産業革命
その後も俺達は大通りを進んでいく。城を脱けだして三十分くらいだろうか? なおも人の数が増えていく。
横を見れば、酒盛りをしている男性が複数人。愚痴っぽく何かを仲間に語っている人や、陽気に笑い合う姿もある。仕事を終えて、この場所に合流する……そんな約束をしているのかもしれない。
俺達四人についてだが、男一人女三人ということで、悪目立ちする可能性だってあったわけだが……幸いながら絡まれるようなことにはならなかった。武器の類いは持っていなかったにしろ、近寄らせないような気配を発していたのかもしれない。あるいは……ただ単に、みんながみんな、目の前にある至福のひとときに浸っているからかもしれない。
「なるほど、魔法技術……素晴らしいわね」
大通りを見据え、リーゼが呟く。ソフィアもまた、同様の心境なのか深く頷いた。
「明かりだけでなく、色々と技術による成果が現われていますね。例えば出される料理などについても言えます」
「料理?」
疑問を寄せると、ソフィアはある店を指差した。
「あの場から、今日の懇親会で食べた食材と同じ香りがします。それはかなり高価なものだと伺っていたのですが……」
「城で提供されたものは、間違いなく高級品です。しかし、魔法技術の発展により、安価に提供できるようになった」
と、エメナがソフィアの発言に説明した。
「元々、非常に数が少なく収量も少ない食材でした……けれど技術の発展で、多く作ることができるようになったのです」
例えて言うなら俺達がパーティーで食べたものは老舗のブランド品。そして露店で提供されているものはそれよりも安い、普通の人々にも手が届くものというわけか。
「他にも、肉や魚なども、保存技術の発達によって遠方から取り寄せることができるようになりました」
「物流にも恩恵があるということですか」
「はい。生産と物流……その二つが同時に大きく発展したからこそ、眠らない町が生まれ、またこれだけの人がいても十分な食材を提供することができるようになりました」
一口に魔法技術といっても、その発展は多岐に渡るということか……。
「こうした眠らない町は、この首都だけかしら?」
リーゼが問い掛ける。それにエメナは首肯し、
「はい、技術によって収量が増えたのは事実ですが、国全体に行き渡らせることはまだ……現段階では、この首都だけですね」
なるほど、な……レヴィス王子は発展を続けていきたいという考えを持っている。それは即ち、国全体……地方都市などでもこうした眠らない町が生み出せるだけの技術発展や物流能力の向上を図りたいというわけだ。
もし、目の前の状況がこの国全体に生まれたのならば……それは間違いなく、この世界における産業革命ということになるだろう。
「ふーむ、こうなるとますます興味が湧いてくるわね」
リーゼが呟く。なんというか、エメナと話をする方が目的としては大きかったはずだが、いつのまにか魔法技術に関する検証を始めている。
「具体的な内容については私にもわかりませんが……少なくとも、技術発展によって目の前の町があるのは事実です」
「私が懇親会で聞いた技術は、数多にある技術革新の一つ、ということかしら……うんうん、なるほど。レヴィス王子が主張したいことは理解できるわ。こうした光景を、あらゆる町にもたらすことができたら、それは紛れもなく国の大きな発展につながるもの」
リーゼがそう述べた次の瞬間だった。エメナは「そうですね」と同意したのだが……ほんの少し、引っかかるような雰囲気を見せた。
それは違和感という表現にも満たないものではあったのだが……なんというか、こうした魔法技術の発展に対し、否定とまではいかないが思うところがあるのだろうか。
もしかすると、こうした発展によって生じる問題点なんかを彼女は知っているのかもしれない……実際、前世の産業革命だって生産性の大幅な向上と引き換えに、色々な問題が生じた。急速な発展というのは、当然負の影響もある。人間側が技術発展に適応できなかったり、あるいは法整備などが追いつかないとか……その辺り、色々と尋ねてみたいところだな。
とはいえ、さすがにそこまで踏み込むのは難しいかな……と、ソフィアやリーゼはエメナと話をしながら別の店へ近づく。ちなみにお金を払っているのは俺。ま、別にいいんだけど。
「……なんだか、平和だねえ」
ふいに、懐から声がした。ユノーだ。
「そういえば、一切声を出していなかったな。いたのさえ忘れてた」
「あのね……ま、あたしが外に出たら大騒ぎするでしょ? エメナ王女だっているし、それは避けたいから配慮しているんだよ」
「……本当は、外に出て店を見て回りたいんだな?」
「当然でしょ」
「なら、この騒動が解決したら改めて、ということでいいか?」
「うむ。約束だよ」
彼女の言葉に俺は「わかった」と応じる……さて、エメナの表情についてもずいぶん柔らかくなった。町の陽気な雰囲気に当てられているところもあるだろう。
ならば、王女のもっと深い部分へ踏み込むチャンスだが……と、ここでリーゼもわかっている、とでも主張する視線を俺へ投げかけてきた。本来の目的はちゃんとわかっている、ということか。
どこかのタイミングで話をするみたいだが、周囲が騒がしい町中では難しいか? と、思っていたらリーゼは行動に移した。
「さて、この大通り……一番端まで行きたいのだけど、問題はないかしら?」
「構いませんよ」
うん、人気のないところへ移動してから、話をするってことだな……そこから俺達は町を見て回りながら、雑談に興じる。
さて、ここからが本題ではあるな……どういう風に話を持っていくべきか。ただ、リーゼやソフィアからは何か考えがあるような雰囲気も見て取れる。
なら、二人に任せることにしようかな。俺は周囲に注意を向けつつ、彼女達の会話に耳を傾ける。内容はあくまで魔法技術に関すること。エメナは騎士なのでそれほど知識が多いわけではないようだが……それでも、ある程度勉強はしているのか、ソフィア達の質問にも応じることができている。
エメナにとっても、他大陸に技術を輸出できるかもしれないチャンスなわけで、精一杯話をしようとしているのだろう……親交を深めてはいるのだが、あくまで相手が王女ということでまだ踏み込んだ会話には発展していない。
そこをどう崩すのか……考える間に、大通りの端へと到達した。




