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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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祭事の時

 組織内でやることは色々とあるのだが……その日が来るまでは作業の進み具合も遅かった……少し反省すべき点かもしれないが、こればかりは仕方がなかった。


「傍目から見て、明らかに緊張しているわね」


 と、様子を見に来たリーゼから指摘を受ける……この日、俺はソフィアとの婚約を正式なものとするために祭事を行うことになったのだが……彼女に言われるくらいには、ガチガチらしい。

 まあこれまで城に入って組織を設立して……と色々なことをやって来たわけだけど、公的な出来事……しかも自身が主役というものは一度もなかった。ただこれは一応理由が存在する。魔王を倒してから俺は旅を行い、結果的にここへ辿り着いたわけだが……そこで深く政治に干渉し始めると、面倒事が発生する可能性があったためだ。


 場合によっては多国間の政争とかに発展……さすがにそれは避けたいという面もあったので、表向きはあまり活動していない食客的な扱いという立場……実際は組織を設立したりと色々やっていたわけだけど、城に勤める者達以外にはあまり知られていないし、城の外に情報がほとんど出回っていない。

 英雄はソフィアと婚約するということで、この国に落ち着いた……けれど政治に関わるようなこともしていない。それを内外に知らしめるために、あまり政治に携わることがなかったのだ。


 まあそもそも俺がそういう立場を嫌っていたというのもあるけど……自分の格好を改めて姿見で確認。士官服、とでも呼べばいいのだろうか。過剰とまではいかないが細部に至るまで様々な装飾が施された衣服で、青を基調としたもの。色の指定については自由だったのでフィーリングで選んだわけだけど……似合っているだろうか?

 ちなみにソフィアはこの場にいない。祭事を行う寸前で顔を合わせ、執り行われるとのこと。ちなみにその場には組織の中で参加者などはいない。というか、王族とその関係者くらいしか来ないらしい。


 そういうどこかプライベートな場所であることも、緊張している一因ではある……ま、公の場で宣誓するとかではないだけマシと言えるのかもしれないけどさ。


「それじゃあ、行くとするか」

「ええ、いってらっしゃい」


 手を振りながら俺を見送るリーゼ。部屋を出ると案内役と思しき騎士が一人。


「では、参りましょう」

「はい」


 黙ってついていく。その道中で今回の一件について改めて考えてみる。


 なんというか、ここまで来るのは長かったようにも思えるけど……紆余曲折という感じではないかなあ。俺とソフィアの関係性というのは共に旅を始めた時点である程度きっりち決まっていたし、魔王といった障害はあれど仲を邪魔立てするような輩はいなかったしなあ。

 一時期はソフィアが結論を引き延ばしていた面もあるし……いつかはこうなるという形だったのかもしれないけど。


 程なくして俺は城の上階へ。そこでソフィアは既に待っていた。


「ルオン様」


 ドレス姿なのはいつものことなのだが、普段はあまり着けない金色のティアラなどが印象に残る。あんまり着飾らないからな、彼女……ちなみに理由としては「動きにくくなる」かららしい。

 なんというか、彼女の場合は普段着け慣れていないのでそういう感想を抱くのだろう……まあ城に入ってこれから女王となるにはそういうことだって慣れないといけないのかもしれないけど。


「それじゃあ、入りましょうか」

「ああ」


 いつのまにか案内役の騎士はいなくなっていた。そして俺達の真正面に一枚の扉。両開きで、ここには当然ながら入ったことはない。

 ソフィアが扉を開ける。そこは……言うなれば教会のような場所とでも言うべきだろうか。真正面に台座とその奥にステンドグラス。装飾は幾何学模様でどういう意味合いがあるのかについては、俺も把握はできなかった。


 その中で向かい合う形で立っていたのはクローディウス王ともう一人。ソフィアと同じような白いドレスを着た女性――王妃だ。

 その容姿は、一言で表せばソフィアとうり二つ……というか、ソフィアが王妃にとても似ていると表現すればいいだろうか。名はミネルヴァ。病気がちで城にいることは少なかったのだが、今回は体調もよくなりなおかつ娘の晴れ舞台ということで、はせ参じたというわけだ。


 まあ観客がいるわけではないので、晴れ舞台という表現は微妙かもしれないけど……こちらの姿に気付くと王妃は微笑んだ。それに会釈で返しつつ、俺はソフィアと共に王達の所へ。

 他にいるのはエイナと、今まで会うことはなかった王家の親族が数名。俺のことを見てどう反応するかなー、と思っていたのだがこちらへ刺々しい視線を投げてくるわけでもない。ひとまず好意的に迎えられている感じだろうか。


 王達の前に並び立つと、まずクローディウス王が発言する。


「この度、ソフィーリア王女の婚約の儀を執り行うこととなった……相手は英雄ルオン=マディン……この場で初めて見る者もいるだろうし、なおかつ王家において立場的にこの場を訪れたことのない人物だ。いささか趣は違うかもしれないが、暖かい目で見守ってくれればと思う」


 小さな笑いが起こった。冗談というか、心配するなって雰囲気かな。

 ひとまず、俺とソフィアのことによって問題が生じる可能性は……低そうな感じかな? まあクローディウス王とかの指示を受けているため、ここで下手に非難するのも立場的に良くないとか思っているだけかもしれないけど。


 考え方が卑屈だけど、まあそのくらい警戒しないといけないよなあ……政争に巻き込まれる危険性も今後は考慮しないといけないし。

 ひとまず、王家については問題無さそう……かな? 俺としてはこの場にいる人達に味方になってもらうことが今後……それこそ、このバールクス王国でソフィアと共に歩むためには必要なことだろう。


 なんだか非常に面倒ではあるのだが、彼女と一緒にいるためにはやらなければならないこと……王の口上を聞きながら一人静かに心の中で誓う。国の力を借りて進む以上、俺もいよいよ覚悟を決めなければならないと――


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