転生の真実
「転生者が成したことについては、私自身色々と観測はしていた。どうやら人々にとって良い未来を作っていた。これについては私としても嬉しく思うし、礼を述べたい。ありがとう。そして」
ソフィアはここで一拍置いた。次いでチラリと俺を一瞥し、
「非常に、心苦しくも思っている。異界からやって来た人物を、私は魂を招くという形で呼び寄せた。例えば異界の方で死に絶えた場合、その魂を引っ張ってくる……異界からのやって来た人について、どのようにしてこの世界へ辿り着いたのかについて、私は確認できていない。だから、場合によっては突然死んでしまい……などという可能性も否定できない」
「俺の場合は、事故死だった」
そう俺は口を開く。
「賢者のやり方から考えると、たぶん事故で死んでしまったのをきっかけにして、魂が招かれた……ただ、疑問は残る。なぜ俺が選ばれたのか。そしてなぜ、ルオンという人間に魂が宿ったのか」
「続きに、理由は書いてあります」
ソフィアはそう述べると、さらに手紙を読み進める。
「私は、誰を対象にという形で魂を招いたのではない。というより、人物を指定して招くというのは不可能だった。だからこそ、資質を持った存在を、様々な異界から無作為にこの世界へ招く他なかった」
……俺は前世、平々凡々な人間だった。けれど、この世界の人からすれば世界を救うだけの資質を持っていた、ということか。
魔力という概念がなかった以上、前世の世界で俺にそういう力があったなんて誰かが言及するようなこともなかったしな。
「そして、どういう形でこの世界へやってくるか……魂だけを招く以上、生まれ変わることになる。それがどういう人物なのかについては……私にもわからないが、縁が関係しているとは思う」
やはり前世でルオンのことを考えてゲームをしていたことで、思念か何かが魔力となって発露していたのか。そういうことなら一応理屈っぽく説明はできる。
ともあれ、これが俺の転生の事実なのは間違いない……まさか星神のことを調査する過程で俺の出生についてまで知ることになるとは思わなかった。ただまあ、星神に由来する力だったのだから、ある種こうした情報を得るのは当然と言える。
俺は転生云々なんかを調べるつもりはなかったし、これは思わぬ形で拾った情報なわけだが……ま、これを公にする意味もないし、この場にいる面々の中で情報を共有して終わりだろう。俺が賢者に由来する転生者だからといって、仲間が何かを言うようなこともないだろうし。
「ここを訪れた転生者。改めてお礼を。そして、もし他に転生者を見つけたら、この真実を是非とも明かして欲しい。経緯について知ることは、権利だと思うから。またこうした発端を生み出した賢者については、恨まれてもおかしくないし、怒りの矛先については私に向けてくれて構わない」
「……必要なことだったとはいえ、罪悪感は持っているということか」
というより、魂を招くという行為に手を染めた時には何も思わなかったが、今になって恐ろしくなったという感じだろうか。それならまあ、納得はできる。
「そして、ここからが特に重要なことだ……星神について。どのように打倒するべきなのか。そこについて、説明させてもらう」
いよいよ、核心に迫る……俺達がもっとも求めていた情報だ。
「まず、星神がどのような形で地上に降臨するのか、だ。きっかけはここに来た以上、おおよそ見当はついているだろう……異界の者ならば、私の流した様々な情報に基づき、推測はできているに違いない……このリズファナ大陸で生じる動乱。リーベイト聖王国にまつわる戦いが、そのきっかけだ」
「この国に、戦いが起きるというのか?」
さすがにそこについて情報を持っているわけではなかったか、フォルナが訝しげに声を上げる。
「その様子だと、あなた達は知っているようだな」
「……最初にやり取りした中で、聖王国がどういった研究をしているか、尋ねたよな?」
「ああ。星神に関する研究を進めていると……私はそれが暴走するような形を思い描いていたのだが、違うのか?」
「俺もこの戦いについてはよくわかっていない……前世で知り得たのはこの物語の冒頭くらいだから。けれどそれを利用し、俺達は大陸間の交流という形で、王族に接近した」
「ほう、なるほど。そもそも国同士の交流などではなく、それを建前にして星神のことを調査すべくここへ来たということか」
「そういうことだ。で、現時点で得た情報によれば、戦乱の火種は存在している」
「……何か知っているようだな」
「正直、ここについては話していいのか迷う。何せ、リーベイト聖王国にまつわることだから。あなたは関係者だからな」
「私自身、王族などと関連は薄いのだが……語ってもらえないか? 交換条件として、こちらは全力であなた方を支援するし、何か必要ならば領主の権限によって用意しよう」
「ありがたいけど、あなたは大切な立場にいる。あまり派手に動くのはまずい」
「そうなのか……?」
さて、どこまで話すべきか……ソフィアを見やる。どうすべきか……彼女は小さく頷き、
「話しましょう。この方なら……賢者様が信用された方である以上、協力関係を結ぶことが最善かと思います」
「ま、そうなるよな……フォルナさん、交換条件はきちんと引き受けてもらうからな」
「ああ、構わないよ」
「なら、話そう……といっても、俺達が現時点で持っている情報は断片的だし推測も混ざっているが、おおよそ正解だ……まず、そうだな。王族のややこしい状況を簡単に説明すると――」
エメナ王女とリヴィナ王子が対立していることを話し、実際に王子が王女へ危害を加えようとしたことを解説するとフォルナは、
「まさか、そんなことが……という気持ちだな。王族同士の争いか……現時点で王子がここまで動いているとなると、後ろ盾だっている可能性がある」
「そうだな……ソフィア、賢者の手紙には何か書いてあるか?」
「続きを読むことにしましょうか」
再びソフィアは手紙に目を通す。そしてなんだか納得する表情を見せた後、彼女は再び語り出した。




