来訪と情報
その日のうちに結構候補になり得る場所を見つける……のだが、さすがにこれらを逐一探していくのは骨が折れる。ただまあ、この大陸内に情報が眠っていることしかわからない以上は、こういうやり方しかないよな。
「ソフィア達とも相談して、どう動くか決めるべきだな」
これからの予定だが、今回の会談については程なくして終了する。滞在期間はおよそ十日程度を予定しているのだが、そこから先は思い切った行動に出る。
というのも、密かに俺やソフィアといった組織に所属しているメンバーは残る……まあ、船に乗ってから途中で降りて大陸に舞い戻ってくるという感じなのだが。
では帰りはどうするのか……実を言うと、俺達が出発して以降、バールクス王国から船が出ている。俺達を調査して、その状況を見て帰還の船に乗るといった感じである。ここからが本番なので、他の組織メンバーについても動員する予定。それだけの戦力が必要になるかどうかはわからないけど、人手が多い方がいいのは事実。
会談そのものは成功すると思うので、本格的な調査は会議などの日程を全て終えてから……というわけだ。
「ふう、とりあえず何も指針がない状態からは脱却したな」
「それでも大変だろうけど」
ユノーのもっともな意見。俺は首肯し、
「ま、これは仕方がないさ……広大な大陸の中をしらみつぶしに、という感じだから。とはいえ、ここからは時間との勝負……星神との決戦がどのくらい迫っているのかわからないが、エメナ王女の旅路が終われば、いよいよって可能性もあるんだ。ここが頑張りどころだ」
と、ここでノックの音。仲間であれば音の違いでわかるようにしているのだが……違うな。資料を適度に隠しつつ、扉を開ける。
「はい」
「どうも」
エメナ王女だった。俺は周囲を見回し従者もいないことに気付く。
「今日は一人です」
「……不用心では?」
「さすがに城内で事を起こすような馬鹿な真似は相手もしないでしょう。入ってもよろしいでしょうか」
……俺は来賓とはいえ、これはこれで不用心のような気も……まあ誰かに見られているわけではないから、いいか。
中へと入れる。そこで王女は散乱した資料を一瞥し、
「候補は浮かびましたか?」
「ある程度は。とはいえ、大陸中を探せば候補はいくらでもあります……よって、作業そのものは困難を極めるでしょうね」
「……関係あるかどうかはわかりませんが、私から新たに情報が」
情報? 言葉を待っているとエメナは、
「王城と取引のある商人からの情報です……トルバスという都市はわかりますか?」
「はい。都市国家ですね」
「そうです。その場所で、ずいぶんと変わった客がいると」
客? 疑問に思う間にエメナは続ける。
「話によると、魔法関係の道具を購入している……しかも、高額な物を度々。今から半年くらい前からだそうで、その買い方がずいぶんと太っ腹で、商人の間で有名になったそうです」
魔法道具……か。しかも半年前……ふむ、
「場合によっては、そういう買い物をしている人物が、俺達が探している関係者かもしれない、と」
「はい。あくまで可能性ですが……とはいえ、何も戦いに必要な道具ばかりというわけではないので、目立っているといっただけですが」
「……それ以上の詳細は?」
「いえ、世間話の呈で話をしただけなので……こういうこともあった、というくらいのものですが」
ふむ、まったく関係ない可能性の方が高いのだが……、
「その商人は今どこに?」
「既に王都を離れていますよ?」
「すぐに情報が欲しいわけではないんだ。もし名前とか教えてもらえれば、いずれ都市を訪れた時に話を聞けるかも、と考えただけで」
そこからエメナに商人の名前を教えてもらう。まあ万が一ということもあるので、知っておいて損はないだろう。
怪しい人物などを探すには、やっぱり商人とかに聞き込みをした方がいいのかな……と思いつつ、俺は別の話題を振ることにする。
「そちらの準備は?」
「明日には終わるでしょう。そちらの会談内容が全て終わる前に、私は出発する予定です」
「こちらの見送りなどにあなたが出席することはないと」
「これ以上出発時期を遅らせると、期日に間に合わない可能性が出てくるので」
なるほど……俺達がこうしてリズファナ大陸を訪れ、エメナ王女に会ったのはギリギリだったということかな。
加えて、彼女としても切羽詰まっていたため、俺達の提案に乗っかった……そんな顛末かな。ギリギリではあったが、ベストに近いタイミングでこの国を訪れた、ということだろう。
「……密かに、この大陸へ戻り調べるのですよね?」
エメナの問い掛け。俺はそれに頷き、
「もちろん身分は隠してだけど……だから、今後は王族と会うことなどはできなくなる。あなたに護衛をつけることになるけど、この城……というか、王都に入ることも避けた方がいいかな」
「懇親会などを開きましたが、さすがにあなた方ならまだしも護衛の人間まで記憶しているとは考えにくいので、その辺りのことは大丈夫だと思いますが」
「念のためってことで。それと何かあった際に備えて言い訳くらいは考えておくさ」
俺は資料を見ながら、王女へ言及する。
「資料についてはどうしようか? まだこの部屋にあってもいいのか?」
「メモ書き通りに上手く隠してもらえれば、侍女が入っても見咎められることはないでしょう。ただ、さすがに私が旅に出てしまえば資料を返却することができなくなりますので、明日……明後日くらいには、回収させてもらいます」
「わかった。それまでに情報をまとめておくよ」
俺の言葉にエメナ王女は頷く。それで、
「……新しい情報を伝えに来ただけではない、よな?」
「はい……あなたにだけは、言っておこうかと思いまして」
俺だけに……内容を聞く前に、俺は一つ尋ねる。
「ソフィアやリーゼに聞かれたらまずい、と?」
「お二方は大きく立場が違いますし、会談中に怪しまれたら、交渉が滞る可能性もあるかと思いまして」
「……事件の首謀者について、か」
エメナはコクリと頷く。推測はしていると語ったが、確証はないため言及は控えていた。しかし、
「公園で語らなかったのは、会談に差し障ると思ったから、か」
「はい……明確な証拠がないのは事実です。黒幕……あるいは、私に危害を加える一連の出来事において、重要な立ち位置であるのは間違いないかと」
複数犯であっても、重要な立場の人物ってことか。俺が沈黙していると、エメナはさらに語り始めた。




