敵は誰か
「まず、先ほども言いましたが明瞭な証拠はありません。こうしてお話しするのが必要だと思い、今お伝えしますが……」
エメナはさらに確認を行う。そこで俺は「わかっている」と答え、
「首謀者だとして下手にマークするのは、怪しまれるしまずいということだろ? こちらも無理はしない。証拠がないのなら、例えば使い魔を利用するとか、変な形で干渉することはしないと約束する」
エメナは頷く……さて、本題だが、
「わかりました。それと王女お二方に話すのも、ルオン様の判断にお任せします」
「了解した」
「では、肝心の名前ですが……首謀者なのか、それとも利用されているのか、あるいは誰かと手を組んでいるのかはわかりません。しかし間違いなく、兄上が関わっていると思います」
兄上、ということは――
「リヴィナ王子が?」
「はい」
あっさりと――血縁関係の人物が彼女を害するということは、
「その、お家騒動というような形……? いや、王位継承権については間違いなくリヴィナ王子が持っているはずだし……」
「例えば兄上が民衆から支持を得られなくて、私の評価が高い……といったことはありません。兄上が後の王になること自体は、国民も同意していますし、またそれだけの素質を持っているのは事実です」
「継承に関連することではない、と」
「はい……理由はそうですね……こういう言い方は子供じみていますが……私が気に入らない、というか」
気に入らない? さすがにそれだけの理由で妹を狙うのはいくらなんでもやり過ぎではなかろうか。
この一事がもしリヴィナ王子の仕業だとしたら、もし露見した時のダメージは計り知れない。下手すると支持している国民達の反発だって生む可能性がある。そうなれば、場合によっては妹が継承権を手に入れてしまう可能性も――
「こういう言い方をしてしまうと微妙ですが……表面上、私と兄は仲良くしていますが、実際のところは色々と考え方が違います」
「それはまあ、当然と言えるけど……それだけの理由で?」
「私と兄上では、根本的なところが違う……技術についての向き合い方です」
技術……リヴィナ王子は、発展し続けている技術をさらに向上させると息巻いていたわけだが、
「私は、急進的な技術発展は良くないと進言しました。現在でもさらに技術向上を目指そうとしている結果、無理が生じている部分があります。昨夜、皆さんと一緒に町を見て回りましたが、あれは言わば正の部分。負の側面というのも、無論あります……ただ」
と、エメナ王女は難しい顔をして、
「そういった点は、今後少しずつ修正していけばいい……私自身、魔法技術の発展に反対しているわけではありません。しかし、兄上は現在の進化をさらに早めようとしている……そうなれば当然、問題が出る。無理のない発展にしなければ……」
ふむ、なるほど……リヴィナ王子はとにかく技術発展を重ねて暮らしを良くしようと急進的な動きを見せている。反面、エメナ王女はどちらかというと保守的で、無理のない成長にするべきと考えているわけだ。
これだけなら単なる意見対立であり、エメナ王女をどうこうする理由にはならないよな。それに、王女自身技術そのものを否定しているわけではない。あくまでスピードが問題と言っているだけ。妹を狙うという大スキャンダルにまで発展するリスクとは釣り合わないと思うのだが、
「それだけが理由では……さすがにないよな?」
「はい、その……問題はここからです。ここからはさらに、秘密にしておいて欲しいのですが」
兄に狙われているという事実以上に、か……よっぽどの話なのか?
「これが例えば、私達の魔法技術により一から発展している、となったら私も大手を振って歓迎していると思います。それは言わば、国の根幹的な技術が大きく向上しているということに他ならない。国家の発展……そうであれば、私も無条件に受け入れたと思います」
「つまり今の技術は、自分達の手で生み出したものではない?」
「手に入れた技術の応用、ですね……秘匿されているのですが、我が国のとある場所から、遺跡が発見されました。これは数十年前の話だったのですが、山の中で調査もほとんどできず、見つかってはいたものの長年放置されているものでした。しかしそれを、父上が調査せよと命じた」
「なぜ調査を?」
「父上が考古学などに興味を示していたのが一因です。つまり、その時点では技術発展などと言うことはなかった。調査の結果、見つかった資料が膨大であり、多種多様な魔法研究の成果が出てきた」
その場所にあったのは、研究所か何かだった、というわけか。
「もちろん古代語で書かれていたため、解読作業をするだけでも相当な時間を要しました……それらが終わり、今の技術でも応用できそうなものが多数あることがわかりました。その瞬間、人類の歴史を辿る考古学から、魔法科学に変わりました」
「その遺跡はどこに?」
問い掛けにエメナ王女は山積みの資料から地図を抜き出しテーブルに広げた。そして指差した場所は、この国の中央に位置する山脈。
「山の中で、誰も見ることがなかったが故に、今まで残っていたのでしょう」
「そうだな……」
俺達の大陸における天使の遺跡みたいなものか……。
「例えば俺達の大陸には天使の遺跡が残っているけど……そうした存在の遺跡?」
「それとは少し違うようです。少なくとも他種族のものであるという資料は出てきていません。私達の祖先である可能性が極めて高いと」
純粋な人間が残したものか……であれば、技術的再現も可能、というのもなんとなく頷ける?
「その遺跡は今どうなっている? まだ国の管理下に?」
「資料は全て国の研究所の中です。もぬけの殻となってしまった遺跡に、最初は見張りも置いていたようですが……今は出入り口を封鎖しているだけで、人はいません」
もう用済みになったってことか。歴史的価値ではなく、完全に魔法技術に関わる研究しかしていない現状からも、エメナ王女は不安を抱いているということなのだろう。
「なるほど、な……あくまで古代の技術であるため、あなたは危惧しているわけだ。これ以上、研究を進めればどうなるかわからないと」
エメナ王女はコクリと頷いた。ふむ、王女が反発して兄が……という構図は理解できた。ただ、それでも妹を狙うには弱いような気がした。
それに、おそらくこれは……頭の中で推測しながら、俺は王女へさらに質問した。




