主役の王女
「発展を支えるその魔石、シェルジア大陸でも使えるんですか?」
俺は騎士ジュファに疑問を投げかける。それに彼は頷いて、
「ええ、可能ですよ。あるいは、そちらの大陸に魔石自体は存在しているかもしれません」
「技術を用いて利用可能にする……つまり、技術の売り込みですか」
「そういうやり方で交渉しようとしている人もいるかもしれませんね……ただ、私は詳しいことはわかりませんし、その辺りは商人の方が良く知っているでしょう」
さすがに専門外か……ふむ、ソフィア達から何かしら話を聞けるかもしれないな。パーティーが終わったら聞いてみよう。
そこからさらにジュファといくらか雑談した後、彼は人に呼ばれこの場を離れた……さて、これからどうするか。
このまま誰かが来るのを待つのか、それとも自分から動くか。まだソフィア達は貴族達との話を続けている。あの状況に変化がなければ、こちらに来る可能性は低そうだけど――
悩んでいた時、俺の視界に近づいてくる人影が映った。それは女性で、出で立ちを見た瞬間、誰なのかわかってしまった。
なぜなら……ゲームにいた、登場人物とまったく同じ特徴をしていたためだ。
「隣、よろしいでしょうか?」
特徴的なのは青色の髪。ソフィアと同じようなロングヘアで、黒い双眸は俺を射抜きどこか緊張している。
顔立ちは……美人なのは間違いなく、また同時にまとっている雰囲気はソフィアやリーゼとは違う。明るいとも儚いとも違う。イメージするとしたら、樹木だろうか。自然の偉大さを想起させるような、王女らしからぬ空気をまとっていた。
「……はい、どうぞ」
返答すると彼女は隣へとやってくる。そして俺と顔を合わせ、
「お初にお目に掛かります。私はエメナ=ラーディア=リーベイト……この国の第二王女にあたります」
「よろしくお願いします」
返答に笑みを浮かべる彼女。うん、名前もゲームと同じ……彼女こそ、六作目『ディスオーダー・クラウン』の主役である。
「英雄と呼ばれるあなたの話を聞きたくて、ここに来ました」
「語れることは多くないけどね……その、英雄譚みたいなものをお望みですか?」
「私も多少ではありますが、剣を握る者。その戦いぶりなどに興味を持ち」
剣か……ソフィアと同じように剣士として戦える彼女なのだが、理由までは同じだろうか?
「剣を手に取る理由はありますか?」
「理由、ですか……この国では幼少の頃より王家は武芸を学びます。私は剣の師が存在し、その関係で騎士として活動したこともあります」
強制、というわけか。
「今回来訪したソフィーリア様とリーゼレイト様……お二方もまた、武器を手に取り戦っていると聞き及びました」
「はい。特にソフィア……ソフィーリア王女は魔王を討つための切り札となった。彼女が常日頃強くなるため、剣を振っていたからこそ、魔王を打倒できたと考えて良いでしょう」
「……ここへ来る前に一度話をしました。お二方とも、本当に芯のお強い方で」
芯……俺はなんとなく合点がいった。たぶん、武芸を学ぶことを強制されているため、戦う理由は少しばかり希薄なのだ。
もちろんエメナ自身、国のためにとか思っている部分もあるだろうけど……それ以上に義務感が勝っていると。まあこれはソフィアの方が例外という感じで捉えた方がいいのだろう。
「……剣を握り続ける理由は人それぞれです。重要なのは自分が剣を持って何をすべきかだと思いますよ」
その言葉にエメナは少し驚いた後、
「ありがとうございます……それでよろしければ、お話を」
「はい……ただ、王女達へ話を向けても良かったのでは?」
「お二方とも、忙しそうだったので……会話の内容が内容だけに、邪魔するのも悪いと思いまして」
配慮しているというわけか。気を遣っているのは、立場的な問題もあるのだろうか。
ソフィアとリーゼは国の代表という形でここを訪れている。つまり、国を背負い一定の裁量権を持っているわけだ。それに対しエメナはあくまで王女。当然ながら執政に携わっているわけではなく、立場的にはずいぶんと違う。
彼女はおそらく政治的な部分にはあまり関わらないよう、指示されているのだろう。それはまだ早いと王が述べているためか、それとも何かしら理由があるのか――
「そうですか。なら――」
色々と考えながら、俺は魔王との戦いについて語り始める。出だしがソフィア……国を追われるところからなので、どこか表情が曇るようなところもあったが……厳しい戦いながら、希望を胸に戦い続けたという事実に対し、彼女も何かしら思うところがあった様子だ。
語った時間はおよそ十五分くらいだけど……かいつまんだ説明ではあったが、彼女は俺へ礼を述べた。
「話してくださり、ありがとうございます」
「より詳しい話が聞きたいのであれば、明日以降、別の席で語りますよ。王女達と一緒に」
そのくらいの時間はあるだろうし……しかしエメナは、
「はい、ありがとうございます……ただ、それができるかどうかはわからないので」
なんだか浮かない表情。それは残念がっているようにも見えるし、叶わない願いを抱いているようにも見える。
「……何かあるんですか?」
「来訪された皆様にはお伝えしていないのですが、皆様が滞在されている間に、私はこの王都を出なければなりませんので」
うん、それこそ物語の冒頭というわけだ。
「そうなんですか……明日以降は準備のために動かないといけない?」
「はい、その通りです」
微笑を浮かべる……なんというか、雰囲気は良いのに少しばかり陰があるようにも見える。まるで、これから起こることがわかっているような……。
もしかすると彼女は何かしら予感をしていたのか? 予想通り誘拐事件が勃発し、偶然主人公に助けられて……うん、あり得るな。そうであれば、彼女の態度がどこか陰があるのも頷ける。
ここについては放っておいても主人公が助けるし、問題はない……と思うのだけれど、俺達が干渉してしまっているからな。何かしらフォローをする必要があるかもしれないが……やるにしても、情報は欲しいな。
ただ彼女と接する機会はこのパーティーが終わればほとんどない……と考えると、情報を得るのは厳しいか? いや、待て。
「……今日しか暇がないのであれば」
と、俺は彼女へ提案することにする。少しばかり強引ではあるが――
「例えば、そうですね……このパーティーが終わった後とか、もし時間があれば王女二人を交え話とかどうでしょうか?」




