今更の話
町を巡りながら俺達は予定通り、遺跡のある場所へと辿り着く。そこは山岳地帯……ではあるのだが、岩山で緑などがほぼ皆無に近い場所。周囲の山には木々が生えているというのに、ここだけビックリするほど存在していない。
断崖絶壁のような形状であることもそうなのだが……で、人の手がほとんど入っていないこの山岳地帯において、岩山の裏側……山に囲まれた小さな窪地が遺跡の入口と思しき場所となっている。
「……毎回思うんだが」
俺は山を進みながらソフィアやリーゼへ呟く。
「どうして遺跡ってこんなに山奥なんだろうな?」
「ちなみにあたしのマスターの本拠地も山奥だったね」
ユノーからの意見。アンヴェレートも同じか。
「というかルオン、その言葉って今更にも程がない?」
「確かに多数の遺跡に潜った身からすれば今更だけどさ……なんというか、前世の知識もあって遺跡は人里知れぬ山奥にあるっていう固定観念が存在していたんだよな……」
「諸説あると言われていますが……」
と、ソフィアは俺へ提言する。
「研究内容を秘匿するために、隠されるように設置したというのが有力ですね」
「……その辺り、どうなんだユノー」
「あたしに聞かれても……あ、でもマスターはわざわざこんな所に、とか不平不満を言っていたかなあ」
「うーん……秘匿するためだけにするのなら、例えば地下空洞とかでもいいよな? まあそういう所に遺跡があるケースも存在はしていたけど」
「霊脈だったのかしら」
これはリーゼの意見。ああ、そういう理由なら確かに理解はできる。
「今は地形が変わったために何もない所だけど、以前は霊脈があったとか」
「一番ありそうな可能性だな……けど、地形って年月で大きく変わるものか? そりゃあ多少は変化あるかもしれないが、霊脈が変わるほどの規模って相当だぞ」
「星神の破壊によるものかもしれないわね。あるいは星神が降臨することによって、霊脈にも変化があるとか。地底から出現するし、何か因果関係があるのかもね」
「それなら一応理屈は通るのかな?」
仮に霊脈が理由であったのなら、そういう説明になりそうだが……アンヴェレートに尋ねればわかるのか?
「ま、これについては何かの話のついでに訊くとして……道のりはまだまだ先だな」
「ルオン、この際質問したいのだけれど」
ふいにリーゼが話を変える。
「星神との決戦に対してだけれど、現状では組織メンバーが一丸となって戦う、でいいのよね?」
「それが必然的になるとは思う……が、どうした?」
「いや、最終決戦の段になって私やソフィアを戦線から遠ざける、なんてことを考えていたら一発殴ってあげようかな、と」
……大事な存在である以上、確かにそういうのもあり得なくはないのだが、
「さすがに、最後まで付き合ってもらうつもりではいるぞ。もっとも、俺が許可しても国側が許可するのかわからないけどな」
「私は問題ありませんよ」
ソフィアが口を開く。まあ魔王との戦いから付き合ってきているのだ。ソフィアにとっては今更な話でしかないし、何よりクローディウス王も理解している。
「それにリーゼ姉さん、私達が負ければ世界が終わる以上、例え王族であっても死力を尽くすのが道理ではありませんか?」
「そう言われたらそれで話はお仕舞いなのだけれど……」
「そもそもリーゼ、そちらは大丈夫なのか?」
今まであまり触れてこなかった部分を俺は尋ねる。
「組織のメンバーにも加入してもらって、バールクス王国に居着いているけどさ、国の方は?」
「私としてはきちんと事情を説明して、なおかつ認めてもらっているわよ。そこは問題ない」
「ならいいけど……言っておくが、許可はきちんともらってくれよ。組織のメンバーとしては、他の仲間と扱いは一緒にするけど、そもそも立場が違うんだからな。ソフィアについては他ならぬ父君であるクローディウス王が承認しているからできるのであって、リーゼの場合は――」
「わかっているわよ。なんというか、ヤブヘビになってしまったわね」
苦笑するリーゼ。俺の方に物言いをするつもりだったのに、結果的に俺に色々と言われてしまう羽目になった。
「ま、私も自分の立場はきちんと理解しているし、迷惑を掛けるつもりはないから安心して」
「……さすがに、問題が生じても俺達はフォローできないからな」
「ええ、わかっているわ……ただ、そうね。もう一つだけ訊いてもいいかしら」
「ああ、構わないけど……どうした?」
少しばかりリーゼは口が止まった。何かあるのかと思っていたら、彼女は意を決したかのように、
「私は、この組織にいて問題はないのかしら?」
――もしかすると彼女は、ずっと気にしていたのかもしれない。
ソフィアとは違って、彼女は途中加入により、ずっと気にしていたのかもしれない。
「……それも今更って話ではあるな」
俺が言うと、リーゼは肩をすくめる。
「そうかもしれないわね。けれど、確認しておく必要性はあるでしょう?」
「決戦が差し迫っている中で、か?」
「ええ、そうよ」
俺とリーゼの会話に、ソフィアは入ってこない。というより、なんだかハラハラしているような気持ちさえ見え隠れする。
彼女としても、リーゼについて思うところがあったのかもしれない……のだが、俺としては答えは一つだった。
「そうだな、俺から言えることは一つ……リーゼを組織に加入させたことを、後悔させないでくれ、かな」
当のリーゼはキョトンとなる。そこで俺は、
「王女様を加入させること自体、ソフィアという前例はあれどかなりリスキーなことだ。星神との戦いで負ければ全てが終わるとはいえ、その途上で何かあってもおかしくないからな。でも、俺は色々な人の意見を聞いて……何よりリーゼの戦いぶりを見て判断したわけだ」
「評価してくれている、と考えていいのかしら?」
「そう思ってくれて構わない。だが、実力と生き残れるかどうかは別問題だ……俺としては、最悪の結末だけは避けたい。それは他の仲間も一緒だ。世界の破滅と戦うことになる以上、厳しい戦いが待っている。でも、組織のメンバーが誰一人欠けることなく、戦いを終える……そのために、死なないための努力はしっかりしてくれ」
もちろんリーゼだけの話ではないが――その言葉により、当のリーゼが納得したようで、
「ええ、わかったわ」
笑顔を伴って応じる。ソフィアもどこか安堵した表情になっていた。




