都と謁見
数日後、俺達はリーベイト聖王国の首都、ブリクディアに到着した。平原に存在し円形の分厚い純白の城壁に囲まれた都は、遠方から見ているだけでその迫力を実感することができる。
山を背にして佇むバールクス王国の城とは異なる、どっしりとした重厚な雰囲気をまとっている……ふむ、このまま都に入ってまずは歓待か。
「政府高官同士が協議を開始する前に、まずはパーティーかな」
俺の言葉にソフィアは頷き、
「ルオン様については事前に話し合いをした通りに」
「ああ」
大層なことではないけど……要約すると話し合いの席については基本ソフィアが担当。一方で俺についても色々と話を聞きたがる人が現われるだろうから、その対応をするという形。政治的な部分と、それ以外を俺とで分ける形である。
その中で、俺には重要なミッションがある……それはゲームの主人公と関わる王女のこと。季節的にもう霊峰ガシュエルダへ向かっているのか……いや、さすがに他大陸からの来訪者が来るのだ。仮に霊峰を訪れるスケジュールを動かせないにしても、王女を引き合わせるために段取りは組むだろう。
無論ソフィアも話をするが、あくまでそれは王女という立場あってのこと。彼女から色々と事情を聞くには、俺……というより、懐に入る天使が有用だと判断したのだ。
ちなみにユノーのことは国側にも通達している。無害な存在であるとして彼らも小さな天使の来訪を楽しみにしている、とは語っていた。
馬車はやがて城壁へと辿り着く。都へ入るために列ができているが、もちろん俺達はフリーパスだ。
そこで馬車の窓から城の姿を捉える。町並みよりも少し高い位置にあるのがわかる。あれは山の上に作ったというより、土を盛って建設したという方が近いだろうか。あるいはここの地形そのものが丘のようになっており、城はその上に建てたとか。
色合いは城ではあるのだが、どちらかというと乳白色に近いだろうか。石材がおそらくそういう色をしているのだろうと予想できる。
「あまり緊張しないこと」
ふいに、リーゼが俺へ告げた。
「やることがたくさんあるし、敵を作るわけにもいかないから、体に力が入っているのだろうけれど」
「まあ……こういう形で他国を訪れることはなかったからな」
「大変だとは思うけど、少しくらい粗相をしたってルオンのことを追い出したりはしないだろうし、大丈夫でしょう」
「だといいんだけど……」
……城の中に星神と繋がっている輩がいたとしても、さすがに俺達を邪険に扱うことはできないよな。仮に星神から俺達の情報を得ている場合は……相手としても何かしら動いてくるだろう。動きを見極めて、都度対応していくべきか。
ま、色々と作戦は練ったけど、結局のところ向こう側の反応によって変わるので、出たとこ勝負なのは変わらない……一度深呼吸をする。その直後に城門が見えた。
町と城の敷地は、深い堀によって分断されている。おそらく円形に堀が存在して、城へ向かうために橋が存在している。これはいわゆる跳ね橋で、俺達の馬車が到着と同時に橋が下りた。
馬車が橋の上を進んでいく。町中ではいくつも並んで馬車が進む光景を見て不思議そうな目をする人もいた。俺達の来訪がどこまで知れ渡っているのか……多少なりともニュースにはなっているだろうけど、さすがに政治に関わりがない人達にはあまり縁のない話か。
やがて城門を抜け停泊所に到着。馬車を降りると同時に鳥の声が聞こえた。城は防音的な意味合いもあるのか木々がずいぶんと生い茂っている。堀の内側には城を囲うようにさらに城壁が存在し、その裏側に木々が……森と呼べるかどうかは疑問だが、少なくとも鳥が巣を作り、動物が存在するくらいには緑がある。
「こちらへ」
ジュファが俺達の行き先を手で示す。王の謁見かと思いつつも、黙ったまま進む。
城内に入ると同時、張り詰めた空気が俺達を包んだ。まずは顔合わせ……ゲームの事前情報では王様の顔はまったく公表されていなかった。例えばメインキャラクターに王女様とか、あるいは王子とかいるにしても、その親である王や女王がメインであるケースはそう多くはない……と思う。もちろん大きく話の根幹に関わるものだってあるのだが……この物語はどちらだろうか?
よくよく考えれば、魔王との戦いである『スピリットワールド』だって、賢者の血筋が中心で王族の関係者とかがメインキャラクター、というのはあんまりなかったな。カナンとかも重要人物ではあるけど仲間として戦うわけではないし。
ただ今回の『ディスオーダー・クラウン』の場合は、例えば強大な敵と戦うとか、あるいは複数の国が関わる戦乱というわけではない。リズファナ大陸にはリーベイト聖王国以外の国も存在はしているけど、関係は良好。王女の誘拐事件という事実から、他国の干渉である可能性は否定できないが……個人的には内乱のように思える
だとすれば、今回顔を合わせる王様も、メインキャラクター……というかシナリオに大きく関わってくるのだろうか? 疑問を抱きながら俺達は歩む。
空気感は硬質だが、決して敵意があるような感じではない。むしろ他大陸の王女が二人に加え、英雄と呼ばれる存在……こちら側が粗相をしたらどうなるか、ということで緊張しているのかもしれない。
ふむ、だとすればこちらは問題ないというメッセージを示せば、友好的になるだろうか? こちらはやることもあるし、作戦なども実行しなければならないから、トラブルを懸念して不安を抱えているわけだが……あっちはあっちで外交的な意味合いで神経を研ぎ澄ませているわけだ。
これが良い方向に傾けばいいけど……そんな心の呟きを発する間にいよいよ玉座の間に到達した。俺達の真正面には赤い絨毯。そこから三段ほどの階段を挟んで玉座が存在する。絨毯が敷かれた両隣にはおそらく重臣達……年齢の高い男性が、俺達のことを見据え立っていた。
出迎えというわけだ。俺は少し緊張しつつ一瞥し……ソフィアとリーゼは足取りを変えることなく進む。この状況だと二人が頼りだな……そんなことを思いつつ、俺はソフィア達の歩調に合わせるように、玉座へと近づいていった。




