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賢者の剣  作者: 陽山純樹
王女との旅路

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伯爵の結末

 魔力を収束していない以上、アーザックは魔法を使えない。となれば攻撃手段は両手に存在する爪しかないが――相手は攻撃の気配を感じ取ったか、防御の構えを見せる。


 こちらは刺突を放つ――水流の流れに沿い急所である心臓を狙い仕掛ける。

 剣が防御した左腕に当たる。アーザックは腕に魔力強化を施したためか、剣の先端は腕を貫くことができず、止まった。


「これで終わらせるつもりだったか? しかし、駄目だったな」


 アーザックは俺をにらみつけるように視線を向ける。

 水流が途切れる。俺の剣がアーザックの腕を刺したまま、一時動かない。


 このまま膠着(こうちゃく)すれば空いているもう片方の腕が爪を俺へと伸ばすだろう。だがそれよりも前に俺は、刀身に魔力を集める。


「――何!?」


 下級魔導技『聖光剣』――エイナも使用していた技だが、光属性が弱点であるアーザックにとっては、非常に厄介な攻撃だろう。

 結果魔導技により、剣が腕へ食い込んでいく。


「貴様――!」


 アーザックが右腕を掲げ反撃に出ようとする。だが――これで終わりだ!

 光属性の力により一気に剣がアーザックの腕を通過し、心臓を貫いた。掲げようとしていた相手の右腕がビクリと一度震え――少しして、攻撃しようとした腕が下りた。


 この戦いの結果は、アーザックがどういう攻撃をしてくるのか最初からわかっていたためこうなったと言えるだろう。事前情報がなくとも単独なら問題なかったが、動けないリリシャ達というハンデもあった……けど、彼女達がやられることなく対処できた。


 アーザックは胸を突き刺されたまま呻く。その動きがどんどん鈍くなり……やはりゲームとは異なり、急所に対する一撃は決定打となったようだ。


 力によるゴリ押しではなく、きちんと状況判断しての戦い……この結果は俺としても満足だ。力は出していないし、技や魔法も下級のものを利用して対処した。これなら、魔族が監視していても大丈夫だろう……考える間にアーザックが吠えた。後退し俺の剣から脱した――しかし、その体から魔力が失われていく。


「……わたし、は」


 呟いたと同時、倒れた――あっけない終わりだったが、これでリリシャに関するイベントは終了だ。


 ふうと息をついた直後、パチンと何かが弾ける音が。直後、リリシャ達が動き出す……魔法維持は道具によるものだったが、アーザックの魔力が何かしら仕掛けに使われていたらしい……だが伯爵が死んだことにより魔法も途切れた。


「すまない、助かった」


 バルザードが俺に発言する。


「君がいなければ、我々は間違いなく全滅していただろう」

「どうも」


 肩をすくめ、俺は倒れるアーザックを見据える。そこで、リリシャから質問が。


「伯爵は『ダークレイン』を使用したけれど……あの時『セイントウォール』を使ったということは、読んでいたの?」


 ――客観的に見れば、アーザックの攻撃を把握していたとも感じられるよな。そこで俺は、肩をすくめもっともらしい理由を語る。


「動けない人間がいる以上、そちらを狙う可能性を考えた……で、魔族から力をもらっているとすれば、闇魔法を使うんじゃないかと推測して、防御魔法を唱えたんだよ。この辺りは賭けに近いところもあった」

「そう……どちらにせよ、以後気を付けなければならないわね」


 リリシャは歎息し、倒れるアーザックへ視線を向ける。


「とにかく、助かったわ。あなたに感謝しないと」

「いいさ……ところで、伯爵が死んだことにより色々騒動が起きるんじゃないか?」

「魔族と手を組んでいる事実が周知されれば、それほど混乱もないかと」


 エイナが言う。次いでリリシャに目を向け、


「もし何かあれば、協力します」

「わかった……それでは、戻ることにしましょう」


 彼女の言葉により――俺達は町へ帰還することとなった。






 翌日、伯爵も亡くなったために色々と混乱も生じた。

 だがそれ以上に伯爵が魔族と手を組んでいた――エイナも言っていたがこの事実が知れ渡ったため、伯爵の私兵もすんなりと味方になった。


 この辺りはリリシャの尽力もあるのだろう……俺の活動はほぼ終わったと考えていい。このままガーナイゼに戻ってもいいのだが――確認しておくべきことがあった。


「リリシャさんは……これからどうするんだ?」


 場所は教会の外。事態をそれなりにまとめ休憩していた彼女に、俺は話し掛けた。

 ソフィアやステラと同様に死ぬはずだった人を生かした以上、顛末を確認しておかなければならなかった。


 リリシャがどう行動するかを聞いて、場合によっては俺も動き方を考えないと……そう思考している間に、リリシャから返答が。


「……今回の件、私自身思うところもあったわ」

「思うところ?」

「伯爵が魔族と手を結んでいた……この事実から、魔王はただ侵略するだけでなくあの手この手で人間側を陥れようとしている。これを防ぐには当然、魔族達を打ち払わなければならない。けど」


 リリシャは空を見上げつつ、なおも語る。


「一人で戦うのには限界がある」

「――なら、俺達の出番だな」


 バルザードだった。見れば背後からエイナと共に近づいてくる。


「一段落したんだろ? これ以降の後処理は国に任せ、あんたは魔族と戦うべきだ。俺達と共に動くのはどうだ?」

「……そう言うと思っていたわ。ええ、私もそのつもりだった」


 リリシャは語る。ふむ、エイナ達と共に行動する……現状ではベターな答えと言えるだろうな。ひとまず使い魔でエイナ達と一緒に観察するので十分だろう。


「で、そっちはどうする?」


 バルザードが問う。俺は彼を見返し、


「ひとまず、俺もここを訪れた目的を果たした……この場所に用はないので、また旅に」

「根無し草という感じか……」


 バルザードは俺を少しばかり見据えた後、口を開いた。


「……伯爵の罠を撃ち破ったことを考えれば、色々と行動しているのだろう?」

「まあね」

「それについて詳しく聞いてみたい気もするが……」


 俺は肩をすくめる。態度から話す気はないと悟ったか、彼は息をついた。


「ま、いいさ。もし魔族と戦うのであれば、また一緒になることもあるかもしれんな」

「だな。その時はよろしく」


 可能性として考えられるのは、ガーナイゼ近くにいる五大魔族の攻略戦か……ソフィアのこともある以上、注意しないといけないだろうな。

 それから多少ながら会話を成した後、再会を誓い……俺達は別れた。これにてイベントは完全に終了。リリシャを助け出したので俺も満足だ。


 さて、帰るとしよう……期日の七日までまだ時間はあるが、どうするか。


 ゲームの主人公達の動向を確認するか、と思った時使い魔から報告が届いた。現在フィリとアルトについては取り立てて問題ない。

 他の四人と比べて特殊なシナリオを持つ人物も大丈夫。しかし、五人の主人公のうち唯一の魔法使いである人物……彼が行こうとしている場所は――


「ガーナイゼに向かっているのか?」


 名はラディ=ディアモンド――彼が、ガーナイゼに進路を向けている。

 彼の目的は極めてシンプルであり、それ即ち最強の魔法使いになること……五大魔族や魔王という存在と戦うのもそこに関係する、好戦的な人物である。


 彼自身は生い立ちやシナリオが極めてシンプル。その代わりゲーム上に存在するあらゆるサブイベントをこなすことができる。フリーシナリオを標榜(ひょうぼう)するゲームで一番自由度の高い設定だった。よって現実世界の今では色々なイベントを起こしつつ動き回っている状況。メインとなるシナリオがシンプルであるが故に一番活動的なのも彼。仲間と共にガーナイゼを訪れるようだが……果たして何の用なのか?


 これは様子を見ておくべきだな……決心し、ガーナイゼへ戻ることとなった。


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