目覚めるきっかけ
その後カティの作業に加え、俺が読んだ資料についてもガルクへ見せることになり、それらが全て終わったのはカティの予想通り昼頃だった。
『うむ、確認した情報でこちらは作業を進めさせてもらおう』
「資料に目を通したなら、現物は必要ないか?」
『そうだな……ルオン殿達がひとまず所有しておいてくれ。こちらは情報を得た。そちらの大陸の動静によって、資料が必要な場合もあるかもしれんしな』
ふむ、確かに……資料を手元に持っておいた方がいいな。というか、そこまで頭が回らなかった。
なんというか、情報を求めることを優先して、それをどう共有するとか、あるいは資料をどうするのか、など抜けている部分が多かった。何よりまずは情報を手に入れることを優先……なおかつ、どういう媒体なのかわからなかったので対策が立てようもなかったというのは事実だが、この辺りはもっと上手くやれただろう。
今回はガルクが懸念して事前に対策をうってくれていたので、ひとまず問題になるようなことはなかったが……次からはもう少し注意することにしよう。ただ次というのがあるかどうかわからないけど。
「よし、なら次は仲間を呼んで、だな」
『うむ、話についてはこちらからも言及しよう』
「そうだな。俺だけではなくガルクも資料に目を通した。考察できるところがあれば、是非やってくれ」
そういうわけで、俺達は昼食を済ませた後、改めて客室で話し合いの席を設けることに。昨日と同じソファに座り、配置も全員同じの状態で、俺は口を開いた。
「現時点で必要な情報をガルクへ渡すことができた……これで、対策については動き出す。現在、俺達が大陸を訪れてもエメナ王女の動き自体は何一つ変わっていない。よって、半年ほどの余裕がある、というのは間違いないと思う」
「なら私達がどうするかを話し合う前に、重要なことを確認しておかなければならないわね」
リーゼが口を開く。何が言いたいのかはすぐに理解できた。
「つまり、今後賢者が知る未来の範疇から外れた場合、どう動くべきなのか」
「まあそこからだよな……何か意見はあるか?」
――といっても、正直俺達にできることは多くない。ここにいること事態が非公式なものであり、表舞台に立てばそれだけ賢者の見た未来から外れる。そもそも出たら国家間の関係が悪化するというのも問題ではあるし。
「その状況になってから、考えるしかないのでは?」
と、ソフィアが俺へ提言する。
「賢者様の知る未来から外れる……それが良いことなのか悪いことなのかにもよりますし」
「……最大の問題は、傍からは良いことだとしても、それが星神の復活を早めるものなのかどうか、だよな」
「さすがにそこはわかりませんね……」
風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話で、何がきっかけにして星神の復活が早まるのか正直わからないのが実情。とにかく今回エメナ王女が関わる事件によって星神が地上に降臨するのは間違いない。ただ、例えば首謀者を止められたとしても、何かしらの影響で星神は降臨するのだろう。そこについてはどれだけ変えようとも変えられなかった……と考えるのが妥当なわけだし。
「とにかく、このままいけば星神が地上に出現することだけは確かだ。その未来は確定である以上、どれだけエメナ王女と関わって星神の降臨を目論んでいる人間を捕まえたとしても、無意味になる」
「ルオンが動けばその限りではない、と賢者の手紙には書いてあったけれど」
リーゼが述べる。しかし俺は首を左右に振り、
「俺が干渉しても、影響は薄い……というか、たぶん星神の出現というのはきっかけがどうであれば確定的なんだろうと思う。もし俺達が何もしなければ、リズファナ大陸で起きる事件によって地上に現われる。そのきっかけを全て止めたとしても、そもそも俺達は既に星神と関わっている。それを縁にして、星神は降臨するだろう」
「なるほど、確かに」
「ならば星神は賢者が見た未来よりも前に降臨するのでは……と、言いたいところではあるのだが、たぶんそうはならない。というか、星神は基本的に受け身の存在だ。誰かが干渉するからそれに反応して動き出す。逆に言えば、そうした干渉をしなければ、ひとまず動き出すことはない……俺達が既に星神と接触している以上、いずれしびれを切らして星神は地上へ出る。けれど、現段階では出てこない……俺達が無理に接触する必要性もないためだ」
ここで俺は「それに」と付け加える。
「リーベイト聖王国の星神に関する研究がどういったものかわからないけど、間違いなく現段階で干渉はしていると思う。干渉して動き出すまでにタイムラグがあって、なんて可能性も否定できないし、どういう理由にせよ、星神が目覚めるきっかけはそこかしこに存在している。時期はまだ断定できないが、降臨するのは確実だ」
「その中で、私達はどうすれば最良の選択をとれるか、ですね」
ソフィアの言葉に一同が頷いた。
「その通り……星神との戦いのことを考慮に入れるのであれば、俺達はエメナ王女とこれ以上関わるのは避けて、半年を星神打倒のために注力することが最善だと思う。けれどその場合、最終的にエメナ王女が女王になるという結末……そして王子二人は――」
「この場で意見を統一するわけだな」
と、領主フォルナが俺へ告げた。
「星神に備えて何もしないのか、それともできる限りのことをやって最善を尽くすのか」
「……リーベイト聖王国に対し何かしらやるというのは、リスクしかない」
俺はそう領主へ前置きをする。
「俺達がこの大陸を訪れたのも星神のことを調べるため。大陸間の国家で話し合いというのは、口実に過ぎない。その中でソフィアは成果を上げたし、それを国へ持ち帰りたいのは事実だが……」
「打算的に言えば、王女が女王になってもらった方が顔は利くけれど」
と、リーゼが肩をすくめながら話す。
「ただ、事情を全て知っておきながら何もしない、というのは引っ掛かるわね」
「同意です。ルオン様が魔王打倒のために尽力されていた時、こういう心情だったのでしょうか?」
ソフィアの問い掛けに俺は「そうだな」と返事をした。




