通信手段
先頭にいたソフィアとリーゼが玉座前の階段下でまずはひざまづく。それに合わせ俺達もまた同じ動作を行い、
「ご招待、感謝致します」
「こちらこそ、よくぞ来てくれた……礼はそのくらいでいい。ようこそ、お二方」
ソフィアとリーゼが動く音。顔を上げると二人は立ち上がっていたので、俺もまた立ち上がる。
「先に自己紹介はしておこう。私の名はバロト=ラーディア=リーベイト。現在この国の執政を担う者にして、この玉座を預かる者だ」
王の姿は、白を基調とした法衣に加え、年齢は……白髪が混ざってはいるけど黒が目立つ髪色から考えて、四十から五十の間くらいだろうか? 精悍な顔つきは王として国を背負うだけの資質があることをはっきり物語っており、その威厳が玉座の間全てを包んでいる。
そんな王は俺達へ先の発言を行った後、視線を変える。見据えたのは、俺だ。
「英雄……ルオン=マディンだったか」
「はい。お会いできて光栄です」
「こちらも同じだ……ふむ、リーゼレイト王女の存在を含め、この場にいる者……戦士達は全員、何かしら強い気配を持っているな。そう……数多の戦いをくぐり抜けてきた雰囲気を」
魔王だけでなく、様々な大陸を渡り歩いたからな……とはいえ騎士とかもいるし、これは半分くらい世辞かな?
「さて、私達としては此度の来訪で終わってほしくはない。大陸が離れているとはいえ、今後も交流をしていきたい。こちらから送った使者に加え、王女達の来訪……その交流を確固たるものとするためのものであると確信している」
「はい。私達もリーベイト聖王国と共に歩み、教えを受けたいと考えております。これはバールクス王国。ひいてはジイルダイン王国の総意と考えていただければ」
「ふむ、魔王など脅威をはね除けた実績を考えれば、むしろ教わるのは私達かもしれないが……それぞれの国において、足りないものは多いだろう。それを埋めるような、良い話し合いができることを期待している」
――そんなやり取りをかわして、謁見は終了する。表面上敵意があるわけではない。俺達を囲っていた重臣達の表情も賓客を迎え入れるためのものであり、こちらのことを害しようとか、そんな雰囲気はなさそうだった。
まあ確証はないので、油断はできないわけだけど……俺達はその後、ジュファの案内を受けて宿泊する部屋へと通される。個室であり、賓客を迎え入れるためか、ずいぶんと広い。
案内された直後、ジュファから「夕食は祝宴を予定している」との話を受けた。どういう形式なのかわからないけれど、時間が来るまではゆっくりできそうだ。
「さて、と」
俺は肩を軽く回した後、懐にいるユノーへ呼び掛ける。
「そっちはいい加減、出てもいいぞ?」
「そうだねー……でも、単独で行動してて見つかったらまずいでしょ?」
「こちら側に小さな天使が来ることは通達しているけど、どのくらい周知されているのかはわからないのは確かだな……そういえば王様はひとまずユノーのことを言及しなかった。ま、祝宴の時に話を振ってくるかもしれないな」
「それまで待っていた方がよさそうだね」
……物わかりが良いな。窮屈な状況を脱したら、勝手にやるものだと思っていたが。
と、そんな俺の思考をユノーは読み取ったようで、
「すぐにでもどっかに飛んでいくとか思ってたでしょ?」
「そうだな」
「即答か……ま、仕方がないけどね。大事な作戦なわけだし、邪魔をすることはしないよ。組織内にいて、みんな必死に活動しているのがわかるから」
「……そうか」
彼女なりに色々と思うところはあるようだ。
そこから俺はまず作業を開始する。とはいえそれより先に、部屋の状況を確認。家具などを一通り注視。するとユノーが、
「何をしているの?」
「魔力を保有する物なんかを探っている……早い話が、この場所が監視されているのかどうかの確認だ」
「向こうは友好的だし、そんなことしてくるとは思えないけど」
「念のためと思ってもらえればいいさ。それに、王様とかは友好的にしたいと思っていても、それ以外……王様に反旗を翻す勢力とかが、何かしら工作している可能性はゼロじゃないからな」
「王様を嫌いな人が?」
「そうだ。どんな治世であっても、必ず否定する人間は現われるからな」
部屋中を調べてみたが、異常はなし。俺達が把握できない何かがあれば話は別だけど……この大陸の魔法技術などは、俺達の大陸のものとかなり似ているのは事前にリサーチしている。だから、もし何かあればこちらも気付くことはできるはずだ。
念入りに数回確かめた後、いよいよ本題に入る。ユノーを利用して、バールクス王国側と連絡をとる。警戒されないようにと、今回は子ガルクも帯同していないからな……連絡態勢を確立しておくのは、何より優先すべき事項だ。
俺はユノーに魔力をまとわせる。どうやればいいかは事前に教えてもらっているので、それをなぞればいいだけ。一方でユノーはじっと宙に浮いたまま。俺の作業が終わるまで待つつもりのようだ。
やがて……俺の魔法が何かに触れた。いや、実際は物に当たったわけではないのだが、表現するのであればそれが近い。
うん、接続は完了したらしい。よって、
「……ガルク」
『うむ、聞こえるぞ』
はっきりと声が聞こえた。成功だ。
「こちらは王城へ入ったところだ」
『順調のようだな。何か怪しい点などはあったか?』
「いや、まったく。俺達に対しあからさまに敵意を向けてくるような人間はさすがにいないな……今日の夜、夕食会が行われるから、それ次第といったところかな」
『わかった。ちなみにこちらは一切変化なしだ。研究そのものは進んでいるので、安心してくれ』
「組織のメンバーに関しても問題はなし?」
『そちらも作業は進んでいる』
「であれば、こっちもそっちも順調ってことか……何かあればすぐに連絡を頼むよ」
『もちろんだ』
通信を切る。あんまり長話をすると魔力が滞留するので怪しまれる。ひとまず問題はなしとわかったので、それは収穫だ。
「うん、やることは終わったし夕食会まで休むとするか」
「城の中を歩いたりはしないの?」
「さすがに来訪初日で城内をいきなり歩き回ったら、怪しまれるだろ。城内や町などは相手側から案内させた方が良いし、向こうから提案してくるさ……政治的な話はソフィアが受け持つから俺の出番はないけど、やることは多い。とにかく、忙しくなるぞ――」




