迫る機会
それから俺達はひたすら天使を処理し続けた……結果として俺の見立て通り一時間くらいで倒すことができた……天使達の残骸を見ながら俺は一つ呟く。
「あくまで遺跡の守護者……さすがに天使そのものと比べれば能力は低かったけど」
「遺跡は隠されているけれど、これらは平然と外に出ることができるようね」
カティが評する。確かに言われてみれば。
「この洞窟内に遺跡があるのはまあ確定としましょうか……魔族も滅んだ以上はゆっくり調べても問題はないでしょう」
「複数犯の可能性もあるけど」
そんなツッコミがキャルンから成される。それにカティは肩をすくめ、
「なら、経過観察が必要かしら」
「魔物を使役していた存在が消えたのは間違いない」
俺は天使の刃に倒れる魔族の姿を思い返しながら告げる。
「仮に複数犯だとしても、似たような能力を保有する存在が別にいる……という可能性は低いと思う。だからこの洞窟を使い魔などで観察して、問題がなければ調査に入る、ということでいいんじゃないか?」
「ま、そうね……ひとまず戻るのかしら?」
「どうしようか……調査を続けてもいいけど……まあ、そうだな。天使達や魔物がいないかを改めて調べるくらいのことはしようか」
使い魔へ指示を出し、洞窟内を動き始める。広大なので時間は掛かるが……もし問題があるのならば、入口にいる俺達が対応すればいい。
「遺跡に入ると似たような守護者がいるのかもしれないのよね」
キャルンが地面に転がる天使の破片を見ながら述べる。
「今の私達ならどうにかなるみたいだけど」
「油断はしないでくれよ……うーん、状況が変わったから洞窟内を調べるメンバーを変えるべきか? それとも、いっそのこと調査隊としてここにいくらか残って――」
「ルオン、その前に」
カティが俺にジト目を向けながら告げる。
「先に本来の目的を果たすべきではないかしら」
「……あー、言われてみればそうだな」
もうなんというか、色々なことがあったせいで元々の目的を忘れていた。本末転倒である。
首謀者を倒したことで安全を確保できたと判断できれば、俺達はさっさと引き上げて国側に調べてもらうのもいいか。天使の武具についても調査は必要だけど……ま、急いでやる必要はないし。
「ならソフィアへ連絡をとろう」
使い魔で報告。ソフィアは『わかりました』と応じた後、
『完全に危険が払拭されたわけではありませんが、おおよそ事態は収束した……と考えて良いですね。これならば警戒を解いて洞窟の調査に終始した方が良いかもしれません』
「それについては国側の判断に任せるよ……で、俺達についてだけど」
『厄介な敵が存在していたが故に、組織の方々に来て頂きました。目的を果たしたわけですし、一度戻るべきでしょうね』
やっぱりそうなるよな……ま、ソフィアの判断だし、従うことにしようか。
俺は洞窟の入口に使い魔を配置し、さらに内部についても使い魔で継続的に調べることに。そうして得られた情報を調査に入る人員に渡せば、ミッションは完了と言っていいな。
「よし、それじゃあ一度戻ることにしようか」
俺の指示に仲間達は頷く……ようやく、騒動は収束することになりそうだった。
その後、俺達は元々の目的である『竜鳴花』を採取して、帰る段取りをつける。その間も洞窟内を使い魔によって調査していたのだが……天使の姿も魔物も現われなかった。
今後は騎士団が残り調査を継続するとのこと。山の監視は続けるらしいし、魔術師が使い魔を用いて洞窟などを調べ回るみたいなので、仮に魔物が生き残っていても問題はなさそうだった。
よって組織の面子を含め、俺達は帰還することに……不安がないわけでもなかったけれど、可能な限り対策は示しておいたし、いざとなれば俺なんかが急行すればたぶん大丈夫……というわけで、城へと戻った。
「ずいぶんと長旅だったな」
そしてクローディウス王へ報告した時、そう言われた。うん、もっともである。
「ルオン殿はそれこそ、何かを引き寄せる存在なのかもしれんな」
「それ、あまり良い意味合いではないですよね……」
「国側の視点から言えば、最小限の被害で今回の敵を倒すことができたのは良いことだ。あのまま放置していれば……知らなければ、いずれ首都まで侵攻していただろうからな」
……それを思えば、あそこで出てきてもらった方が良かったというわけか。クローディウス王としては、今回の一件については最悪の事態を未然に防ぐことができたということで、良かったと評価しているようだ。
「天使の武具を含め、色々と調査は必要だが……焦る必要はない。ルオン殿は祭事の方に意識を傾けてくれればいい」
「えっと、目的の『竜鳴花』は摘むことができたので、ここからは――」
「といっても、儀の内容についてはさして覚える事柄はない。ただ、そうだな。公的な出来事なので、服装くらいは変えないとまずいな」
「そこはお任せします……」
「うむ、そうか……あと、一つ情報が。朗報、と呼ぶべき話なのかはわからないが」
「情報?」
聞き返すとクローディウス王は一拍置いて、
「うむ。リーベイト聖王国から話が来た。英雄と一度会ってみたい、と」
それは……どうやら星神に関する情報を得ることができる場所へ赴く機会が訪れた、ということか。
ただ、それ以外にもいよいよ星神が世界を壊すきっかけとなる事件……あるいはそのきっかけとなる『エルダーズ・ソード』六作目の物語が――
「ルオン殿、まだそちらが知る物語は始まっていないな?」
「そのようです……それで、聖王国にはいつ頃?」
「向こうも色々とバタバタしているとのことで、時期としてはおそらく春に入ってからになるだろう」
数ヶ月先か……と、ここでさらに王は、
「その際、リーベイト聖王国側も何かしら祭事があるらしい……もしかするとこれが、ルオン殿の知る物語の始まりかもしれない」
「ということは、星神との決戦は……」
「近いのかもしれん」
……冬が終わるまでにどのくらい準備ができるのかはわからない。ただ、今まで以上に全力で取り組まなければいけない状況になろうとしている。
「わかりました。こちらも相応の準備を進めます」
その言葉にクローディウス王は深く頷く……いよいよだと思い、自然と力が入ることとなった。




