三つの情報
『全員捕らえたか……さすが、といったところか』
貴族の私兵が気絶しているのを確認した後、魔法の縄で縛ってから俺は領主フォルナと連絡を試みた。状況を報告すると彼女は感嘆の声を漏らした。
『で、やったのはいいが……問題は彼らをどこに捕らえておくかだが……その様子だと、私の屋敷だな』
「わかったか」
『というより、他に選択肢がないからな』
「さすがに三十人いた場合、改めてどう動くか協議する必要性もあったから、この辺りの対処方法をどうするかギリギリまで相談していたくらいだからな……事後報告になって申し訳ないが」
『いや、想定していた展開ではあったから準備はしている。そちらの場所は把握しているため、近くに馬車を停泊させている。それに乗せて移動してくれ』
用意がいいな。そこで俺が口を開こうとすると、
『そちらの場所が不明であるため、こちらの位置だけ伝えることにする。刺客三人を眠らせたままの状態で、大丈夫なのか少し不安ではあるが……ま、そちらならどうにかこうにか対処はするだろ。というわけで、よろしく頼むぞ――』
最後、なんだかぶん投げたような発言と共に、フォルナとの会話は終了し俺達は撤収作業に入る。まずは魔物の仕業とするための処置。猟師小屋を破壊して、戦闘の痕跡も全て消しておく……破壊具合を見れば魔物の仕業だと役人達は判断するだろう。よって、俺達は問題なしと判断して移動を開始。
深夜の時間帯に、指定された位置に馬車が停泊していたのを目に留めた。男性の御者もおり、領主フォルナの家来だと自己紹介をして、俺達は気絶させた刺客三人を運び入れて移動を開始。
そこからは……距離はあったのだが、問題なく領主フォルナの領地へ入り、屋敷へと到達。屋敷の入口でフォルナが出迎えを行い、
「厄介事は増えたが……まあ星神との戦いに応じるためだ。このくらいは背負うことにしよう」
「悪いな」
「いやいや、そちらの戦う苦労を考えればいいさ……さて、問題は私兵から情報を得られるかどうかだが……」
「どうするんだ?」
「さすがに拷問というのは趣味ではないし、ましてそんなことをする必要性も薄い。ここは記憶を読み取る魔法を使うとしよう」
そんなものが――と思っていると、
「星神の研究の中で手にしたものだ。こうやって言うとなんだか非合法に聞こえるが……書斎にあれだけの資料を得たのは、私が大陸を彷徨い続けただけではないということだ」
なるほどな……ライフワークと称しながら、後ろ暗いことも何かしらあったのかもしれない……、
「ちなみにだが、過去人を殺めたこととかは?」
「さすがにそんな無茶はしていないし、そうであったなら領主などやれていないさ。精々他人から記憶を読み取る程度だ。で、私兵三人については、記憶を頂いた後は少し記憶を改変させてもらうとしよう」
改変か……そちらの方が主な効果のように思えるのだが、詳しいことを聞くことはしなかった。
「そちらが穏当に処理したように、私も穏当に対応することにするさ。ここまでスマートに事を進めたんだ。血生臭い出来事は勘弁願いたいし、自分の屋敷でそういうのは避けたいからな」
そういうことなら……というわけで、俺達は領主フォルナに私兵三人の処遇を任せることにした。
それから俺達は、戦いの結果によりどうなったか、情報収集を行う。結論から言うと、私兵三人の失踪は魔物の仕業ということで片付いた。
領主小屋が破壊されていたことが決定打となった……見事俺達の目論見通りというわけで、貴族側もどうするべきか対応に苦慮。結局、以降はエメナ王女に近寄ることはなくなった。
『というわけで王女の旅は順調だ。それほど経たずして、ルオン達のいる領主フォルナの屋敷へ辿り着くことになるぞ』
シルヴィのこの発言に俺は「わかった」と応じた……いよいよ作戦の時が近づいている。しかし、俺達にはまだやることがある。
領主フォルナが私兵の記憶を探ったところ、大きな情報を手に入れた。まず一つ目が所持していた短剣。戦う最中に予想していたが、間違いなくこれは星神由来の技術が使われている。
貴族はどうやらリヴィナ王子の研究に深く食い込んでいたというわけだ……とはいえ私兵の派遣はあくまで独断。事態の顛末的に王子に報告することはないだろうというのが俺達の見立てだし、実際行動していないようだった。
その中で、短剣については俺達にとっても貴重な情報源となった。これまで星神に関するものはほとんどが情報という媒体だ。その中で物品という形で転がり込んできた。これ一つで星神に対する切り札となるわけではないが、研究を進展させられる材料を得るに至った――というのがガルクの見解だった。
次に二つ目。貴族が私兵を派遣した理由。これは俺達がいたことで、本来の物語に歪みを持たせたことらしかった。どうも貴族はソフィアやリーゼと商談を重ねていた貴族の一人であったらしく、今回のリヴィナ王子の行動に際し、星神の技術をよりよく使えるようにするべく、邪魔立てするエメナ王女を始末しようという魂胆だった。エメナ王女が星神の技術に否定的であることも貴族はわかっていたからこその行動であり、俺達が現れたことによる変化……ということで間違いなかった。よって行動したのは正解だった。
この点については、情報が手に入った時内心でほっとした。これで実は賢者が見ていた未来の枠内ですとか言われたら、それはそれでどうしようかと頭を悩ませていたところだった。ともあれ俺達が対処したことによって、エメナ王女の障害はなくなった。他に動いている勢力もいないし、このままいけば想定する通りの期日にはエメナ王女がフォルナの屋敷を訪れることは確定だった。
そして三つ目。これが非常に大きい――俺達が手に入れたタブレット型の端末。それを翻訳できそうな精霊についても心当たりがあると。しかもそれは、国側と何も関わりがない存在だということで、俺達が干渉できるかもしれないということだった――




