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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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繁華街

 魔法技術により、夜でも多数の明かりを維持できるようになった……それは言ってみれば前世で言うところの電気のような立ち位置だろうか。ともあれ、俺達の目の前に広がっていたのは、まさしく繁華街。真っ暗な夜の中で一際輝く、艶やかな町がそこにはあった。


「すごい、ですね……」


 ソフィアが感嘆の声を漏らす。リーゼは小さく頷き、俺もまた「そうだな」と同意した。

 俺達が馬車で通ってきたメインストリートに屋台が建ち並んでおり、人々は喋り、笑い、酒を飲んで陽気に歌っている者もいる。また兵士の姿もあり、喧嘩などが発生すればすぐに対応はできそうだ。


「兵士には見つからない方が良いかしら?」


 リーゼが疑問を呈する。そこでエメナは、


「町と城で兵士は所属が違います。城の人間が町の警備をすることはありませんし、私の顔は知られていないので問題はないでしょう」


 言いながら彼女はローブにあるフードを被る。大丈夫と語ってはいるが、念のためというわけか。


「大通り以外にも、こうした屋台は存在していますが……路地裏だと、夜専門で開いている店などもあります」


 よくよく見れば、大通りの左右に広がる建物は全て閉まっている。なるほど、昼間は店が建ち並び、夜は屋台が並ぶということか。


「店の店主と屋台の店主は同一人物なんでしょうか?」


 なんとなく俺が疑問を寄せるとエメナは、


「大通りに店を構える場合、建物の目の前にある道路についても、町に申請すれば露店を開くなどできます。屋台については許可証を掲示することで店舗運営を認められています。同一人物なのかは……さすがにわかりませんね」


 ふむ、店舗前のスペースを活用して、夜も店を開いているというわけか。たぶん店のオーナーとかが屋台をやろうとしている人に貸し与えているとか、そんなやり方もありそうだな。

 昼間は馬車の往来とかもあるため、屋台などが並ぶと邪魔で仕方がないのだが、夜ともなればそうした乗り物は存在しない。よって、人々が自由に歩き回っている。


 屋台の数もそうだが、町を歩いている人の数も相当多い……バールクス王国の首都、フィリンテレスにだって夜開く店がゼロというわけではない。代表的なのは酒場とかだが、さすがにこれだけ屋台が建ち並んで多数の人を誘い込んでいるというのは、見たことがない。

 俺は明かりに目を向ける。魔法による照明のはずで、実際炎などを使った際に生じるゆらめきなどはゼロ。光量もかなりあって、直視することができないくらいのもの。


 そうした明かりがそこかしこに存在する。屋台の中などにも同じような明かりが存在し、誰でも明かりを使うことができる様子。


「技術革新により、ああした明かりが安価で大量に生み出すことができた、ということですね」

「はい、そうなります」


 俺の呟きにエメナは律儀に返す。そこでソフィアとリーゼが目線で通りを歩こうと誘い、それに従うことにする。

 屋台の種類は、その多くが飲食店。もちろん酒もあり、酔っ払っている人がそこかしこにいる。この状況だと、トラブルに遭うとしたら酔っ払いに絡まれるとか、かな。面倒だったら最悪眠らせて兵士に引き渡してしまえばいいだろう。


 その他にも、宝石などを扱っている店もある……が、値段を見たところ安かったので、イミテーションの類いだとわかる。買う人がいるのか疑問に思ったが、女性がフラフラと立ち寄って商品を眺めていたりする。結構需要はあるみたいだな。

 男女比率としては、酒を飲む機会が多そうなので男性ばかりでもおかしくないのだが……明かりがそうさせているのか、女性も結構多い。来やすい雰囲気になっているようだ。


 結果的にソフィア達も問題なく溶け込んでいるようだ……と、良い匂いが鼻をくすぐってくる。露店で販売されている物も色々あって、区画内に椅子などを用意してその場で食べる物とか、あるいは買い食いできそうな物まである。


「……食べてみるか?」


 なんとなく尋ねてみると、ソフィア達はこちらを見た。


「昼間の内に、この国のお金は入手していたし」

「いつの間に……ま、実地で色々やるのもいいわね。あ、エメナ王女……と、王女はさすがにまずいか」


 リーゼはエメナへ向けニッコリと笑う。


「さすがに名前は知れ渡っているかしら。何と呼んだらいい?」

「では、エナと。縮めただけですけど、友人からはそう呼ばれているので」

「そう、私達もリーゼ、ソフィアで構わないわ……で、エナ。あなたはこうして夜の町に立ち入って、物を食べたりした経験は?」

「今までないですね。城から町の明かりを見たことがあるだけで、こうして町中を歩き回ることも初めてです」

「なるほど、ね。なら、私達と一緒に体験しましょう」


 リーゼが半ば先導する形で進んでいく。途中で匂いに釣られてお菓子を購入。ラスクみたいなパンを使ったもので、カリッとした食感に加えてハチミツの甘さが口の中と鼻の中を駆け抜ける。


「美味しいですね」

「酒飲みが多い感じだけど、意外にこういう物を取り扱う店も多いな」


 酒の肴に甘い物……というのもあり得ない話ではないけど、お菓子が普通に販売されているのは面白い。

 改めて通りを眺めると、年齢層も結構バラバラだ。さすがに子どもはいない……いや、少しはいるな。深夜というわけではないし、中には夜も起きている子だっているだろうけど……保護者とかきちんといるんだよな?


 ただまあ、子どもが明かりの下とはいえ夜の町を歩けるというのは、それだけ治安が良いという証明でもある。大通り全域……とまではいかないにしろ、明かりが存在する区画はかなり広い。それだけの規模なら人も多いしトラブルだって相応にあるはずだけど……きちんと兵士とかが対処できている、ということだな。


「……実のところ、技術発展によりこうして夜の町が出来上がったわけですが、最初の頃はトラブル続きでした」


 と、ふいにエメナは語り出す。


「兵士達がどのように巡回するのかも、決まっていませんでしたからね……」

「なるほど、それなら当然騒動になるよな……俺達が見ている光景は、みんなが努力した結果かな?」

「はい、まさしく」


 酔っ払いについては、早期に兵士が見つけてトラブルを未然に防いでいる感じだな。雑音が多いのであまり遠くの音が聞こえないけど、たぶん喧嘩みたいになっているところだってあるはずだ。

 ただ、兵士達はそれを取り押さえることができる……武器だって持っているわけだし、対処はそう難しくない、ということなのだろうと俺は思った。


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