潰えた文明
エメナ王女が屋敷を訪れるまで時間がある。よって、俺とソフィア、そしてリーゼの三人はフォルナが作業を進める間も他の遺跡について調べていく。一つ目が大当たりだったし、二ヶ所目以降も少し期待が掛かったわけだが……、
「これは駄目そうだな」
「そうですね」
俺の呟きにソフィアが同意。二ヶ所目の遺跡はずいぶんと朽ち果てており、相応の年代が経過しているのがわかった。場所は一ヶ所目と同様の山奥ではあるし、洞窟奥で誰も近寄らなかったために調査などもしていなかったらしいのだが……正直、何の施設だったのかまったくわからないくらいには崩壊している。
「というか、これが普通だよな」
「リーベイト聖王国が見つけ出した遺跡や、私達が見つけた場所は例外中の例外だったというわけですね……ただ、その原因はわからないですが」
「俺達があの遺跡を訪れた際、魔力が存在していたのは事実だが……それが現代まで続いていたというのは、何かしら理屈があるのか……」
「あの場所とここの違いがわかれば、推測できるかもしれないわね」
これはリーゼの言。俺はなるほどと呟いた後、
「なら今回はそれについて調べようか。せっかく来た以上は、何かしら情報を持って帰りたいからな」
というわけで遺跡内を探索する。ここも守護するゴーレムなどは存在していないのだが、朽ち果てているためどういう場所だったのか想像できない。
「うーん、研究所とかではなさそうだけど」
「そうかしら? 間取りなどを考えると、これだけ部屋数が多いのは、何かしら理由がありそうだけど」
リーゼの提言に俺は首を傾げ、
「そんなものか……?」
声を発しながら手近にあった部屋へ視線を向ける。完全に風化しているので、この遺跡に元々存在していた物についてはほぼ存在していない。ガレキは一応あるけど、それで推測しろというのはさすがに無理な話である。
「ただ、部屋の大きさは画一的ではないから、宿泊施設とか病院ではなさそうだな」
「そうですね」
ソフィアは同意しながら別の場所へ目を向ける。
「奥へ向かいましょうか。病院で見た大型の設備が存在するかもしれません」
「そうだな」
俺は同意して、先へ進む。やがて一番奥と思しき場所へ辿り着いて……うん、動力部であることがかろうじてわかる。
「とはいえ、これは……」
「朽ち果てたというより、撤収したという感じね」
リーゼの感想に俺は内心で同意する。配電盤らしき痕跡の物はあるが、スイッチなどは当然ながら全て風化している。そして動力となる機械が配置されていた場所には明確なへこみなどもあったのでわかるのだが……ガレキなどが存在していない。
「綺麗さっぱりなくなっているのではなく、外へ運び出したと推測できそうね」
「とすると、ここの施設は放棄したってことか……それなら魔力が途切れて遺跡そのものが朽ち果てているのも頷ける」
「星神の影響で、霊脈がズレたため、とかでしょうか?」
ソフィアの言葉に俺は彼女へ視線を向ける。
「ここを研究所だと仮定して……か?」
「はい。元々利用していた施設ですが、霊脈に異変が生じ……ただその原因が星神であったとしたら、時系列的に合わない気もしますが」
「星神が登場した時点で、古代文明は崩壊しているからな……星神そのものが出現する以前に霊脈が変化したとは考えにくいんだけど……まああり得ない話じゃないし、あるいは星神による文明崩壊が起きた後まで残っていたのかもしれないし」
「ふむ……」
リーゼはそこで小さく呟く。口元に手を当てて何やら考察しているが。
「ねえルオン、いくら星神であっても古代で文明を発展させていた人全てが潰えたわけではないわよね?」
「……俺達の祖先はそういう技術とは無縁の人だったと考えられているわけだが、確かにゼロになってはいないだろうな。ああ、リーゼはそういう人が難を逃れるために山奥に施設を……と、考えているのか?」
「病院などについてもそれなら説明がつくかしら?」
「まあ確かに……ここは星神による世界崩壊が起きた後、誰かが入り込んだ、と。たださすがに攻撃が来た後に建造するなんて難しいのではという疑問もあるが……」
結局、謎は残り続けるな。まあこの遺跡がなぜ朽ち果てているのか、なんていくらでも理由が探せるわけだから、結局推測であーだこーだ言い続けるしかないし、答えなんか出ない。
「まあ動力が放棄されていたことを踏まえれば、ここには保護魔法などが存在しなかった。よって崩壊したと考えるのが妥当だな。理由については推察しかできないから、ここで議論しても始まらない」
「……他の場所の施設も残っているんでしょうか?」
ソフィアのもっともな疑問。現地へ行かなければわからないのだが、
「病院と、リーベイト聖王国が発見した遺跡……その二つが生き残っていたことに何かしら理由を見出すことができれば、残っている可能性も否定はできないな」
「現状だと、運が良かったで話が終わってしまいますね」
「そういうことだ。リーゼの言葉通り理由を綿密に考察できれば何よりだけど、ここは放棄されたと考えていいわけだし、厳しそうだな」
とはいえ、俺達が見つけ出した遺跡は残り二つ……距離もあるし、エメナ王女がフォルナの屋敷を訪れるまでに余裕もなくなる。ここは割り切って病院で手に入れた端末について注力するべきか?
「ルオン様、エメナ王女については?」
「順調に進んでいるよ。シルヴィ達の介入もまったく必要がない……賢者が見た未来通りの展開であることは間違いない」
少なくとも俺達が介入したことで変化はない……まあ魔王との戦いにおいて、ソフィアを生かすという形にしても魔王の動きは大筋変わらなかったことを踏まえると、敵方に俺達の動きがバレなければ問題はないだろう。
「ただ順調ということは、予測通りに王女はフォルナの屋敷を訪れるってことでもある。よって、俺達に残された時間はそれほど多くない」
「判断しなければなりませんね。手に入れた物を調べるか、調査を続けるか」
「強行軍で無理矢理進むというのもアリね」
リーゼの提言。まあそれはそうなんだけど、
「……ひとまず町へ戻って、改めて相談するか」
ここでの収穫はなし。よって俺達は町へ戻ることにした。




