因縁の存在
「あなたに対する情報提供者とは、誰ですか?」
質問は、ソフィアからもたらされた。尋ねてはいるが、彼女の表情からは何かしら確信を得ている様子。
俺もおおよそ推測はできた。星神の内側にいる反逆者。それは――
「……見当がついているようだな。その通りだ。その人物は……魔王を封じた賢者だ」
ここまでくれば予想はできた。しかし、賢者が……。
「ここに彼の残した物があるということは」
俺はテーブルに置かれた箱を見据えながら尋ねる。
「今も彼は存命というわけか?」
「ここを訪れたのは、残された時間が少なかったから、と語っていた」
「時間?」
「理由は詳しく語らなかったが……おそらく星神に何かしら変化があったのだと推測できる。結果、賢者は動く必要性が出てきてしまった」
……俺達が動き出したから、か? いや、そもそも俺達が何もしなかったとしても今回の物語で世界崩壊は起きる。
俺達の存在によってそれが早まったわけでもないし……と、考えている間にフォルナはさらに話を続ける。
「なぜ彼が私の所に……という疑問はあった。あったのだが、賢者という事実が全てを飲み込むに至った。彼ならば私を見つけ出すことは可能だろうと……根拠などなかったが」
それだけの説得力があったと……。
「星神に関する事柄も、多く教えてくれた……ただ彼自身、星神が世界を滅ぼしたことについては、断片的な情報しか知らなかった」
これは当然の話である。賢者自身にとっても滅びた年代は遙か昔の話なのだ。
「よって、先ほど話した内容は賢者に教えてもらったことなどを考慮した上での推察ということになるな……賢者がはっきりと断定していたのは一つ。いずれ、再び星神が活動を始める。ただしそれは、他ならぬ人の手によってであり、また同時にそれが引き金となって滅びが始まる」
そこで、フォルナは俺達を一瞥。
「その様子だと、既に知っていたようだな」
「俺はあなたとは異なる情報で、だけど」
「そうか。それについても大いに興味はあるが……話してもらうには、こちらの信用を得なければいけないようだな」
現状、ソフィアやリーゼの素性を隠している状況だからな。明かしてもいいが……いや、まだやめておくか。
「まあいい。話を進めるとしよう」
フォルナはそこで咳払い。その時、俺は賢者に対する疑問が生じた。
そもそも、なぜこの場所に情報を残したのか? 加え、俺達のような大陸外の人間を探していた意図はあるのか。疑問ばかりであったが……、
「なあフォルナさん。元々賢者とは面識があったのか?」
「いや、ない。だからこそ来訪した際は驚いているな」
「そっか……」
一番可能性が高そうなのは、賢者はこの世界のことを俺が物語を知るように何かしら把握していたということ。これが一番ありそうだなと思うと同時に、では賢者はどういう存在なのかという新たな疑問が生じる。
まさか俺と同じ転生者……? そんな可能性も否定はできなかったが、あるいは予知能力者とかでもよさそうだ。賢者が星神の中で活動していたのだとしたら、その目的は間違いなく星神の破壊。その過程で、未来のことが見えるようになったとか……ただ、どういう経緯で予知能力なんて手に入れたのか疑問に残るけど。
「賢者は色々なことを教えてくれた。その中でとりわけ重要なことが存在する……今までは話してきたのはあくまで過去の話。この世界の歴史がどう紡がれていたのか……それをあくまで分析するだけだ。しかし」
「星神のことは現在進行形で存在している」
指摘にフォルナは神妙に頷く。
「それも既に把握している……というより、対策のために来たといったところか。そう、星神は今から遠くない未来に、再び世界を破壊し尽くす。そのきっかけは間違いなく、リーベイト聖王国が行っている技術発展が関係しているだろう」
「止めようとは思わないのか?」
「私の意見が耳に入るわけがない……仮に警告したところで、私が暗殺されるだけだ。不必要な存在として。さらに悪い言い方をすれば、私の所持している資料について持ち出され、技術に利用されるかもしれない」
「こうした研究をしていることは、聖王国側の人間は認知していないのか?」
「私がやっていることは考古学的な分野だという位置づけだ。まさか星神の危険性などを把握しているわけではないと思っているのだろう」
だからこそ、無視されているということか……。
「賢者は私にそれを語り、なら私は何をすれば良いのか問い質した。すると、彼は私に箱を手渡し、大陸外から星神の調査にやって来た人物にそれを渡す……そして、別に来訪する人間を快く迎えて欲しいと」
別に来訪――その言葉でどういうことなのかおおよそ理解できた。
おそらくフォルナもまた、エメナ王女が紡ぐ物語の登場人物なのだ。彼女はリヴィナ王子との戦いの中で星神とはどういう存在なのかを調べることにした。そうしてこの場所を訪れる……筋書きとしてはおそらくこうだ。
そしてこれは、賢者自身が未来のことをおおよそ把握していることを証明しているだろう。ここで問題は彼自身俺と同じ境遇なのか、それとも他に別の――
「賢者は未来を知っているような素振りを見せているわね」
カティが述べた。するとフォルナは首肯し、
「ああ、そのことについてだが……私にも説明を施したよ。過去、彼は星神の内に入り込む前に予知能力を所持していたらしい」
「予知……賢者についての記述で、そんな情報はないけれど」
「私も疑問に思ったので尋ねたら、これは本来自分の能力ではなかったため、異質であると生前は誰にも伝えていなかったらしい。そしてどうやってそんな能力を得たのかについてだが……これは元々、魔王が所持していたものだった。魔王と戦い、何かのきっかけで賢者に宿ったと」
魔王が――そこで俺はアンジェのことを思い出す。魔王の娘である彼女は、未来を導く力を持っていた……これはおそらく、魔王が生来持っていた能力に影響したもの。それを、激闘の中で賢者が宿した……確かにこれなら納得ができる。魔王と賢者……因縁の存在同士ではあったが、両者の関係が一本の線となったような気がした。




