夜襲
ラディの障壁が形成された直後、小屋から反応があった。外部の異変を瞬時に察知……魔力を感知する能力はかなり高いようだ。
そこで敵側が移す行動は……まず窓が開いた。誰からか不明だが、襲撃があった……彼らが考えることとしてはまず間違いなく、エメナ王女にバレたということだろう。探りを入れていることが何らかの形で露見し、先んじて仕掛けてきた。ならば逃げて主人である貴族に報告しなければいけない。
だが窓が開いても、何も起きなかった。それは当然で、窓へ向かって突き進む人間を目に留めたためだ。さて、問題は相手は暗視の魔法を使用しているかどうか。もし使っていないのであれば俺達が圧倒的に優位なはず。それは敵の動き方でわかるはずだが。
窓から逃げられないと判断したためか、相手はどうやら逡巡した。もしかすると迎え撃つか、それとも……そういう迷いがあったかもしれない。俺はその間に小屋の入口へ到達。ドアを蹴破り、中を確認する。
明かりは消されていた。もしかすると自分達の人相がバレたらまずいと思ったのかもしれない。ちなみにこちらはフード付きのローブで顔を隠しつつ、なおかつ幻術も行使しているのだが……相手とは目が合わない。暗視系魔法は使っていない。
そして私兵の三人は窓の二ヶ所と入口へそれぞれ体を向け背中合わせになっていた。俺の正面にいるのが男性。俺から見て右に女性で、左に男性。正面の男性が一番体格も良く、残る男女はどちらかというと細身。町の住人とか観光客に溶け込むためか、それほど特徴のある体格ではない。
そんな三人は、一様に短剣を握り構えていた――装備は一目見た限りでは同じ。あれが星神に由来する武器だろうか……考えつつ俺は小屋へ踏み込む。
室内は閑散としており遮蔽物もない。小屋の隅に隠れるようなことも無理だ――
「貴様らは……!?」
驚愕する男性に対し俺は剣を薙いだ。それを敵は短剣で防ぐ。途端、わずかながら手に変な感触が残った。刃同士がぶつかったことにより、少しだけ相手の魔力が自分に返ってきた。
たぶん、相手の刃を受けることによって、手を痺れさせるとか、そういう効果があるのだろう。武器破壊とか傷を負わせるとかいうよりは、相手を怯ませるような効果が大きいだろう。もっとも出力を上げればスタンガンみたいな効果がありそうだけど。
もし装備が短剣だけなら、俺達にとって好都合だが……足を前に出す。その間に窓からシルヴィとソフィアが入り込んでくる。俺から見てソフィアが右でシルヴィが左。相手はどう動くか――
「――仕方があるまい」
俺と対峙する男性が告げた。刹那、三人が散開する。どうやら一人でも生き残って報告を……そういう腹づもりらしい。
体格の良い男性が突っ込んでくる。俺の刃を弾き、横をすり抜けるという魂胆のようだ。それに対し俺は扉を塞ぐように立って応じる。けれど相手は怯むことがない。
むしろ隙間を狙ってダイブする気満々だが……相手が姿勢を低くして突撃した。この状態だと剣が当たりにくい……のだが、さすがに俺は違う。
俺の剣は正確に相手の体へと叩き込まれようとする。けれどその寸前で相手は短剣で受けた。途端、指先に先ほどのような違和感。それと共に男性は後退した。
「……何故だ?」
男性が呟く。短剣を二度受けてなお、平気なのはどうして……という感じらしい。もしかすると俺が考えているより出力が大きいのかもしれない。並の戦士であれば、もう腕が上がらなくなっているとか……ただ彼の不幸は、目の前の相手が規格外の力を持っている点にあるのだが。
一方でソフィアとシルヴィは攻めない。ジリジリと間合いを詰め、男女を追い込んでいく。敵側も短剣をかざして牽制しながら、どうやって逃げるのか考えている様子。
俺達としては一人でも逃がせば失敗。とはいえ相手にとっても短剣の効果が通用しない未知の敵。双方動かず……数秒ほどだが、膠着状態が生じた。俺の方も攻めるか受けるか……考えていた時、対峙する男性が動いた。
三度突撃し、すり抜けようとする。だがそれを俺は見極め、的確に剣を振る。相手としてもどういう相手かわからない以上、迂闊には攻められない。結局三度目の突撃も失敗に終わる。
ただ、この辺りで相手も目が慣れてきたはず……素性はわからないにしろ、疑問はいくらでも出てくるだろう。
「何者だ?」
俺達は答えない。ただそれでも狙われるという根拠はあるようで、
「なるほど、機先を制すると……どうやって知ったのか興味はあるが、今は離脱が最優先だな」
男性が動く。同時に他の二人も動いた。誰か一人でも――という思惑があったようだが、俺達はそれを阻む。
まず俺の剣と相手の短剣が噛み合った。鍔迫り合いになろうとした寸前、こちらが強引に押し返し、相手は反動で後退する。膂力はこちらが上だと理解したはず。ならば次の一手はどうか。
ソフィアの相手は女性だが、こちらは数度短剣と剣が交錯し――ソフィアの動きは変わらなかった。俺と同じく違和感はあるだろうけど、戦闘に支障はないレベルだろう。
そしてシルヴィだが……こちらは逆に連撃を見舞い、相手をたじろがせていた。やはり短剣の効果は意味を成さず、彼らの戦闘能力の一つを完全に潰していることがはっきりとわかった。
ただ、俺達に多少なりとも違和感を与えている以上、単なる武装ではない……やはり星神由来のものか。彼らを捕まえたら武器についても多少調べたいところだ。ただ、星神関連なのかどうか、判断できるかは……まあカティとかに任せるしかないか。
俺達は無言のまま少しずつにじり寄る。相手は一向に通用しない攻撃に苛立ちを隠せない様子ではあったが……任務を遂行するべく鋭い視線を俺達へ投げてくる。
またも数秒間の静寂……とはいえそれがすぐに壊されることはわかっていた。先に仕掛けたのはまたも俺と対峙する男性。おそらく彼がリーダー的な立場なのだろう。俺を突破するべく、先ほど以上に床を蹴り、俺へ向かって疾駆した。




