大陸に存在する――
昼食後、俺達は作業を再開したのだが……進捗は、正直言って芳しくない。どこにどのような資料があるのか不明瞭なまま調べているので、仕方のない面もあるのだが。こればっかりは明日以降、作業に慣れてペースが早くなることを期待するしかなさそうだ。
結果的に何の成果も得られないまま図書館は閉館時間を迎える。一日中同じ場所で調べていたということで、怪しまれないか不安になったりしたのだが……話し掛けてきた女性以外に干渉してくる人間は出なかった。明日もおとなしく資料漁りをしていれば、問題は出ないだろう。
で、その夜に改めて結果を報告したのだが、ソフィアやカティについても苦戦しているようだった。とはいえ、今はひたすら歩を進めるしかない。
――ということで、翌朝。俺は開館時間と共に同じ図書館へ来訪。資料を取り出してひたすら読む作業を開始する。
昨日の女性は現われるのかわからなかったのだが……作業開始からおよそ一時間して、俺の目の前へとやって来た。
「今日もご苦労様」
「どうも……昨日、有益な情報をという話でしたが」
「ええ。今回はその辺りのことについて詳しく伝えようかと」
昨日と同じように俺と対面する形で女性は座った。
「そういえば自己紹介はまだだったわね。私の名前はエイミ……エイミ=シェラクよ。エイミでいいわ。職業は……何て言うのかしら。お手伝いさんかしら」
お手伝いさん? 疑問を頭に浮かべた矢先、彼女は手をパタパタと振った。
「とある主人に仕えているのだけれど、メイドというわけでもなく執事というわけでもない……私のやっていることを形容するなら、お手伝いさんと表現する他ないわね」
「そうですか……どこかに勤めているのですか?」
「ええ、そうね。とはいえこのトルバス内には存在していないわ」
部外者? ますます疑問に思ったのだが、エイミは話を続ける。
「主人は遠いところへいる……というか、私はここに派遣された人間といったところかしら」
ますますわからない。なんだか話がうさんくさくなってきたような気もするんだけど。
「ああ、ごめんなさい。こんなことを言っても混乱させるだけよね……そうね、時系列を言えば、私は元々主の下で仕事をしていて、ある時私に指示を出してここへと派遣した。滞在期間などについては不明瞭で、私としても結構大変なのよ」
「ずいぶんと漠然とした指示ですね……その目的は?」
「条件に沿った人間を見つけ出すこと」
「このトルバスで?」
「ええそうよ。この場所にどれだけ人間がいるのかわかった上での指示だから、なんとも無茶苦茶な話よね。あなたもそう思わない?」
話を振られても……困惑しているとエイミはコホンと一つ咳払いをした。
「ま、最初は私も無理だろうと考えていたのだけれど……驚くことにわずか一ヶ月ほどで、目当ての人が見つかった」
「それが俺ってことですか?」
「そうね」
「……ちなみにその条件というのは?」
「遺跡に関する調査を行っている人間。かつ、大陸外の人間……そんな二つの属性を持っている人間がこの大陸にどの程度いるのかしらね……」
うん、確かに俺は当てはまるのだが……その二つの情報だけで見つけよというのだから、彼女が無茶苦茶と述べるのも頷ける。
「でも、俺が見つかった……」
「そうね。昨日ここを去った後に遠隔の魔法を使って主と会話を行った。あなたの特徴を伝え、探し人だったのかを……結論としては、該当者だった」
結果、今日ここへ再びエイミはやって来たと……経緯は言葉の上で理解することはできた。けど、エイミの主がどういう意図でそんな指示を出したのかは謎のままである。
この様子だとその辺りも彼女は説明しそうだけど……沈黙しているとエイミは口を開いた。
「先に言っておくと、私はあくまで案内役よ。詳細というか、なぜ主があなたのことを探していたのか、私も知らない。私はあくまで指示としてここへ来ているから」
「案内……ということは、あなたは自身の主の所へ俺を連れて行くのが目的?」
「そうね」
頷くエイミ。彼女の話が本当であるなら興味はあるが……なんだか引っかかる。
というか、遺跡を調査する大陸外の人間……そんな人間を探し出す意味は?
「同行してはもらえないかしら?」
「……こちらも作業がありますし、はいわかりましたと同意するのはちょっと。それに、仲間達にも伝えないといけませんし」
「確かにそうね。なら今日の昼か夜……お仲間とどちらかで合流はするでしょ? その時に私のことを話してもらえるとありがたいわ」
「こちらが拒否した場合は……」
「私は連れてくるよう指示されているから、付いてきてもらうまで説得する気でいるけど。あなたは結構な期間ここに滞在するのよね?」
もしかして、作業中ずっと話し掛けてくるってことか? 面倒ではあるのだが……とりあえず、彼女に尋ねて答えを持っているか疑問だが、尋ねておくか。
「えっと、あなたの主は俺に何を話したいんですか?」
「ああ、そこは説明しておかないといけないわね。といっても、私は詳しいことは知らないわよ。今言えるのは主から託された言葉だけ」
そう前置きをした後、エイミは俺へ告げた。
「――世界の過去と未来。そして、この星に眠る存在について」
その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず固まった。それと同時、現魔王……クロワの妹であるアンジェの予言を思い出す。
この大陸を訪れることで、情報を得られる……それはもしや、目の前の人物――その主から、手に入れろということなのか?
彼女の予言は、この大陸に眠る資料ではなく、この大陸に存在する誰かが情報を持っているということを、教えていたということなのか?
「興味は、持ってくれたようね」
こちらの心情を推し量ったように、エイミは言った。
「どうするかは、そうねえ……私が泊まっている宿を教えておくから、返事をしたければそこへ来てくれればいいわ。あなたは私の言葉で興味を持ってくれたみたいだけど、実際にどうするかは相談をしなければいけないでしょう? だから、後は答えを待つことにするわ。もし断るにしても、私に言って。あ、明日もここに来るから、そこで返答でも構わないから」
一方的に言い残し、彼女は席を立って図書館を去って行った。そして残ったのは、半ば呆然とする俺一人だった。




