遺跡資料
城門を抜けた後、フィリとリーゼは宿を手配するため分かれ、残ったメンバーで町の中を散策し始める。今日のところは町を見て回るくらいで終わるかもしれないな。
少し進むと広場のような場所に到達。道は×印のような形で四方に伸びており、見回すと案内板を発見。ソフィアとカティに呼び掛けてそちらへ近寄る。
確認すると、公共施設の類いがどこにあるのかを記したものだった。美術館や博物館、役所など……その中で図書館も無論存在していた。のだが――
「……三つもあるな」
「そうですね」
「都市の規模にしては、多いわね」
俺の呟きにソフィアとカティが相次いで反応する。
町の規模は……さすがにリーベイト聖王国の都と比べれば小さいが、あれが逆に大きすぎると言えばいいのか……ただ、その規模でも図書館が三つもあるかどうか。
「学院とかの図書館でもないのか……? いや、一つは学院付属の図書館か」
「星神に関する遺跡の研究資料については、そこが一番可能性が高そうですね」
「そうだな……案内板には一般の人も立ち入り自由って書いてあるし、明日からはそこを調べるって感じかな」
「けど三つもあるというのは……時間がさらに掛からないかしら?」
「俺達は運良く目当ての情報が見つかるよう、祈るしかないな」
人数的に人海戦術もとりにくいし、運の要素が強い……が、引き返すことはできないし、手持ちの面子でやるしかない。
その後、他の図書館の場所などを現地へ赴いて見て回り、後はギルドや酒場へ行って情報収集。エメナ王女についてはまだ霊峰に辿り着いてはいないけれど、数日以内には届く……いよいよか。
可能であれば、物語が始まる前よりも先に核心的な部分に迫りたいところではあるけど……、
「ソフィア、カティ。明日から図書館にこもりきりになるだろうから、そのつもりで」
「わかりましたが、図書館側からすると怪しまれるとかないでしょうか?」
「一般の人が入り浸るというのは不思議がられるだろうけど、さすがに追い返したりはしないだろ。明日は、そうだな……実際に中を調べて星神に関する資料に当たりを付けるか。ふむ……三つ図書館はあるわけだから、分かれて調べるか?」
「そうね。まずはそれぞれの図書館でどの程度資料があるのか、それを調べるべきね」
カティの提言。方針は決まったので、俺達は一度リーゼ達と合流することにした。
その日は町の構造などを把握して、翌朝。リーゼとフィリはとりあえず情報収集を行うことにして、俺とソフィア、カティの三人は朝から図書館を調べることにした。
「昼には一度合流して情報交換をしようか」
「そうですね」
俺の提案にソフィアは頷く。カティも「それでいい」とのことだったので、念押しして宿を離れることに。
俺が調べるのは、役所などに近い場所にある図書館。たぶん司法関係の資料とかが眠っているのだろう……あとこの町の歴史とか、その辺りのことが詳しく調べられるかもしれない。
本筋とは関係ない部分なので、俺はスルーするけど……程なくして辿り着く。建物は白く、周辺に人通りは少ない。もう少し奥へ進むと、この都市の長がいる屋敷へと辿り着く。城の類いはないのだが、それはもう立派な建物……宮殿と呼んで差し支えないくらいの規模のもの。あの中で政治などを行っているとすれば、まあ納得はできる。
外観を少しだけ眺めてから図書館内に入る。静かで、白いローブを着た人間が歩いている姿が見受けられる。政府関係者とかかな? 俺の姿は多少目立つけど、普通の人も入っているみたいだし、変なことをしなければ突っかかってくる人間も出ないだろう。
ギルドの関係者であることを提示して、中へと入る。図書館は三階建てで、地下室はないらしい。
「遺跡関係の資料を見るのがいいよな……」
星神についてとか、そういう具体的な項目で資料が集められているわけでもないだろう。とりあえず遺跡について。あと星神の存在を神話などで語っていたとしたら、それを神と崇めるような行為もあり得るか? だとするなら宗教関連の資料も調べるべきか。
ともあれ、まずは遺跡……それらしい場所を見つけ出し、資料を手に取り抱え込み、テーブルへ積んでいく。さて、調査開始。最初に目を通したものはトルバス周辺に存在する遺跡に関する資料。論文形式なのだが、専門用語が多くてわかりにくい。
「翻訳者がいるぞ、これ……ただ、遺跡がどういうものなのかとか、あるいはなぜこんな場所に施設があったとか、そういうことを調べているみたいだな」
遺跡のある場所はたぶん魔力が備わっている地脈とか、そういう理由だと書かれているし、俺もそれには同意する。年数が経過し、地殻などが変動したことによって地脈の位置がズレている可能性もあるけどな……よく調べてはいるけど、ならば地脈を利用して何をしようとしたのか……その辺りについて詳しい言及はない。
「ここから先は推測しかないからな……星神にまつわる決定的な資料があるわけでもなさそうだし」
現在リーベイト聖王国が手に入れた技術……発見された遺跡については、星神の研究を行っていた。しかしどうやら他の場所ではそうでもない。
発掘された物を見ると、生活用品とかの類いは見つかっているみたいだが、技術にまつわる物はほとんどない……それは聖王国が見つけた場所が特別な施設であったことを物語っている。
「星神の研究……それ自体、古代においても珍しいことだった、と?」
これは至極当然と言えば当然なのだけれど……ただこうなってしまうとトルバス周辺で見つかった遺跡にまつわる資料の中で、星神について情報を得るのは難しいのか……? 不安もあったが、今はとにかく少しでも手がかりがある場所を調べるしかない。
論文は施設に関する考察をした後、終わっている。記述の内容的に見るべきところはあまりない。
「うーん、遺跡はあるにしても星神にまつわる何かではない限り、単に古代のことを調べているだけだからな……ただ、資料そのものは多い。その中に有力な情報があることを祈るしかないか」
結構な数の資料がこの図書館には眠っている。遺跡調査に関することがトルバス自治政府の仕事であるとするなら、ここが一番多いのかもしれない。
ソフィアやカティが赴いている図書館はどうなのか……もし学院側が中心に研究しているならあちらに資料は多いだろう。もしかするとその両方か……これは昼に一度集合して情報交換するしかない。
今はひとまず資料の精査を……そう思い、俺は意識を机に積まれた資料へと向けることとなった。




