未来を変える武器
「この戦いの大筋は王族同士の戦いだ。リーベイト聖王国の王女が霊峰ガシュエルダへ向かい、誘拐されそうになる。そこで霊峰近くに暮らしている見習い騎士……彼の手によって救い出される。王女はなぜ狙われたのかは理解しており、命を狙われた以上は戦おうという腹づもりで、王都へ向かう。その道中で、協力者と出会い、さらに王女を狙う者……王子の手勢が襲撃してくる。彼らの攻撃をかいくぐり、王都へ戻るというのが最初の戦いだ」
……最初? 疑問に思ったのだが、ソフィアが手紙を読んでいるので口を挟まないでおく。
「もしかすると、異界の者は知っているかもしれないが、説明させてもらおう。この戦いにおける重要人物は四人。一人は王女……エメナ王女だ。そして二人目が彼女に付き従っている従者である騎士ジャック。三人目は王女を助けた騎士。その名は――」
「レイン=アルフェス」
俺の言葉にソフィアは小さく頷く。さすがに主人公なので、名前は記憶している。
「そして四人目……これは普通ならば、エメナ王女と対立している王子と言いたいところだが、彼はこの戦いの主役じゃない」
「……主役じゃない?」
「最初、というのが文面にある以上、王子との戦いで全てが終わるわけではないのでしょうね」
リーゼの指摘に俺は「なるほど」と小さく呟き、ソフィアはなおも手紙を読む。
「簡単に言えば、この戦いは物語で言うところの前後編に分かれている。王女の旅路が始まった時点から、おおよそ半年ほど経過して後編が始まるものと思ってもらっていい」
半年――これはかなり重要な情報だ。星神による崩壊がこの戦いを通して行われるにしても、半年という期間余裕があるわけだ。
「異界の者とその仲間達ならば、この情報で今からおよそ半年ほどの猶予があると理解したことだろう。さて、四人目のことを含め詳細を本来ならばこの手紙の上で語りたいところだが、さすがに紙面が足りない。よりこの大陸についての情報も必要になるだろうから、この手紙以外に残した物で補うとする」
それは、どこかの遺跡にでもあるのか……? と、思っていたら、
「実はこの屋敷の中に、こっそり資料を隠した」
「……何!?」
あ、フォルナが驚いた。
「無論のこと、領主には何も話していない。賢者の血筋であればわかるようなものにしてあるため、屋敷内を散策してそれを見つけて欲しい」
フォルナとしては寝耳に水って感じか……彼女が驚いているのをよそに、ソフィアはさらに手紙を読んでいく。
「詳細な情報はそこに記すものとして、ここでは要点を語っておこう。この物語の結末は、現在のリーベイト聖王国国王が、エメナ王女を次の国王に指名するところで終わる。現在、この国には王子が二人いるのだが、長兄であり王位継承権第一位のリヴィナ王子は、エメナ王女との戦いで失脚する」
……正直、交流をした身からすると、複雑な心境だな。
「加え、もう一人……末っ子のレノ王子は、物語の後編で主要な人物となる。簡単に言えば、彼は今回の事件首謀者によって、利用されてしまう……星神の実験に」
「悲惨な話だな」
俺は感想を述べる。エメナ王女が次期国王に……というのは理解できるのだが、それは結局消去法によるものだ。なんというか、国王からすれば暗澹たる気持ちだろう。
「これについて、思うところはあるだろう。私が知りうる情報において、異界の者は未来を幾筋も変えている。だからこそ、こうした結末を止めたいと思うかもしれない。それに関しては自由だが……リスクもある。事件の首謀者についても資料には記してあるが……現状、こちらが無茶な行動をすれば、却って事態を悪化させるかもしれない」
ここでいう事態の悪化とは、星神による世界崩壊が早まるということを言いたいのだろう。
「だからどう行動するかについては、慎重に慎重を重ねてくれ。半年という時間は君達にとって非常に貴重なものだろう。このまま何もしなければ、少なくともその期間は保証される。ただし、例えばレノ王子などを匿ったりすれば、それだけで事件首謀者の動き方が変わってしまうことだろう」
……まだ俺達は事件首謀者が誰なのかわかっていないが、少なくとも王子との話せるだけの身分を持った存在であるのは間違いない。
現時点で国に介入するかどうかについてだが、かなり厳しいな。ソフィアやリーゼがいることが露見すれば、外交問題に発展する可能性もある。俺達は現在、聖王国側に認知されていない中でこの屋敷を訪れている。表舞台に出ることはできない以上、エメナ王女や領主フォルナを介して干渉する他ないわけだが……さすがに限界があるだろうか。
エメナ王女ならば……と一瞬思ったが、事件首謀者からすればエメナ王女は紛れもない敵。彼女の協力を得て動いたとしても、敵の動きが読めなくなる……。
「難しいわね」
リーゼが言う。カティなんかもうんうんと頷いている辺り、今回の情報がいかにデリケートなものか理解できているようだ。
「戦いの経過などについても、全て資料に記してある。それを参考にして立ち回って欲しい」
ソフィアは一拍間を空ける。残る手紙も少なく、どうやら佳境に差し掛かっているようだった。
「そして、星神をどうやって打ち砕くか……これもまた資料を用意しているため、利用してもらえればいい。どうやら異界の者達は対策を練っているようだが、その一助になればと思う。この手紙の中で言わせてもらえれば……必要なのは圧倒的な力だけではない。ただ真正面から無類の力で打ち砕くだけでは、足りない」
賢者はなおも手紙を通して語る。力だけでは――
「大きくヒントとなるのは、魔王だろうか。どうやって魔王は星神を倒そうとしていたか……私は、例え魔王が力を得ても星神を倒せないと思った。内に入ったからこそ、それが理解できた。けれど、魔王はおそらくそれがわかっていた。よって、単純に力を増幅させるだけではない、何かを持っていたはず……後は、天使の研究。それらを統合し、今の技術も組み合わせる。異界の者の手が入れば、それは未来を変えるだけの武器となるだろう」
俺の存在が……ソフィアは一度こちらを見る。それに対し、こちらは力強く頷いた。




