世界を救う
「最後に、星神がどのように現われるかを言及する。星神が実際に降臨するのは、エメナ王女が即位してから数ヶ月後……だが、多少なりとも誤差は存在する。もし君達が介入したのであれば、半年後の戦いの最中に星神が破壊を始める可能性もある。それは留意しておいてくれ」
ソフィアが読む賢者の手紙が重くのしかかる……今回、物語は大筋俺がやったゲームをなぞっていると言える。そして現在、俺が持っていた情報外となっているわけだが、エメナ王女については順調に旅を進めている。
こちらから護衛役をつけているわけだが、基本的には主人公であるレインに任せていればおそらく大丈夫で、もし危険があったら密かに護衛をしている二人に連絡をとればいい。
ただ、もしこの国にとって良い未来……つまり、王子が失脚することなく星神の問題を解決する、なんて手法は現実的に不可能であり、また同時に仮にできたとしても物語の根底が大きく覆るものとなる。一連の事件首謀者について賢者の資料で明かされるとしても、この大陸で俺達が動くには限界がある。
状況的には魔王との戦いに似ている。俺が下手に暴れればバッドエンドへ突き進んでいくようなシナリオだったわけだが、今回の場合はより平和的に解決しようとすると、星神との決戦が早まるかもしれない、というわけだ。
ただ、事件首謀者をどうにかすれば……いや、それも望み薄か。仮に首謀者を倒すにしても根本的に星神のことは解決していない。破滅の未来はどうあがいても防ぐことは無理なので、たぶん他の誰かが星神に触れるのだろう。
「エメナ王女との戦いをきっかけにして、星神はついにこの大陸で降臨する。普通の人からすれば、突如地上に巨大な光の球が現われる、といった表現になるだろう。それこそ星神の本体……本来、地底奥深くに鎮座している、集積した魔力の塊だ」
それこそ、星神の姿か。
「人々が困惑する中で、星神は破壊活動を開始する。無論、リーベイト聖王国側も対抗し、交戦を開始する。旅を通してエメナ王女も光がどういう存在なのかわかっているからね。リヴィナ王子などの手によって生み出されたものだとわかった瞬間、攻撃を開始した」
とはいえ――俺の予想を、賢者は手紙の中で肯定する。
「無論、勝つことはできない……結果的に破壊によってリーベイト聖王国は崩壊する。エメナ王女はどうやら無事だったようだけど……多くの人が犠牲となる」
内容を聞いてフォルナが低く唸る。彼女もまた当事者であるため、戦いとなったら出陣し、死ぬかもしれない。
「そこから、星神は他の大陸で破壊を行う――と、これが一連のプロセスだ。この大陸に降臨した光は、大気中から魔力を吸収して分体を作成する。それを大陸各地へ放つ、という形になるな」
「その状況になったら、私達でも食い止めることは無理ね」
カティが述べる。俺は彼女の言葉に頷き、
「つまり、出現直後で倒さないといけない……この大陸が、決戦の地になりそうだな」
俺はここで、前世のゲームのことが気に掛かった。六作目のエンディングはたぶんエメナ王女が即位して終わりだろうか。けれど、星神が復活する……それを描写し、不穏なものをみせてゲームは完結という感じだろうか。それとも、崩壊までやるのだろうか。
ゲームなのだから、ハッピーエンドになるよう星神を打倒するというところまで描写するかもしれないけれど……まあそもそも遠い未来である一作目で世界が崩壊していることを暗示していたわけだし、不穏なものを見せて終了でもアリな気はする。この場合バッドエンドみたいな感じで、ゲームの評価としては賛否両論になりそうだけど。
「星神の力は強大であり、例えリーベイト聖王国の軍でも太刀打ちは無理だ」
そしてソフィアがなおも手紙を読んでいく。
「エメナ王女が即位した以上、星神についての情報はかなり得ている。つまり、相応の対策をとっていてなお、惨敗と言ってよい結果に終わる。圧倒的であり、だからこそ変えることができない未来だ……しかし」
ソフィアは、俺を一瞥する。
「異界の者……あなたのおかげで、確かに未来が変わっている。星神を打ち砕けると確信している。もし決戦の場所で星神と出会ったら、そこには私もいる。呼び掛けることができるのかもわからないが、精一杯の援護はさせてもらう。世界を――救ってくれ」
ソフィアは手紙を読み終えた。沈黙が生じ、室内の空気がピンと張り詰める。
やがて口を開いたのは……ソフィアだった。
「まずは、賢者様が残した資料を探しましょうか」
「そうだな。詳細が記載されているということは、エメナ王女の旅路についてや、リヴィナ王子の行動なども調べられるはずだ。そこから俺達がどう動くかを考えるとしよう」
俺の言葉に仲間達は頷く。で、もちろん探索する以上は家主であるフォルナに許可を取らないといけない。
「確認だけど、調べてもいいか?」
「無論、構わない……隠し場所に心当たりはないが、さすがにどこかの客室に置いてあるなどということはないだろう。十中八九、星神の資料が眠っている書庫だ。どちらにせよ私はあなた達を案内しようとは思っていたから、問題はないな」
……賢者から情報を手にしてしまったし、なおかつ有力な資料を得られるから、正直この屋敷にある書物などについてもあまり調べる意味はなくなったよなあ。賢者の情報は何せ星神を内部から観察した結果なわけだし、それ以上の情報が得られるとは思えないし。
ただ、さすがに無価値になったというわけではないか……ひとまず賢者が残した資料を精査して、何か必要な情報があったらこの屋敷にある書物で調べてみる、といったところだろうか。
「そういえば客人方。ここに滞在するのか?」
フォルナから疑問が。その辺り、何も考えていなかったな。
「ああ、さすがに協力するとまで表明したんだ。寝泊まりしても一向に構わないのだが」
「……ソフィア、賢者の資料を調べるのに時間も必要だし、御言葉に甘えさせてもらうか」
「そうですね……お願いできますか?」
「王女の頼みとあらば」
うやうやしく一礼をするフォルナ。どのくらいの日数必要になるのかわからないが、通信魔法でガルクを交え検証することにしよう――




