新たな激動
話し合いの結果、手紙は俺が受け取ることになった――というか、リチャルのことを一番気にしているのが俺であるため必然的にそういう形となった。
「もし正体がわかったら、教えてくれよ」
「わかった」
ラディとそう約束をしつつ……さらに広間を調べる。リチャルがどういう経緯でこの塔にいたのかわからないが、少なくともここを離れたのは間違いない。よって調査という名目の下、物色したのだが……結果、ラディが求めていたような物は何もなかった。
というわけでラディは収穫もなく退散することになったのだが……ここで一つ、彼から疑問だ。
「ルオンさん、さっきの手紙だけど」
「ん、ああ。どうした?」
「内容は師匠からの手紙ってことでいいのかい?」
「ああ」
「おそらくアカデミア出身の人物だと思うけど……どこのアカデミアなのかという情報は記載されているのかい?」
問い掛けに、俺は懐から手紙を取り出して内容を確認する。
「……うーん、固有名詞みたいなものは存在していないな」
「となると、アカデミアの場所は不明か」
「それがわかれば詳しく調べられそうだけどな」
便箋などを調べてみたが、宛名などもない。さらに手紙の文面から地名などにかんする情報もないので、これ以上の情報を得ることは無理だと断定してもいい。
まあ、この手紙を手に入れたこと自体を収穫とし、今はそれでよしとすべきだろう……考えていると、ラディからさらに質問がやってきた。
「ちなみに、内容は?」
「ありきたりな内容だよ。弟子を励ますような文面だ」
研究を頑張れ、という感じのことが書いてあるのだが……俺はなんとなく違和感を覚えた。
「なあ、この手紙ってここで研究し始めて以後もらったのだろうか? 伝書鳩でも使えば連絡はとれるけど」
「なんとなくだが、その可能性は低そうだな」
腕を組み、シルヴィが応じる。
「私としては、リチャルという人物が持ち込んだ本の中に師匠が手紙を忍ばせていた……とかの方がしっくりくる」
「確かに……あ、ソフィア。手紙が出てきた本はどういった内容だ?」
いまだに本を持っているソフィアに質問。
「えっと……魔法の概念にかんする内容ですね」
「アカデミアの必修教科だね。となるとアカデミアで学んでいた時に使っていた教科書かもね……こっそり手紙を忍ばせていた可能性が高そうだ」
ラディは俺が持つ手紙を見据えながら発言する。
「読んで以後も本に挟んであったのは初心を忘れないように……かな。とはいえ読み返している以上彼にとって重要な物というのは間違いないけれど、これを残していくとは余程事態が切迫していたということかな?」
「あるいは、手紙を見なくなって久しく忘れていたとか……まあ、理由については本人に訊かない限りわからないな」
俺はそう発言し、改めて一同を見回す。それぞれ疑問を大小抱いてはいる様子だが、情報源が手紙しかないのでこれ以上話しようがない、というのが実状か。
「……収穫はこれだけのようだし、退散することにしようか」
俺の言葉により全員頷く。そして、塔を出た。
最寄りの町へ赴き、俺達五人は同じテーブルで食事を行う。それぞれが談笑しつつ食事を進めていると、ソフィアが俺に質問を行った。
「ルオン様、これからガーナイゼへ戻りイーレイ様のところで訓練再開となりますが……終わった後、どうしますか?」
「んー、そうだな……そういえばラディ達は今後どうするんだ?」
「しばらくガーナイゼに滞在しようかと思う。そちらは?」
「……ガーナイゼで訓練が完全に終わったら、ウンディーネのところに行こうという考えがあった」
確認の意味を込めてソフィアを見る。彼女は小さく頷き同意を示した。
「ラディ達はどうだ?」
「ウンディーネとは契約していないけど……旅を続けていたし、骨休めもしたいんだよね」
……今回の塔探索でラディとかかわることもできたし、さらにリチャルの情報も得た。成果としては上々で、彼が今後五大魔族に挑むとなればその戦いに参加できる土壌は作り上げたと言っていいだろう。
シルヴィも仲間に入った。自発的に五大魔族を倒しに行くのも手だが……近いうちにイベントが始まる可能性がある。ガーナイゼへ戻る際に情報を集めつつ、それを待つというのも一つの手だろう。
どう動くか……思考していた時、店の一角から喚声が上がった。それは声量もずいぶんと大きい騒がしいもの。
場所は入り口に程近い席。そこには傭兵らしき人物が何人もいたのだが、食事が終わったためか相次いで席を立ち、声を上げながら去っていく。
「……騒々しいですね」
ソフィアが感想を漏らす。心の中で賛同した時、今度は水差しを持ったウェイトレスが近づいてきた。なぜか彼女が申し訳なさそうにしている。
「何かあったんですか?」
半分減ったコップを差し出しつつ俺は問う。彼女は水を足しながら、質問に答える。
「……きっと、大きな仕事が入ったためかと。この町にも昼頃、突然情報が来ましたから」
「大きな仕事?」
訝しげに聞き返すラディ。すると女性は頷き、
「この国が、緊急的に傭兵を募集したのです。おそらくガーナイゼの方にも話がいっているかと」
――現在俺達はガーナイゼ近くの町に滞在しているわけだが、それらの町はラムシード王国という名前の国の領土内にある。
領土規模はそれなりで、なおかつ戦士として経験を積んだ屈強な騎士団がいる。単なる魔物討伐なら傭兵を募集しなくとも問題ないはず。
俺は、予感がした。これはもしや――
「この国の国境付近に……魔族の居城を発見したらしいのです。その討伐に、傭兵達を緊急で雇おうと。少しでも戦力を増やすためだと言われています」
――五大魔族、ベルーナの討伐イベントだ。使い魔でも探れなかった情勢が表に出て、すぐさま戦いが始まる……傭兵を募ったのは、ガーナイゼの戦士を少しでも呼び寄せるためか。
周辺各国の国境付近に存在しているということで、大国であるロザイア王国を盟主とし攻撃を行うという手はず……ゲームでは主人公達がその中に参加し、城に踏み込みベルーナを倒す。
ベルーナについてだが、女神のような姿をした女性型の魔族。剣と魔法をバランスよく使いこなすのが特徴だが……その中で最も危険なのが『カオティックシール』と呼ばれる能力ダウン魔法。全能力をダウンさせる厄介な魔法で、俺もずいぶんと苦しめられた。
能力系魔法を解除する『ディスペルマジック』さえあればそれほど困らないのだが……この魔法は中級でさらに習得難度が高くて覚えないまま戦うケースも多く、プレイヤーの中には五大魔族の中で一番手強いと評価をする人もいた。
能力ダウンを施し、魔法や剣戟で攻撃……攻撃の苛烈さはレドラスの方が上だが、魔法を織り交ぜるため戦い方を変える必要がある。
俺はラディやソフィアを見る。このイベントが発動するとある場所に行くことで五大魔族と戦うことになる。
「……居城ってことは、大規模な戦いになるだろうな」
「ルオン様」
ソフィアがこちらを見る。俺はわかっているとばかりに頷き、
「魔族を倒すというのが俺達の行動理由だからな……ラディさん、俺達はそっちに向かってみるけど」
「訓練の方はいいのか? まだイーレイさんのところで修業は終わっていないはずだよな?」
「それはそうだけど、魔族は待ってくれないだろうからな」
……五大魔族のレドラスと戦ってからそれほど時間は経っていない。この場合ベルーナの能力はそれほど高くなっていないのか、それともかなり上がっているのか。
五大魔族を一体倒すと残る魔族達はそれなりに強化されていたが……これは出現する雑魚敵である程度判断ができるだろう。もし手強い敵が出現したなら、対策の一つも考えないといけない。使い魔を派遣して調べてみるか。
俺はラディとソフィアを交互に見る……まだ問題はある。それらについて、頭の中で検証を開始した。




