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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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新たな主人公

 来た道を引き返し、俺はガーナイゼへと戻ってくる。ラディ達も既に到着しており、俺は使い魔に定期的に報告するよう指示を出しつつ、ソフィア達のいる訓練場を訪れた。


 入り口を抜けるとイーレイがいたため、俺はまず挨拶をする。


「どうも、戻りました」

「お、帰って来たな」

「はい……訓練は?」

「順調だよ」


 それはよかった……考えていると、イーレイは俺を中へ通す。ガーナイゼを出発する前と同じ場所だ。

 目に入ったのはソフィアとシルヴィが剣を打ち合っている姿。ほんの数日だがそれなりに動きも変化があり……実戦で試す必要はあるだろうけど、成長しているのは間違いなさそうだ。


 五大魔族と今後戦っていく以上、どれだけ強くなっても損はない。さらにシルヴィが仲間に加わったことを考えれば……ガーナイゼを訪れたことは非常に良かったと言える。

 この町における目的は果たしたと言っていいだろう……次はどうするか。もし仲間を探すとなると、魔法使いだろうか……考えているとソフィア達の訓練が一段落する。彼女達は俺に近づき、話し掛けてきた。


「ルオン様」

「訓練は順調みたいだな」

「はい。前以上に活躍できることをお約束いたします」


 かなりの自信。さて、どの程度能力が向上したのかを確認するためにどうするか……近くに手ごろな場所はあっただろうか。

 ま、それは訓練が全て終わった後に考えればいいか……そう思っていた時、イーレイに近寄ってくる男性が。


「どうしたの?」

「来客が……イーレイさんをお呼びなのですが」

「名前は?」


 会話が聞こえる。なんとなくそちらに耳を傾けると、驚くべき答えが。


「ネストル=イバーツと」


 ――え、と俺は驚いた。その人物は、現在ラディと共に行動している戦士じゃないか。


 ネストルは元々この町で仲間になるキャラであり、能力的にはあらゆる能力が平均以上だったが、特に防御面に優れている守備重視の戦士である。さらに魔法防御もそこそこあるため、魔法攻撃が多くなるシナリオ後半も有用。なおかつ固有スキル『盾回避』を所持。これは盾を装備していた場合ダメージを減らす効果がある。


 攻撃に特化する方向でパーティーを組んでいた俺は採用するケースが少なかったが、堅実な能力で愛用する人物も多かった。実際ファンによる攻略サイトの投票で使用している率が高かった。バルザードのように攻撃面に特化した何かを持っているわけではないが、特性的に扱いやすいキャラであり、だからこそ使用者が多かったはずだ。


 その人物はラディと共に行動している……使い魔から報告が来る前にさっそく接触か。おそらくネストルもここの利用者だったのだろう……しかし、このタイミングで出会うというのは――


 まあ、考えても仕方がないか……俺は無言に徹し事の推移を見守ることにした。

 イーレイは「通して」と返答し、男性が入口へ向かう。少し経った後、ラディ達がやってきた。


 ラディは薄青い法衣を着込んだ、見た目二十代手前の男性。髪色は青で顔つきも髪に合わせて非常に爽やか。美形というより愛嬌があると言った方がいいのか、どこか幼さの残る顔立ちは見る者をほんわかとさせる。


 一方ネストルは鉄鎧を着込みこの場にいる誰よりも長身。短い黒髪は立つくらいのもので、やや強面の彼は三白眼という要因もあってか仲間というより敵キャラに見えてしまう。


 この出会いが何を意味するのか……俺はなおも見守っていると、イーレイが口を開いた。


「久しぶりじゃないか、ネストル。町を出たという話だったが、戻って来たのか?」

「ええ。近くに寄ったため、旅の成果を確認したく」

「ほう、稽古したいというわけか」


 呟きながらイーレイは値踏みでもするようにネストルを見据える。対する彼はどこか緊張した面持ちで見返した。


 ――彼がこの場所で剣の手ほどきを受けたかなんてゲームには描写がなかった。ただ俺がここを利用し、さらにシルヴィだって利用した経験があった。イーレイという名は結構名が通っているため、他の仲間キャラも関連している可能性がありそうだ。

 イーレイはしばしネストルを見た後、ラディへ視線を送る。


「君は?」

「ネストルの仲間、ラディ=ディアモンドと申します」


 挨拶と共に一礼。礼儀正しい彼だが……心の内は熱血漢というタイプだ。


 フィリが優しく、エイナが真面目。そしてアルトが飄々としたイメージならば彼は熱血。しかも魔法使いという身の上で。そもそも彼自身旅を始めた理由が「大陸に出現した魔族を討ち、最強の魔法使いとなる」という極めてシンプルなもので、バックボーンだってほとんど存在していない。


 ゲーム上、他の四人の主人公はシナリオの過程で魔族と戦う理由を見出すことになるのだが、彼はそういうのが非常に希薄……これは彼の自由度の高いシナリオと関係している。


 元々五人の主人公のシナリオにはそれぞれイメージが存在しており、フィリが『王道シナリオ』というのが基本方針で、エイナが『悲劇的なヒロイン』をイメージしたところから始まっている。そしてアルトは『巻き込まれ系主人公』というのが最初のコンセプトだったらしいが……ラディについてはそうしたコンセプトを作らなかった。


 これは製作者側の意向だ。シナリオに制約のあるキャラだけではフリーシナリオの醍醐味である『自分の意思で好きなように旅ができる』という利便さが隠れてしまう。けれど全ての主人公でそれをやると個性がなくなる。よって生まれたのがラディという人物である。彼はこのゲームの醍醐味であるフリーシナリオを堪能するために生まれたキャラである。


 メインシナリオが存在する他の主人公では、全てのサブイベントにかかわることができない。それは仕方のない話なのだが、そういう制約がラディはまったく存在していない。よって、この訓練場を訪れたように、色々と活動することができるというわけだ。


「――ここに来たのは、そちらの提案か?」


 イーレイが問い掛ける。するとラディは頷いた。


「はい。挨拶もありますけど、ネストルがどうしてもと」

「なんだネストル。ここに来たがったのは何か理由があるのか?」

「イーレイさんのところなら今の実力を把握できると思ったまでですよ……しかし」


 ネストルは、シルヴィへと視線を向けた。


「……珍しい顔がいるな」

「ボクのことか?」


 シルヴィが声を上げる。その視線にはどこかしら敵意が存在していた。


「単にコメントしただけだってのに、ずいぶんな態度じゃねえか」


 身を乗り出すネストル。一触即発の雰囲気だったのだが、それをイーレイが差し止めた。


「はいはい、やめる……用件はわかった。ちょっと待ってくれ」


 そこでイーレイは、なぜか俺に視線を移した。


「少し、いいか?」

「……俺ですか?」


 そう答えつつも彼女に近づく。俺達はラディ達に背を向け、小声で会話を行う。


「ネストルについていくらか気になったから腕を見るのはいいんだが……ソフィアさんと戦わせてみてもいいか?」

「何で俺にそれを……?」

「彼女の主人なわけだろう?」


 言われてみればそうか。うーん、俺としてはどちらにでもいいのだが……ソフィアの実力を確認する意味合いとしてはよさそうな感じか。


「いいですよ。ただしソフィアの了解はとってくださいよ」

「わかってるさ」


 そう答えイーレイは、改めてネストル達へ向き直ると説明を行い――結果としてソフィアは提案を受け入れ、彼女とネストルが対峙することとなった。


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