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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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形を変えた戦い

 さすがに午前の時間だけで全ての資料に目を通すことはできず、今日一日はひたすら読み漁ることになりそうだった……途切れそうな集中をどうにか維持しつつ、俺はひたすら資料と向き合う。ひたすら資料をつかみ読むを繰り返すわけだが……予想以上に大変だ。

 一日二日で終わらないことは間違いない……いやこれは想定内だが、資料の多さと進捗のスピードから考えて……ため息をついた。


「終わりが見えないけど、頑張るしかないな……」


 星神へ挑むために必要なことであるし、形を変えた戦い……とはいえ、成果が見えない戦いは精神的な疲労がつきまとう。集中力だって途切れる。

 それでも腐らず続けるしかない……などと思い、新たな書物に手を伸ばそうとした時、前方に人影を見つけた。


 周囲には童話とか小説とか、そういう類いの書物は存在していないので、研究者の類いかな? などと思いつつ書物へ意識を傾けようとした時、


「ずいぶんと熱心ね」


 女性の声がした。見れば目に映った人影が、俺へ話し掛けてきた。

 その姿は……二十代半ばくらいだろうか? 腰まで届く黒い髪に白いローブのような衣服を着込んでいる。発する雰囲気だけを言えば、研究者か博士か……そんな感じである。


 特徴的なのは眼鏡を掛けていることか……女性はニッコリと俺へ笑みを向けているのだが、こちらとしてはどう答えたものかと逡巡する。


「普段誰も見るようなことがない場所で、資料漁りをしている人がいたから声を掛けたんだけど」

「……図書館の関係者ですか?」


 そんな問い掛けに対し女性は首を振る。


「違うわよ。散歩がてら図書館を訪れるお客様」

「……そうですか」

「毎日来ているのだけど、ずいぶんと珍しいお客さんがいると思って声を掛けたのよ」


 俺の対面に位置する椅子を引いて座った。ふむ、これはある程度相手にしないと帰ってくれないパターンかな? 幸い周囲に人はいないし、声量を落とせば迷惑にはならないと思うけど。

 本来ならば「作業の途中なので」とお帰り願うところなのだが、雰囲気からして少しくらい話をしないと立ち去ってくれない感じ。まあ俺も少し気分転換したかったし、ちょっとだけならと口を開く。


「遺跡に関する資料……それを見る人間は珍しいと?」

「見た感じ冒険者だし、これから遺跡漁りでもするのかな、と最初は思ったけど……それだったらギルドで情報集めをした方がいいわよね? 大体、ここに調査資料があるってことは既に調べられている……お宝が眠っているとは到底思えないし」


 冒険者で金銭目当てなら、未踏の遺跡に関して情報を集めるよな……うん、俺の風体から考えて変な人間だと思うのは、当然と言える。


「そうですね……ただ、その、俺の目的は違うので」

「遺跡潜りが目当てではない?」

「詳細は省きますけど、遺跡を通して過去のことを調べるのが目的ですね」


 より正確に言えば、遺跡当時研究していた星神についてだけど……女性は「なるほど」と一つ呟いて、


「図書館は三つあって、ここの資料が全てではないけれど?」

「仲間と分担しています」

「へえ、人海戦術というわけか……あなた、どこかの国に所属している人?」

「単なる流れの冒険者ですよ。遺跡について興味を持ったので調べているだけです」


 なんだかこのままだと根掘り葉掘り聞かれる気がしたので、少し強引に会話を止めようと返事をしたのだが……彼女は退く気などない様子。


「興味、か。なるほどね」


 独り言のように声を発した後、沈黙する。とりあえず質問攻めからは解放されたようだけど――


「……ねえもしかして、リーベイト聖王国が発掘した遺跡……その辺りのことと関係していたりするのかしら?」


 ……ここで違和感を抱いた。聖王国が技術発展に利用したものは古代の技術を活用しているけど、それが公に……というか、世間一般に伝わっているような様子はない。

 聖王国側も、国の技術開発によってこうなったとした方が都合がいいわけだから、真実を伝えるようなこともしない……箝口令が敷かれているのかは不明だけど、もしかするとそうした状況になっているのかもしれない。


 ただ、目の前の女性はその辺りの事情を……つまり、聖王国が発展している理由は古代の技術であると知っているように見える。

 そうした関係者? あるいは、他に何か……色々と思案する間に、俺は口を開いた。


「俺達は俺達で色々と調べているだけで、国とは関係ないですよ」


 どうとでも取れるような言い回しだったのだが……女性は「わかった」と応じた。

 ここまで来て俺が予想したのは、聖王国で発掘された遺跡関係者……星神の研究に触れ、まずいと諭したけど追放されたとか……無理矢理な気もするけど。


 ただそういうプロフィールであるとしたら、場合によってエメナ王女と顔を合わせることになるかもしれない。事情を知る人間の存在……何かしらの形でトルバスを訪れ、目の前の女性と出会うとか……本来なら荒唐無稽の考え方だが、ゲームという枠組みで見ると、ありそうな展開のように思えてくる。

 色々と問い掛けてくるし、ここは突っ込んだ質問とか投げた方がいいか……? そんなことを思う間に、女性は笑う。


「ごめんなさい、なんだか変に詮索してしまったわ」

「いや、別に構いませんけど……あの、あなたの方は遺跡に詳しそうですね」

「ん、まあね」

「もしかして、俺達が欲しているような情報を、あなたが持っていたりしますか?」


 さすがに望み薄だとは思うのだが……問い掛けると女性は肩をすくめた。


「遺跡に関する何かを、ということかしら?」

「そうですね……遺跡を調べることに一応目的はあります。で、あなたは何か知っているようだ。こうして話し掛けたのも、俺に興味を持ったからでしょうけど……つまり、情報を提供できるかもと考えたのでは?」


 彼女が俺に干渉して何のメリットがあるのか、という疑問は残るけど……ゲームの筋書きなら、俺達に情報を与えて聖王国の星神に関する研究を止めるよう動いてもらうとか……もしゲームで仲間になるキャラなら、俺はエメナ王女の動きに先回りしてしまった形なのだが。

 果たしてどうなる……沈黙していると、女性から返答がやって来た。


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