文明崩壊
「いくら情報を漁っても出てこないとくれば、そんな風に解釈するしかないが……おそらく真実に違いないだろうと私は思う。何か反証できるだけの材料がそちらにあればすぐに鞍替えするが」
……方法はともかくとして、世界全てに影響を及ぼして文明が崩壊したというのは、正直非現実的であるように思える。しかし俺はそうかもしれないと納得した。なぜならこれから先……未来に、同じようなことがあるためだ。とはいえ、
「……文明全てを狙い撃ちにしたってことかしら?」
疑問は、カティからのものだった。
「人間全てが滅んでいないというのは、私達が今いる以上は証明されている。けれど、文明に関連している人は全て滅んだ……というのは、それだけを狙う何かがあったということかしら?」
「そうだな。言葉にすると変だが、指向性の文明崩壊だな」
奇妙な字面である……。
「文明だけを狙った攻撃だったのかは不明だが……確実に言えるのは、文明が発展していた領域全てが滅んだということだけだ」
「それとは関係なかった……例えば森や山の中で暮らしていた人間が生き残った、と」
俺の言葉にフォルナは頷く。
「そういうことだ。それで、一番の問題はなぜそんな崩壊が生じたのか……時代の流れに沿って解説しようか。まず古代の時代には『幻想樹』と呼ばれる存在があった。それは古代の文明を支える魔力の塊。その奪い合いが始まり、人間達は戦争を行った」
……幻獣ジンの所で得た情報と合致している。信憑性は高いと考えていいか?
「その仮定で、色々と兵器開発などに勤しんでいた……リーベイト聖王国が用いている技術はその一端だろうな。その中で、星神という存在が生じた……で、だ。星神というのは本来、願いを叶える……というより、他者の願望を叶えることで動き出す存在だ。その当時、星神が降臨した際にどんな願いをしたのか不明だが、まあロクでもない内容だったに違いない」
「……俺達が持っている情報だと」
俺は幻獣から得た情報を整理して話す。
「その『幻想樹』を巡る戦いが勃発し、国々は分裂。そして分裂した国家が崩壊した……先ほど語ったあらゆる文明が消えたというのは、その時だってことか」
「概ね間違ってはいない。詳しい年代などが不明瞭であるため、疑問は色々とあるかもしれないが……大規模な戦争により国が分裂し、やがて崩壊した。分裂から崩壊までは百年も経過していない。この大陸に眠っている情報を考えれば、おそらく分裂したどこかの国が星神を見つけ出し、覇権を握るべく研究を行っていたということだろう」
……なるほど、それならなんとなく理解できる。
「それより前に、天使や魔族達は国家から離れていて無事だった……まあその当時は数もそれほど多くはなかったようだが」
「俺達が持っている情報からもそれは読み取れるけど……」
「ならば、さらに踏み込んだ話をしようか……星神とは何なのか」
核心的な部分か。俺達は固唾を呑み、言葉を待つ。
「シェルジア大陸では、星神を調査していたことがわかっている。最初の古代国家は誰かの願いを叶えて壊れたが……どうやら天使は破壊するために動いていたようだ」
「破壊……か」
「星神の正体は、この世界に滞留する魔力の集積だ。言わば星の核とでも呼ぶべき存在。だが、それはあくまで膨大な魔力の塊であるだけで、そこに自我などは存在しない……はずだ。しかし」
「……干渉するケースが存在する」
「その口ぶりだと、星神と顔を合わせたことがあるようだな」
――さすがにここに来て隠し立てする必要もないと、俺は頷いた。
「そうだな。星神は何かしらの意思で動いているように見えた」
「星神は本来思考を持たないはずだが、多大な魔力を得ることによって、思考能力を得る。その結果、人間に干渉し始めるわけだ……ではなぜ破壊をもたらすのか。例えるならそれは、風船が弾けるようなものだ」
「……膨らみすぎた星神は、わざと暴走させると?」
「それに近い。魔力はこの世界にいくらでも存在する。それは星の中心へと溜まり、いずれ暴走をする。星神の意思と呼べる存在は、それに対し何かしら意味を持たせようとして人間に干渉している……おおざっぱな理屈はこんなところだろうか」
「……意味を持たせようとする、か」
「これは私なりの推測だが、最初に星神に願った存在によってもたらされたものではないかと思っている。星神の研究者達が好き勝手にやった結果……それが、人間をあざ笑い興味本位に力を与える存在となった」
「……なんとなく思ったのだけれど」
リーゼがここで口を開いた。
「あなたはずいぶんと……それこそ、私達と同じように星神に会ったような口ぶりね」
「そうだな」
――即答だったので、俺は一瞬思考が追いつかなかった。
「というより、私は星神の意思に会ったことがある」
「なっ……!?」
さすがにリーゼも驚き言葉をなくす。するとそこでフォルナは手を突き出しこちらの言動を制するようにして、
「私と出会ったのは非常に穏当な存在だった……というより、星神の意思も一枚岩ではない。いや、この言い方は違うな……星神の中に、星神を滅ぼそうとしている存在がいるという話だ」
「星神の、中に……!?」
それはさすがに……いや、そこで気付いた。
俺はおそらく出会ったことがある。竜の大陸、死闘の中で……俺へ呼び掛けた青年の存在。
「その人物が、私に色々と情報をくれた。今語った内容もその多くがその人物によるものだ……元々、遺跡資料を漁るだけだったはずが、そうした存在が干渉してきたことにより、この世界にとって必要なものに変わった。今こうして、情報を受け渡すことができるのは、幸いだ」
まさしくこれは、俺達にとって必要な情報だろう……星神の中に眠る反逆者とも言うべき存在。以前見かけたが確証が持てなかった。何も知らなければ、星神の数多ある人格の一つくらいに思ってしまうものだ。
けれど情報を得て……それと話をすることができれば、突破口になるかもしれないと思うようになった。外側だけでなく、内側から……それができれば、星神を砕くことができるかもしれない。
ただ、もう一つ疑問がある……それを投げかけようとしたら、俺よりも先に声を上げる人物がいた。




