魔物住まう遺跡
俺はラディを見返し、彼の言葉に対し質問を行う。
「それに、俺達も同行すると?」
「話によると、結構厄介な魔物が住みついているらしくてね。人数は多い方がいいかなと」
「ちなみに、場所は?」
「町より東に存在する塔だ。ガーナイゼから二日くらい行った森の中にある」
……そういう場所はゲームで存在していなかったけどな。まあ主人公達の動きは自由だし、ゲーム上に存在していなかった場所を訪れても不思議じゃないけど。
「もし他にお宝があったら、そっちに譲るよ。それでどうだい?」
別にお宝が欲しいわけではないが……ここでさらに質問。
「出現する魔物は?」
「少なくとも、オーガがいるらしい」
オーガ……赤色の皮膚と人間以上の体格を持った、棍棒を持つ鬼のようなビジュアルの敵である。HPが高く攻撃力もあり、棍棒による吹き飛ばし攻撃なども備えている……が、魔法全般に弱い。
中盤以降に出てくる敵であることは間違いない。ソフィアのレベルで十分対抗できるくらいの強さであり、訓練の成果を計るのに丁度いいかもしれない。
ソフィアとネストルが近づいてくる。会話は聞いていたらしく、先に口を開いたのはネストル。
「俺達二人でもよかったんだが、俺の知り合いを誘ってみようかと思いここを訪ねた面もあった……どうだ?」
「俺は構わないよ。ソフィアは?」
「私も大丈夫です」
オーガと聞いたためか、表情を引き締めるソフィア。シルヴィも頷いているし、とりあえず決定かな。
「気を付けろよ」
イーレイが言う。それに俺が頷いた時、今度はシルヴィがラディへ問い掛けた。
「塔に住んでいた魔法使いの詳細は、わからないのか?」
「名前とかは情報として伝わってきていないな。塔近くの村とかなら少しは交流していただろうし、塔へ行く前に情報を集めてもいいかもしれない」
「そうか。ちなみに魔法使いの研究が暴走した、とかの可能性は考えられるのか?」
「暴走?」
「魔物を生み出す実験をしていて、何かの手違いで……とか」
「それはないと思うよ。魔物の一部がオーガというのは間違いないようだし」
――ラディがそう言うのは、魔族が生み出す魔物を人間が創り出すことはできない、という理由からだ。
人間が疑似的に魔物を生み出すことはできる。だがそれはあくまで「人間が生み出した仮初めの魔物」であり、魔族が要因となって生み出されるものとは異なる。
魔物達は基本大気の存在する魔力などと結びついて生まれるのだが、ゲーム上に出現するような魔物は瘴気を根源とするか、瘴気の影響を受けることでしか生まれない。人間にその瘴気を生み出す術がないため、原理的に生成することが不可能というわけだ。
「つまり、魔法使いに何かがあって塔を放棄したというわけか?」
「そういうことなのは間違いないと思うよ」
シルヴィとラディの会話が進む。俺はそれを耳に入れつつも、イーレイへ首を向ける。
「何か情報とかはありませんか?」
「私は知らないな。塔に人間が住みついているという話は小耳に挟んだことはあるが」
「その塔、何の目的で作られた物なんでしょう?」
「周辺の国が造ったわけじゃないはずだ。古代遺跡なんじゃないか?」
古代遺跡……天使の遺跡と同じようなものだろうか。まあ話を聞いていると天使の遺跡みたいに姿を隠しているわけではないみたいだが。
「……ああ、ところで」
と、ラディが俺へ話を向ける。
「そっちにはきちんと自己紹介していなかったね」
「ああ、言われてみれば……俺は――」
遅まきながら自己紹介。その後、ラディは確認するように問い掛ける。
「ルオンさんとソフィアさんは、剣士?」
「一応な。ただソフィアは精霊魔法が使える」
「へえ、精霊と」
「ラディも精霊魔法を使えるな」
ネストルが横槍。それにソフィアが反応。
「あなたはどのような精霊と?」
「シルフとサラマンダーだ。そっちは?」
「シルフとノームです」
「ということは、魔導技も結構使えるのかい?」
「心得はあります」
「そっか。こっちとしては頼もしい限りだ……ルオンさんは魔法を使えるのかい?」
「それなりに」
「わかった。それじゃあよろしく頼むよ」
――ということで、俺達はラディ達と共に塔へ向かうこととなった。一つ気になることと言えば以前エイナ達から手に入れた五大魔族に関する情報……使い魔で探ってもやはり情報が出てこない。水面下で色々と動いている可能性は高いが……まあ兆候の一つもないので、塔へ赴く間くらいは大丈夫か。もしイベントが発生しても近い場所なので、対応は可能――そう心配する必要はないか。
それからラディと集合場所などを決め、この場はお開きとなった。ソフィア達も明日以降の旅に備え今日の訓練は終了することとなり……俺達は、訓練場を離れた。
訓練場を出て以降、俺達は準備に時間を使う……その間に、俺はやらなければいけないことがあると思った。それは、シルヴィのことについて。
男装する彼女について、後でこじれないようさっさと言及した方がいいだろう。ソフィアとの会話を聞いているとどうやらまだ明かしていない様子だし。
というわけで、その日の夕食時話すことにする。三人でテーブルにつき注文を済ませた後、切り出した。
「さて、新たに仲間に加わったわけだが……確認しておくことがある」
俺はシルヴィを見ながら言及。彼女は即座に頷き、
「ああ、何があるんだ?」
「部屋割りについてだけど」
「ボクがソフィアさんと一緒になるわけにもいかないだろう?」
そう述べるシルヴィ。ソフィアは何を当たり前のことを、という雰囲気を発しているのだが……勘の鋭い彼女が気付かないというのは、余程シルヴィの変装が上手いということなのだろう。
「……そこだよ」
「何だ?」
俺はシルヴィの目を見ながら話す。ちょっとばかり緊張もしたが……どうにか平静な状態で声を出せた。
「お前、女だろ」
――沈黙が生じた。ソフィアは目を丸くし、俺とシルヴィの顔を交互に見る。
そしてシルヴィも目を見開いたわけだが……こちらは俺に言い当てられて驚愕しているという感じか。俺は彼女を見返しつつ、わかった理由っぽいものを語ることにする。
「誤魔化しても無駄だぞ……過去旅をしていた時、お前と似たようなことをしている人間と出会ったことがあったからな。過去の記憶と気配や物腰……その辺りで察した」
「……隠すのは無理、ということか」
「え? え? そうなんですか?」
ソフィアが声を上げる。するとシルヴィは小さく頷いた。
「まあ、そういうことだ……とはいえ、ボク自身バレたからどうにかなるというわけではないさ。男装した方がこの町では目立たなくて済むという理由でやっているだけで、深い意味はないし」
そういえば、男装している理由までゲームでは明かされなかったな。彼女の言う理由が本当かどうかもわからないけど……ともかく、俺は下手に追及することなく、さらに続ける。
「男装している理由を詮索する気はない。ただ、この辺のことは早い段階ではっきりさせた方がいいと思ったため、言及した」
「……とすると部屋割りは、ボクとソフィアさんということか?」
「ああ、ソフィアもそれでいいか?」
「そういうことなら……」
というわけで、彼女はソフィアにシルヴィの名で自己紹介を行った……もっとも、戦士がいるような場合は偽名であるシルトと呼んでくれと釘を刺す場面はあった。
これで一つ目の話題は終了……だがまだ話は終わりじゃない。次に伝えるべきことを、俺は彼女へ続けて言うことにした。




