」


 やっぱり確認をしてきたのか。


「結論から言えば、そちらの事情を聞いて納得すれば力を貸すと言っている」

「事情?」

「そちらが語った理由については、筋の通っているものではある……ただ、古代の技術というのは非常に特殊であり、みだりに公表するのはまずい。リーベイト聖王国はそちらと同じように遺跡から情報源を得て、研究をしているようだが……そこには私達と同族……別の群れが関わっている」


 彼らはその辺りの情報をつかんでいるか。


「単なる金儲けのためであれば、こちらとしては協力が難しい。しかし、他の理由であればその限りではない」

「……俺達が、何かしら別の理由を携えていると?」

「長に話したら、そのような可能性があると」


 これは、どういう風に受け取ってよいものなのか……少なくとも聖王国が技術を得て、なおかつ王族の騒動を知っているとしたら、このタイミングで俺達が訪れたことに違和感があるってことだろうか? だとすれば、精霊の長は俺達が王族の回し者ではないかと推測している可能性があるな。

 その辺りの事情を説明することによって、果たして協力してくれるのかどうか……難しいな。


「ひとまず、長と話はできるのかしら?」


 リーゼが精霊へ問い掛けると、


「ああ。まずは直接話をしてみたいと」


 なら、顔を突き合わせてどうするか……ってところだな。リーベイト聖王国が協力しているのは別の群れで、なおかつその群れとあまり関連がなさそうなので、正直に話しても俺達の情報が漏れる危険性は低いと思う。ただ、精霊ウィスプの立場がどうなのか……その他辺りをまずは尋ねてみて、反応は良ければ話を切り出すか?

 俺達は精霊の案内に従い歩き出す。情報を得るためには相手を納得させる必要がある……交渉事と言い換えても良いかもしれない。俺達からすれば、魔物と戦うよりも面倒である。


 ソフィアとかに任せるべきだろうか? なんとなく視線を向けてみると彼女は気付いて見返し、


「どうしましたか?」

「いや……」


 言いかけて、やめた。ここまで来て「ソフィア、後は頼む」とか丸投げするのもどうかと思うし。

 ともあれ、ここまでは順調……とはいえ長の反応次第で状況がひっくり返るので油断はできない……俺は呼吸を整えながら、ウィスプの長の下へと歩み続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ