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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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残された物

「……手紙、ですね」


 ソフィアが言う。賢者の血筋を利用した鍵まで作り、賢者が残した物の正体は……手紙。

 その中に重要な情報が眠っている可能性は極めて高い。俺は彼女に小さく頷くと、ソフィアが代表する形で手紙を開き、読み始めた。


「この手紙は、賢者の血筋を持っている者……そして、その人物と同行している人物へ宛てて書いているものだ。封じてある箱は賢者の血筋にしか開けないように細工をしてあるため、必然的に血筋の者がこの手紙を読んでいることだろう。それを前提として話を進めさせてもらう」


 ずいぶんと回りくどい言い回しである……まあ、念のためといった感じだろうか。


「ここに記す内容は明確な事実であるが、信じられない内容も多くあるだろう。しかし、私としては受け入れて欲しい……ここからの文章は、覚悟を踏まえて読み進めてくれ」


 そこまで述べたソフィアはチラリと俺を見た。こちらは黙って頷き……彼女はさらに手紙を読む。


「……私が賢者であるということは、領主フォルナの口から語られていると思う。私は、星神が大きく活動し始める寸前に行動し、今手紙を託している。状況が良ければ私自身が赴き、話をしたかったが……それが難しいと判断した。この手紙を読んでいるということは、私自身星神の中へ入り込み、活動を食い止めていることだろう」


 ……現在、彼は星の中心で奮闘中か。


「私の来歴について語る必要性はないので省く……まずはなぜ私が星神の中に入り込んだのかを説明する。それは魔王との戦いによるものだ。国々を蹂躙した魔王……その目的は、星神を滅するための力を得ることにあった」


 これは魔王の子であるクロワなんかも考察していた部分だ。それが賢者の口からも語られる形か。


「決戦の前に、私は魔王と会話を行った。なぜ国々を蹂躙するのか……それは断片的ではあるが未来が見えることにより、知ってしまったから……星神が滅ぼす未来を。それを防ぐために、魔王は力を手に入れようと考えた。全ては同胞を救うため……無論、数多の人間を犠牲にした魔王の所業は許されるものではない。だからこそ私は立ち向かった」


 俺達が戦った魔王もまた、同じことを繰り返していたわけだ。そして魔王は今際の際に、救えると呟いた……それは俺やソフィアならば星神を打倒できるかもしれないと考えたためか。


「そして、私は魔王へ告げた。もし自分が魔王を滅ぼすことになったら、その意志を継ぐと……結果的に魔王は封印という形になった。ともあれ私は星神を倒すための旅を始めた。様々な大陸を渡り、時に幻獣の領域へも足を踏み入れた。そこには過去、星神が活動していた時の文明の痕跡が眠っていたからね。色んな手段を通して星神のことを知った」


 俺達はその場所へ赴いている。図らずも俺達は賢者の足跡を辿っていたわけだ。


「その結果、私には……星神を打倒できるだけの力がないことがわかった。いや、わかってしまったと言うべきか。その時は絶望し、どうすればいいのか苦悩した。そこで私は、自分自身を星神の中へ入ることで、その活動を抑えようとした。無謀な行動ではあったし、私自身自我がなくなるかもしれなかった。けれど、それをすることが必要だと考え、実行に移した」


 ソフィアは手紙を読み続ける。そしてフォルナや仲間達はじっと聞き入り、口を挟むことはない。


「私は魔王の封印を通して、彼の力の一部を手に入れていた。それが予言の能力……私にも、星神がもたらす絶望的な未来が見えた。それを見た瞬間、魔王の気持ちがわかってしまった。あれは滅ぼさなければならない……と」


 それだけ、悲惨な出来事だったということか……。


「けれど星神と一つになる間に、予言の能力は失われてしまった……しかし、私は可能な限り予言で知り得た情報を保持し、対策を編みだしていた……とはいえ星神の内部にいる以上、できることはそう多くない。直接的な関与というのもできない。そもそもそれがもしできてしまったら、星神の力が地上に影響を及ぼしていることに他ならないからね。だから私は回りくどい方法で、この世界へ干渉した」


 そこまで言うと、ソフィアは一度言葉を止めた。


「……ここからの文章は、意味のわからないものだろう。当事者でなければおそらく首を傾げることだ。この手紙を読んでいる血筋の近くに、該当者がいるのかどうかもわからない……だから、次の文章を読む前に一つ質問を行う。もし該当者がいるのであれば、ここから先を読み進めてくれ」


 ソフィアは質問内容に目を通したか、目がわずかに大きくなった。何が書かれているのか……見守っていると、やがて彼女は口を開いた。


「――この手紙を読んでいる人物の周辺に、異界からの転生者はいるだろうか?」

「異界……?」


 フォルナが首を傾げた。意味がわからないと思うのは間違いない。事情を知らない人間からしたら、急にどうしたという気持ちだろう。

 けれど、フォルナ以外は全員沈黙した。原因は明白……当事者が、この場にいるからだ。


「フォルナさん」

「ん、どうした?」

「俺が、その異界からの転生者だ」


 予想外だったか、フォルナは言葉をなくし俺を見る。


「まあ、なんというか……賢者がそこに言及してきたのは衝撃だけど……ここまでソフィアが読み進めた情報だけでも、辻褄が合うな」

「転生者という点について?」

「魔力の質などが、星神に由来しているというか、近しいというか……そういった質であるという情報もあるくらいだし……賢者の仕業であるというのなら、妙に納得がいく」

「あなたという存在こそ、賢者が行った星神に対する策の一つということかしら」


 リーゼの言及に俺は頷いた。


「たぶん、同じようなことを幾度も繰り返していたんだと思う……俺以外にも転生者がいたからさ」

「ええ、どうやらそのようです」


 ソフィアが同意の言葉を述べる。ここから続く内容に真相が存在しているのだろう。俺は視線で続きを読むように促すと、ソフィアは一呼吸を置いた後、再び手紙の文面を読み始めた。


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