主人公の特性
翌日、俺達は該当の洞窟へと入り込んだ。
名前は確か、ロマスの洞窟。ロマスというのは単なる地方名なので、単にロマス地方で見つかった洞窟という意味だ。
で、当然ながらここにいる敵は弱い……俺にしてみれば。チート級の能力を持っていることがわからないように武器自体は普通の物を使っているわけだけど、それでもここの敵は全て一撃で倒してしまう。その対策として、魔物と相対はするけど基本攻撃を掠めるとかそんな感じで立ち回るようにしていた。
ちょっと苦戦するといった雰囲気を出しつつ魔物を倒す……最初は結構苦労したが、洞窟に入って一時間もすれば慣れ、どうにかバレないよう立ち回ることができた。
「ずいぶんと、手慣れていますね」
そうした中、洞窟内で休憩という時になってフィリが話し掛けてきた。俺は先日の酒場での出来事がトラウマとなっているため緊張しつつ、
「まあ、この辺りのダンジョンはそれなりに回っているからな」
「ここも、ですか?」
「ここまで奥に入ったのは初めてだ。気を付けろよ」
言葉にフィリは頷く……一方、女性二人組は周囲にせわしなく視線を向けている。
ゲーム上、コーリの方は序盤魔法攻撃を使ってくる相手もいないためかなり優秀なのだが……実際この洞窟で一番敵を倒しているのは彼女だ。
一方のカティについても、それなりに使える……が、ゲーム上でMPという制約があったのと同様、魔力を節制しているためあまり派手な魔法は使っていない。
ただこれは仕方がない……ちなみにゲーム上では技を使用する場合はSP、魔法を使用する場合はMPとしてそれぞれ独立していたが、SPの方は多少ながら自然回復するようになっていた。なので手数を多くしたい場合は戦士を中心に動かすといい……ただ魔法の方が単発の威力が高いので、どちらを中心にしても最後まで戦える。
成長に関しては自由度が高いため、例えばコーリが魔法を覚えることが可能だし、カティが技を覚えることもできる。けどこの様子だと、たぶん両者ともに技と魔法一辺倒になるだろうな。
個人的に、コーリは補助魔法くらい憶えた方が終盤でも役立つんだけど……今その辺のアドバイスはしなくてもいいか。まだ彼女が最終パーティーのメンバーになるかどうかもわからないし。
「では、進もうか」
フィリの言葉に女性は頷き、移動を再開する。そしてまたも魔物と遭遇。フィリ達は一切不満を上げず、指示を出しつつ戦いを始める。
――ここで、俺はフィリに対し少なからず驚くことがあった。それは彼の成長速度。洞窟に入り彼も明らかに成長している。
ゲーム上で言えば、最初のダンジョンが初期レベルで攻略できるとすれば、ここの洞窟は最低でも二、三は上げないと制覇は厳しい場所となっている。その程度大したことがないように思えるかもしれないが……彼は明らかにそのくらいのレベルが上がっている。俺が今まで見てきた冒険者とか剣士とかは、一つのダンジョンを潜り抜けたとしてもこうまで簡単に成長はしなかった。
レベルアップの速度が異常に早い……その事実を俺はフィリを見て確信する。
そして、こうまで簡単に強くなっていくのだとしたら、そりゃあ他の面々が期待するのも頷ける。コーリやカティだって相当なものだが、フィリが持つ仲間を引き入れるカリスマ的な能力を考えると……賢者の血を継ぐといったことも相まって、主人公に足る器なのは確信できる。
なるほど、主人公というか英雄とか勇者と呼ばれる『本物』の存在は、こうした時から明らかに他と違うわけだ……妙な所で納得しつつ俺達は進む。
さて、いよいよこの洞窟のボスが近くなってきた。ここのボスは洞窟奥で封印されていた魔獣。主人公が訪れた時偶然復活するのだが……よくよく考えればご都合主義と言っても差し支えない状況だ。
けどこういうのだって彼が英雄となれば「そういう片鱗があったのだ」とか後付けで理由にされるんだろうな。
最奥まで到達した時、フィリが一度立ち止まる。お、いよいよだな。
「……気配がする」
「え?」
コーリが応じた瞬間、洞窟内に僅かばかり地響きが生じる。女性二人が視線を巡らせる中、次の瞬間奥の壁面が突如、ガラガラと崩れ始めた。
すかさず武器を構える一行。俺もまたフィリ達に合わせるように剣を構え……そいつは現れた。
灰色の体毛を伴った、狼……なのだが、その顔は異形と呼んでも差し支えないくらいに歪んでおり、見る者に恐怖を与える存在と化している。
名前は確か……ドーンウルフだったかな。
「こいつは……!」
フィリが呟く。カティやコーリがどうするべきか彼へ視線を送っているが、他ならぬ彼は魔獣を注視して思考する。
ゲームなら問答無用で戦闘になるのだが……どうする?
「――フィリ」
俺が声を掛ける間に、魔獣がさらに近づく。そして彼は、
「俺とコーリは前線に立つ。カティとルオンさんは後衛で援護を」
「了解」
「わかりました」
俺とカティは了承し、引き下がる。そうしてフィリとコーリが前に出たのだが……果たして、勝てるのか?
ボスとしての能力は見た目に反しそう高くない。敵を倒した数から考えると、洞窟に入った時点よりレベルも上がっているだろうしフィリでも十分勝てる可能性はある。
だが……一つ問題があった。こいつはそこそこ攻撃力が高く、なおかつゲーム上のステータス異常で『ダウン』という効果を与える。一口に言えば一定時間身動きが取れなくなる気絶効果みたいなもので、これを利用し畳み掛けられると沈む恐れがある。
おそらくカティは攻撃魔法により援護するだろう……なら、こっちは補助を担当するかな。
「行くぞ!」
フィリが気合を入れるべく声を張り上げ、戦闘を開始する。最初に攻撃したのはフィリ。それは見事にヒットし、魔獣にしかとダメージを与える。
とはいえ、それで魔獣を倒せるわけでもなく――魔獣の反撃。突如前傾姿勢になったかと思うと、勢いをつけ前足にある爪で攻撃を行う。
フィリはそれを剣で防いだ……が、威力を殺しきれず、僅かだが爪が鎧に当たる。
「くっ!」
「フィリ!」
コーリが声を上げながらカバーに入るように攻撃。その斬撃に魔獣は多少よろけ、
「――食らいなさい!」
カティが立て続けに魔法を放つ。使用したのは炎の魔法……『ファイアボール』という基本魔法で、火球が魔獣へ直撃する。
見事な連携……攻撃は余すところなくヒットし、魔獣の動きを一時止めた。しかし、
「ふっ!」
追撃のフィリの一撃を、魔獣は前足で弾き……俺は反射的にまずいと思った。
次に生じたのは、フィリへ突撃する魔獣の姿。彼は避けることはできず剣を盾にして防ぐ……結果、彼は大きく弾き飛ばされた。
「っ!」
俺の目から見て間違いなく『ダウン』状態に陥った……なら、ここは。
「フィリ!」
声と共に、俺は回復魔法を使用。『天の聖水』という、状態異常とHPを回復させる中級魔法だ。
光が僅かの間フィリに収束し、傷が癒えた。ついでに補助魔法でも掛けようか迷ったが、
「ありがとうございます」
フィリはすぐさま体勢を立て直し、駆けた。どうやら必要ない……俺はそう心の中で思った。
かくして、およそ十五分後決着がついた。ゲームしている時と比べれば遥かに時間が掛かっているが、まあこんなものだろう。
「これで、依頼は終了か」
魔獣が落としたアイテムを拾い、フィリは呟く。
「手に入れた情報では、洞窟奥深くにあんな魔物はいなかったはずだけど……やっぱり、魔族の影響があるのか?」
「かも、しれないわね」
フィリの言葉に深刻な顔で応じるコーリ。俺とカティは同時に頷き、
「それじゃあ、戻ろう」
フィリが告げ、俺達は洞窟を後にした……終わってみれば何のことはないものだったが、こうして主人公と共にパーティーを組んで戦ったことは、良い経験になった。