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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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塔にいた者

 最初に激突したのはネストル。初戦と変わらず真正面からオーガの攻撃を受け、流し反撃に転ずる。

 その間にシルヴィが斬り込む。まだ俺がかけた攻撃力上昇の魔法が効いているのか、深く斬り込んで放った一撃が予想以上にオーガの動きを押し留める。


 そしてソフィアだが、オーガの攻撃を的確に避け『エアリアルソード』によりダメージを与える。

 次いで放ったのは『清流一閃』であり、背後に回った彼女にオーガはついていけなかったのか、攻撃目標を見失い硬直する。


 チャンス――考える間にソフィアは魔力を溜め、渾身の一撃を加えた。俺は魔力から地属性下級魔導技『アースクラッシュ』だと理解し――オーガはとうとう沈んだ。


 シルヴィもオーガの攻撃を容易に避け連撃により撃破。さらにネストルも攻撃を防ぎつつ対応し、さらにラディからの援護により撃破……だが上へと続く階段からさらなる魔物が。先ほどと同様大蛇である『ブラインドアタッカー』で、数はこれまた三体。


 すぐさまソフィア達は迎撃に動き出す――直後、背後から気配。外にでも出ていた奴がいたのか、階下からここに近づいてくる足音が。


「俺がやる」


 言葉と共に俺は剣を抜く。ソフィア達が『ブラインドアタッカー』に難なく応じているところを確認した直後、階段からオーガが出現した。

 先んじて『ホーリーショット』を放ち、まずはその右足を撃ち抜いた。途端オーガは硬直する。そこへ間髪入れずにラディが『ファイアランス』を放った。火炎が一時オーガを包み……それでも魔物は俺達へ向け進撃する。


 そこに俺が真正面から対峙。豪快に振り下ろされた棍棒を体を横へ移動し避けると、懐に飛び込んで心臓部を狙って突きを放つ。これは魔導技『雷光突き』であり、名の通り雷を含んだ刺突。

 急所を狙った一撃は見事ヒットし、オーガはビクリと体を震わせる。剣を抜き一歩後退した直後、オーガは力を失くし倒れこみ――滅んだ。


「そっちも後衛ながら腕が立つな」


 ラディが言う。見返した時点でソフィア達の戦いも終わっていることに気付く。


 詮索されるかとも思ったが、戦闘中のためかラディはそれ以上訊くことはなかった……よって、俺達はさらに上へと進む。

 その道中ふと考える。ソフィアやシルヴィ、またラディ達もオーガに対応できている。ここから考えるに、少なくとも次の五大魔族の居城に存在する魔物に対抗できるレベルに到達しているのではないかと思う。


 ゲームでは五大魔族は撃破するごとに残った魔族の能力が上がる仕組みになっていた……つまりサブイベントなどをこなし時間を浪費しても、五大魔族の強さは変わらなかった。しかし現実となった今はさすがに時間制限があるだろう。時が経つごとに五大魔族の能力が上がるとすれば、それに対抗できるのは成長性の早いソフィアを始めとした仲間キャラだけだろう。


 そしてエイナ達から得た人間側が水面下で色々と動いているという情報……近いうちに五大魔族との戦いがあるかもしれないが、今の能力ならおそらく大丈夫か――そのように考えていた時、俺達はまたも魔物と遭遇。交戦に入った。






 やがて、俺達は塔の最上階へ到達する。光量を最大にして照らされた広間は、ずいぶんと閑散とした印象を与えるものだった。


「これは……」


 ラディは部屋を見回し呟く。部屋にはベッドや本棚など、生活に使用する家具なども散見されたため、間違いなく魔法使いがここに住んでいたのだろう。ただ不可解な点がある。本棚や木製のデスクなどが存在するのだが、その中にあったのはポーションとか小説などのごくごく一般的な物……研究資料などが見当たらない。


 言ってみれば、ここに誰が住んでいたのかわからないようになっている。


「よほど、自分の存在を知られたくないみたいだな」


 俺は呟きつつ本棚に目を移す。どれもこれも一般的に流通しているもので、目新しいものではない。


「……変だな」


 そこでラディが声を発する。


「仮にこの塔に魔族が押し寄せたとして……それを察知して逃げるまでにそう時間はないはずだ。ここまで綺麗に誰が住んでいたのか痕跡を消すのは、厳しいんじゃないのか?」

「魔族の襲撃がわかっていた、ということでは?」


 ソフィアが部屋を見回しながら声を発する。だがラディは首を傾げる。


「わかっていた……方法も疑問だな。いや、魔族が襲撃を仕掛けたという推測自体が間違っているのか? でも魔物が巣食っていた……」


 俺も頭の中で考える……やはりここには魔法使いのフリをしていた魔族が住んでいたのだろうか。そう仮定すると納得もいくのだが……俺は本棚にある書物を眺めつつ、ラディの言葉を聞く。


「それにもう一つ疑問がある。ここに魔族の存在はないとなると魔物達は何のためにここを守っていた?」


 彼の発した謎に誰もが沈黙する。俺は本棚から目を離し、一つ彼に提言。


「疑問を解決したいのはわかるが……ラディが目当ての物はなさそうだな」

「そうなるね……けど、それならせめてこの不可解な状況については解決したいところだな」

「俺も同意だ。魔法使いは準備を済ませ塔を出て行ったみたいだが、何か残っているかもしれない……探そう」


 というわけで、それぞれが行動開始。とはいっても、広い空間ながら情報がありそうな場所は本棚かデスクの引き出しくらいしかない。よって自然と仲間達はその場所に偏り――


「……ルオン、何をしているんだ?」


 棚から本を手に取りパラパラとめくる俺を見て、シルヴィが質問した。


「本を読んでいるわけではないだろう?」

「例えば本の間に手紙が挟まっている……小説とかではたまにあるケースだよな」

「ああ、確かに」


 シルヴィも同じように本を手に取る。俺は別の本を手に取りさかさまにして何か挟まっていないか確認しつつ、デスクを調べるラディとネストルを見る。

 二重底でもないか確認している様子。けど成果も無く棚を調べている俺達よりも早く作業が終了し……その時だった。


「あ……」


 ソフィアが声。見れば彼女が持っている本から、何かが落ちた。

 それは青色の便箋。どうやら手紙らしい。


「大当たりだな」


 俺は声を上げつつソフィアに近寄り手紙を拾い上げる。ラディ達も近づき、俺は便箋を確認。

 封は切られている。おそらく持ち去るのを忘れた物なのだろう……少々申し訳ない気持ちになったが、中身を取り出す。白い紙が二枚。ただ紙がそれなりにくしゃくしゃで、何度も何度も読まれた形跡がある。


 文面を確認。そこで、驚くべき文字が飛び込んできた。


『親愛なる我が弟子、リチャルへ』

「――リチャル!?」


 声を上げた。以前共に戦ったキャルンから聞かされた名前――


「知り合いかい?」


 ラディが尋ねてくる。それに対し俺は首を左右に振り、


「会ったことはない。けど、旅の道中名前を耳にしたことがある……魔法使いという情報もあったから、同一人物だと思う」

「各地を回る前、ここを拠点にしていたということなのでしょうか」


 ソフィアが広間を見回し言う。俺は「そうかもしれない」と同意を入れつつ、考える。

 リチャルの行動は疑問を感じていたが……彼は魔王を裏切った魔族なのか? なんとなく俺と同じ転生者かと思っていたが……いや、結論を出すにはまだ情報が少ないか。


 手紙の内容は、師がリチャルを労うような他愛もない内容。一瞬暗号でも仕込まれているのかなどと考えたが、確認しようもないので俺達にとってはただの手紙だ。

 しかし、非常に興味深い情報が手に入った……以前から彼について調べようと思っていた以上、ここに来た価値があったなと心の中で思った。


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