領主の意地
最寄りの町へ帰還して、俺達は夕食がてら話し合うことに。
「それぞれの意見を聞こうか……俺としては、調査は続けるべきだと思う。ただ、病院で見つけたような成果を期待するのは難しそうだけど」
「仮に見つけたとしても」
ソフィアが悩ましげに俺を見据え、
「それも結局詳細がわかるためには、翻訳作業が必要なのでは?」
「……端末ではなくて、書物とかならいけそうな気もするけどな……ただソフィアの言う通り、何かしら翻訳作業は必要だろうし、仮にここから時間ギリギリまで遺跡を回って資料を得ても、解読困難ということで間に合わない可能性もある」
「むしろ、翻訳者を先につかまえる方が先かしら」
リーゼが言う。それに対し俺は、
「でも、候補となる存在は精霊……リーベイト聖王国に関連する存在とは出会ったら面倒なことになるかもしれないぞ」
「今回の騒動がひとまず収まったら、できるのでは?」
確かに計画が遂行されたら翻訳作業も捗るかもしれないが、
「そもそも俺達の行動次第では星神の降臨が早まる可能性を考慮して、エメナ王女が来るまでにやれることをやろうって主旨だからな……まあ最悪王族達の問題を片付けた後でもいいと言えばいいんだけど」
となれば、ゆっくりやってもいいのか……? 色々と悩む中で、ソフィアは提案する。
「ひとまずは、強行軍で調査を続行してその結果を踏まえてから判断しますか?」
「ここで判断するのは保留ってことだな……ま、次の場所はそう遠くないし、それが妥当か」
ただ、期待はあんまりできないよな……そんな風に思いながら食事を進めることとなった。
翌日から三ヶ所目の遺跡へ向かう……で、数日後に辿り着いたのだが、そこもまた崩壊しておりまともに情報を得ることは無理だった。
まだサンプルが三箇所分しかないけど、やっぱり病院とかリーベイト聖王国が見つけた遺跡は例外中の例外と言えるだろうな……で、エメナ王女側も色々と動き始めていることを踏まえ、俺達は一度フォルナの屋敷へ戻ることに。
「進捗はどうだ?」
資料の山に埋もれているフォルナへ向け問い掛けると、
「見ての通りだ……予想以上に難航しているな」
「攻略法を探すと言っていたけど、それはできず、か?」
「作業と並行してそちらも色々と動いているが、やはり難しいな……翻訳者を探すことを真面目に考えるべきかもしれん」
「……とはいえ、現状で接触するのは無理だろ?」
「ああ、領主である以上は、翻訳者を特定してここへ招くことも可能だが……それをすれば当然、怪しまれる。目をつけられたら君達の存在も露見する可能性が高いからな」
「とすれば、エメナ王女とリヴィナ王子の一件が片付いたら、ってことか」
「そういう形になるが、その前に作業を終わらせるべく今私達は動き回っているのだろう?」
ごもっとも。まあ前提条件が厳しすぎるので色々と悩んでいるわけだが、それを取り払えばそれほど難しくはない。
「現状、エメナ王女来訪に間に合わせる手段はないか?」
「厳しいな……露見しないレベルで調べてはいるが、公にしない形で動く以上、翻訳者に辿り着くまでにかなりの時間を要するだろう」
現状、どうにもならないわけだ。なら腰を据えてやるのもありか?
「……そっちが星神のことで気を揉むのはわかるけど、バレたら終わりだ。ここは無理せず、じっくりやるのも一つじゃないか?」
「その通りではあるが、私としては退けない理由もある……ライフワークと言ってきたものに対し、満足に調べることもできていないのだ。私としては不甲斐ないし、自分の手でどうにかしたい気持ちもある」
……意地ってやつかな。彼女には星神のことについて調べてきたという強い自負がある。単に趣味の枠としてやっていた程度だと思っていたはずだが、賢者の見た未来の中に、自分の姿があった……しかも星神のことを伝えるという重要な役目を持って。その事実が、彼女に火を付けたのかもしれない。
「けど、現状で打てるだけの手は打っているんだろ?」
「ああ、それは間違いない……が、もう一つ可能性を追っている」
「それは?」
「他の翻訳者……つまり、他に精霊がいないか」
「仮にいたとしても、探すのは困難じゃないか?」
なんだか意固地になっているような気もする……そこでフォルナは俺へ視線を移した。
「そちらの迷惑にならない範囲でやるから」
「……それで納得がいくなら、構わないけどさ」
俺は否定しなかった。ここまでやる気になっているのだ。止める権利などない。
「それで、俺達だが……まだ未踏の遺跡は存在しているが、正直得られる物もないかと考え、調査に注力するべきか迷っているんだが」
「その選択肢もありだな……地図上で遺跡が壊れているのかそうでないかの判断はできないが、病院のようなケースは奇跡と言うべきだろう」
「俺だけ動くというのもありかなとは思ったけど」
「万が一のこともある。行くのであれば、救援態勢がしっかりとできている状況下の方が望ましいだろう」
「……そうだな」
意見に頷いた……古代人の遺跡はわからないことも多い。病院については侵入者である俺達に敵意がなかったので問題なかったけれど、研究所なら牙をむいてもおかしくないのだ。
「ともあれ、一両日中にどうするかは決めればいい……帰還したのだし、今日のところは休もう」
「ああ、そうだな」
ソフィアやリーゼだって、動き回って疲労しているだろう。彼女達は「この程度問題ない」と答えるだろうけど、休息できるのであれば、した方がいい。
明日改めて、仲間内で相談しようか……自室へ戻り、軽く伸びをして椅子へ座る。
とりあえず、現状はそう悪くない。賢者の知識を得たし、遺跡から有力な情報源を見つけた。まあそちらは星神との戦いに役立つかどうかはわからないけど……もし星神と戦っているのであれば、星神が降臨した時の動きなどに対し参考になる情報があるかもしれない。
そうであって欲しいと期待しつつ、その日は休むことにした。明日以降どうしようか……悩みつつ就寝したのだが、その考えについては無意味だった。
なぜか――事態が大きく動いたからだ。




