開かずの――
俺達は病院施設と思しき遺跡を歩んでいくが……辿り着く部屋はその全てがベッドのみしかない。これでは徒労に終わるか、と思った時、俺達は入口入って最初のT字路まで戻ってきた。
「ここも開けられるな」
淡い光に手を触れてドアが開閉する。その奥は、これまでと違う。いうなればそれは、
「ラウンジ……受付ってところか?」
ソファのような椅子が立ち並び、奥には受付らしき場所がある。その奥には本棚……カルテとかを保存する場所かな?
手がかりらしきものがあるか……と思いつつ受付の奥へ。そこはまったくの手付かずだった。これは期待できそうか――などと思ったのだが、
「うん、読めないな」
「そうですね……」
ソフィアが同意。まあ当然ながら、今使われている言語じゃない。
翻訳者が必要だな、これは……さすがに領主フォルナもそこまで面倒見切れないだろう。これを読むためには、何かしらあてがいるな。
さすがにカルテと思しき物については、俺達が求める情報があるとは思えないので、それ以外の物を……棚の奥へ進むと、扉があった。その先に、どうやら事務所が。たぶんこの構造だと、もう少し奥に控え室とかありそうだな。
ただまあ、施設を放棄している以上は私物とかが転がっているようには思えないので、望みは薄いけれど……奥へと進む。さらに扉があったので開けると、予想通りロッカールームらしきものが。
「ここは……?」
「医師や看護師の荷物とかを置く場所。それと、着替えるための部屋かな」
俺は説明しながら周囲へ視線を向ける。名前らしきものが書かれているのだが、やはりわからない。
ロッカーは開くのだろうか……ここはさすがに自動ではなく、手で開閉できる。一つ試しにやってみると、簡単に開いた。ただ中身は空である。
「資材を撤去したことを考えると、個人の荷物も撤去したと考えるのが妥当なんだけど」
「そうでしょうね……一応確認してみますか?」
まあそんなに広くもないし、やってみるか。俺はリーゼに別のロッカールームがないか探すように指示する。ここが男性用か女性用かわからないけど、必ず同じような部屋があるはず。
リーゼは隣にそれらしい部屋を見つけて来て、調査を再開するのだが……当然というか開いている場所は空ばかりである。鍵が掛かっている場所もあるのだが、
「簡単な構造だから、たぶん開錠系の魔法で開くかな?」
呟きながら魔法を使ってみると……カチャンと音がした。心の中ですみませんと小さく謝りながら開くのだが、やはり空である。
ただ、中にある網棚が傾いていたりと、使っていた形跡がある。というか、古代の時代にも網棚とかあったんだな。
「ルオン様、こちらにあった鍵の掛かったものも開けましたが、中身はありませんね」
「まあ当然だな。どういう経緯か不明だが、ここには戻らない……仮に戻って来れたとしても、それは長い時間を経てになるだろう。それが予想されている以上、当然ながら荷物なんか残すわけもない」
さて、どうするか……とりあえず部屋にあったロッカーは調べてみたが、やはり何もない。とはいえ、確率はゼロじゃないし、リーゼが探してきた部屋も探してみよう。
そこは構造が似通っている部屋で……鍵の掛かっているものも全て開錠してみるのだが、やはりハズレばかりである。
「横に控え室らしきものがあったけれど」
「控え室?」
リーゼの言葉にロッカーを調べながら俺は応じる。
「ええ。くつろげるようなソファが置いてあったから」
「……この施設内のものは保存されているとはいえ、ソファも原型を留めているとはすごいな」
結局、ロッカーは全てハズレだった。よって今度はリーゼの言う控え室へ。
そこは確かに、ソファなどが置かれた部屋。端に給湯設備らしきものもある。そこを指差してソフィアは、
「あれは?」
「たぶんお湯を沸かしたり、簡単な調理をするスペースだろ」
「料理ですか?」
「手の込んだものは作れないだろうけど」
水道の蛇口と思しき物もある。上下に動いて排水するものらしく、試しに動かしてみたが……反応なし。さすがに水道設備までは稼働していないか。
これが非常電源でなかったなら、もしかすると反応があるかもしれないけど……まあ今の俺達に必要なものではないから捨て置こう。後は、たぶんコンロらしきもの。着火するかどうか試す気はないのでスルーでいい。
「うーん、ここも収穫はなしか……ここが病院なのはおそらく確定で、医師達はここを引き払ったというわけだ。設備などが残っていることを考えると、さして重要な施設というわけではなさそうだな」
「施設そのものも貴重ですけれどね……」
「ここにある設備そのものを技術的に分析すれば、相当すごいことになりそうだけど……今の俺達に必要なものではないから、とりあえず無視だ」
俺達が来たことで、何かしら動かしたら保存機能とかも消え去るかもしれないな……ま、機会があればまた調べに来ようか。
俺は他に何かないか周囲を見回す……そこで、部屋の隅に置かれている物を発見した。
「……金庫、か?」
近寄ってみる。こういうのは、休憩室のような場所ではなく……と思うのだが、近寄ってみる。たぶんダイヤル式の金庫かな?
「何か入っているのでしょうか?」
「金庫なら貴重品とかありそうよね」
「引き払っているわけだし、中身も全て取り出しているだろうけどな……」
こういう開かずの金庫って、大抵は何も入っていないし……それに馬鹿正直にダイヤルを回して開けようとするなんて、どのくらい時間が掛かるかわからない。
「……別にこの金庫そのものに価値があるわけでもないし、破壊してみるか?」
「構いませんが、中身も壊れませんか?」
「扉を開閉する部分だけをピンポイントにやればどうにか……まあそれでも賭けにはなるけど」
でもまあ、わずかな確率があるのならやるしかない……ということで俺は作業に入る。といっても魔法剣の類いで強引に金庫を破壊するという感じになるが。
俺がやろうとする時、ソフィアやリーゼが色々と助言をする。そうして数分後、魔法を実行、俺は金庫の扉を破壊することに成功したのだった。




