置き土産
『そうだな、通信越しで話すというのは私も予定外であったが……さわりの部分くらいは喋っても良いだろう』
「一つ疑問なんだが、頑なに詳細を語ろうとしないのは理由があるのか?」
『そちらと同じだよ。条件に適合する存在を見つけたのは間違いない。だが、おいそれと情報を渡すわけにはいかない……というより、見定めたいというのが本音だな』
なるほど……貴重な情報ということなら、色々と考慮しても仕方がない。
「わかった、ならそちらが今から出す情報で判断する」
『良いだろう……ではまず、重要な事柄から確認だな。君達が調べている情報。遺跡にまつわるものだが、それはあくまで遺跡がどういった施設なのかを調べるためであり、本筋ではあるまい?』
「……正解だな」
『そしてエイミの言葉により固まったことを考えれば、君達が求めている情報は、すなわち星の中枢に存在するもの……星神だな?』
……その名称も把握している。ということは少なくとも、このフォルナという存在は古代に人類などが保有していた星神の情報を持っているのは間違いない。
「ああ、そうだ」
『うん、前提条件はクリアだな……では次だ。君達は星神に対し何をしに来た? 星神の力を利用して何かを成そうとしているのか? それとも、星神に興味を持っただけか?』
「その質問に答えるより先に、一つ確認したいことがある」
『何だ?』
「……リーベイト聖王国の実情を、そちらは把握しているのか?」
具体的に言えば、魔法技術に関することだが。星神について情報を持っているのであれば、聖王国の技術の中に星神由来のものが混ざっていると勘づいてもおかしくないが。
『ほう、思い切ったところに踏み込んできたな。というより、そちらはあの国が星神にまつわる何かを握っていると確信を得ているわけだ』
この口上から考えると、俺達が何者かについてはまったく把握していない感じだな。シェルジア大陸から来たという情報はエイミから伝え聞いているわけだし、会談のことを知っていたら何らかの推測とかしてもおかしくないけど。
正直に話すか……? いや、ここはまだ少し警戒するか。相手側も情報を出し渋っていることだし。
「詳しいことは話せないが、色々とつてを使ってリーベイト聖王国側の魔法技術について、ある程度把握している」
『ほう、そうか……現在流通している程度の技術であれば、容易く解析できるだろうが、それよりももっと深い部分……それこそ王族などが保有する技術の中に、それらしい存在があることはわかっている。そちらも把握していることを見るに、ずいぶんと関係者に接触したようだな』
実際のところは王族から直接なんだけどな。
「……うーん、そうだな。もう一ついいか?」
『構わないが』
「俺のような人間を探している理由は問わないんだが……そもそもなぜ、そんな人間を探そうと思ったんだ?」
『ああ、その辺りは説明しておかなければならないか。うん、ここは詳しく語ろう。といっても、さして大きな理由があるわけではない。とある人間から頼まれたのだ』
人間? 首を傾げているとフォルナはさらに発言する。
『私は元々、この大陸で星神の研究をしていた。それに熱中するあまり、色々な人間に目をつけられたり、あるいは世俗にずいぶんと疎くなってしまったのだが……それは置いておこう。ともあれある日、私に尋ね人があった。その人物がどういった人間なのかは直接会った時に語るとして、だ。その人物は私に星神についての情報を提供する代わりに、一つ頼み事をした』
「それが、俺のような人間を探せ、ってことか?」
『まさしく。正直理由などについてはさして問わなかった……が、私も少し興味が湧いた。ただ、あなたのような条件に沿う人間を探してくれと言われて、はいそうですかと頷けるものではない。そもそも大陸には無数の人間がいる。その中から、他大陸の人間を探せ……しかも星神について調べている人間を、だ。荒唐無稽であることは理解できるだろう?』
「ああ、そうだな」
『しかしその人物の条件はそれだった……もしかすると、と思い質問したら予想通りの答えが返ってきた。その人物によれば、必ず条件に沿う人間が現われる、と』
現われる……まるで、俺達のことを予見していた感じか?
『しかもそれはトルバスに、ときた。あまりに克明な話であったが、私も半信半疑であることは間違いなかった。とはいえ、情報をもらった見返りは見返りだ。よってエイミを派遣し、人捜しをさせた。その結果』
「俺達が現われた、と」
『そうだ』
「……本当に俺に何かしら情報を託したかったのは、その人物ってことか?」
『そういうことになる』
「ならなぜそんな回りくどいことを……」
『私に対しても全てを語ったわけではないため、そこは判然としていない……が、一つだけ言えることがあった』
フォルナの声は、どこか重くなる。
『正直、一目見た時人間離れしていると思った。竜族の類いか、それとも精霊の力でも宿しているのか……様々な予想をしたが、私はそのどれでもないと考えた』
「どれでもない?」
『この世界で唯一無二の力……といっても、絶対的な力というよりは、強烈な個性と言えばいいだろうか。とにかく、普通の人間とは違っていた……いや、もしかすると見た目だけで、実際は人間でなかったのかも』
「なんだか死ぬほど怪しいが……」
『敵意はなかったから屋敷には招待したが、な……それで、だ。屋敷に来れば私の口から事の一切を喋るが、それ以上にもう一つ、その人物が残した置き土産がある』
「置き土産?」
『私には開錠できない鍵が掛けられている。魔力などに反応して解除されるものなのだが……もしかするとあなたに反応するかもしれない』
「俺に? もしそうなら俺の知り合いになるわけだが」
『あるいは、あなたのことを知っている存在か』
気になる話ばかりだな……ただ、どうすればいいかの結論は導き出した。それは、
「わかった……ある程度話をしてくれたことで、結論が出たよ」
『ほう、それは?』
一拍置いて、俺はフォルナへ告げる。
「仲間達全員で、そちらへ向かおうと思う。エイミさんに案内を頼むことにするよ――」




