天使の猛攻
仲間達の魔法が鎧の天使へ降り注ぐ……直後、金属音が鳴り響いて効いているのだと理解できた。
遺跡を守るガーディアンということで耐久性などに注意していたわけだが……仲間達の攻撃は通用する。これは天使の防御力が低いというよりは仲間達の攻撃力が高いと言った方がいいだろう。星神との戦いを通じて様々な技法を得た。それにより、着実にレベルアップしているのだ。
「いけるな」
クウザが呟く。カティも同調するように「そうね」と返事をした後、魔法の効果が途切れ天使が姿を現した。
前方にいた個体は鎧がひしゃげ、動けなくなっていた。これにより渋滞を起こしており、後続の天使達が右往左往している。命令によって武具を探すよう命じられているが、例外的な出来事が起これば咄嗟の対応はできないというわけか。
とはいえ、カティ達の一斉射撃でも前衛が動けなくなった程度。自己修復能力などがあるとは思えないけど、とにかく壊した方がいいよな。
「俺も加勢する」
こちらが言及するとクウザ達は頷き同意。その後、俺達は一斉に魔法を放った。
洞窟が崩落する恐れがあるのでさすがに『ラグナレク』みたいな魔法は使用できないけど……中級クラスの魔法でも十二分に通用する。
一番前にいた天使は魔法を受け続け、やがてバラバラとなる……と、その時天使達が一斉にこちらへ体を向けた。どうやらこれは――
「個体がやられた場合、敵と認識する……かな?」
「そのようね。どうする?」
カティの問いに俺は、
「なら、前方で敵を食い止めながら魔法で数を減らす……だな。洞窟内から出さないように立ち回らないといけないし、長期戦になる。魔力は十分か?」
「こっちは問題ないわ」
「同じく」
カティとクウザが相次いで答える……と同時に、天使達が襲い掛かってくる!
「させる……か!」
アルトが前に出た。大剣を振りかざし突撃を行う天使へ一閃する。
大剣同士が激突。甲高い音が響くと同時にアルトの剣が天使を押し返す。いや、そればかりではなく……その体へ一閃した。
ガアッ――金属同士がこすれ合う音と共に、鎧に斬撃の跡が刻まれる。天使はそれによりさらに動きを変えた。魔力を高め、アルトを見定め始末しようとする。
「ヤバい敵と認識してくれたわけか……」
アルトが剣を構えようとしたその時、後方から魔法が飛んできた。それが天使に幾度となく突き刺さり……やがて足が砕け倒れ伏す。ひとまず下半身に狙いを定めて動けなくすればよさそうだな。
「味方には撃つなよー」
「わかってるわよ」
アルトの言葉にカティが返事。次にイグノスが魔法を行使して、鎧の天使を吹き飛ばす。
彼については天使の鎧を大きく砕くだけの力はないみたいだが……的確に援護を行い、味方の連携をスムーズにしてくれている。うん、仲間達は役割分担ができている。これは問題無さそうだな。
さらに天使達は向かってくる……のだが、それを前衛が抑え込む。これには俺も参加した……天使の動きは鎧姿もあってそれほど高速というわけではないのだが、普通の騎士や傭兵では対応が難しいくらいには能力を保有している。まあ天使の遺跡の守護者である以上は、生半可な能力というわけではないわけだ。
しかし、後衛にいるカティ達に加えて前衛で頑張るアルトやフィリ達も……相当な実力を有している。
「ふっ!」
フィリの一閃が天使の体を弾き飛ばす。アルトだけでなく彼もまた天使を圧倒できるだけの力を所有しているようだ。
さらにコーリに加え、キャルンも……彼女の短剣が天使に叩き込まれる。同時に旋風が生じ、天使の体が浮くと共に後方へすっ飛んだ。
技としては『ファランクス』であるのは間違いないのだが、魔力を高めたことにより余波が生じているようだ……さらにコーリもフィリのように鋭く、また同時に力強い剣戟が放たれる。前衛についても問題はない。食い止めるどころか押し返している次第だが、方針を変更する気はなかった。
「全員、天使達を押し留めつつ距離を置いてくれ。トドメはあくまで後方がやる」
「何か警戒しているんですか?」
フィリが問い掛ける。そこで俺は、
「ないとは思うけど、どれかの個体が自爆とかしたら目も当てられないからな……さすがにないとは思うけど」
「なるほど、確かにそうですね」
「斬った感触としては、鎧に仕掛けがありそうには思えないけどな」
アルトが呟く。ただコーリとしては、
「鎧に何もないにしても、例えば魔法を一斉射撃とかしてきたら、かなり面倒――」
その時だった。後続にいる天使達が手をかざした……あ、これは――
「おいコーリ! お前が言ったそばから!」
「私のせいなの!? これ!?」
「全員、回避!」
俺は叫び、魔力障壁を構成しながら後退を開始する。直後、天使から雷撃や光弾が射出された。
俺の障壁越しに魔力が弾け、閃光が生じる。大剣以外の攻撃を持っていることがわかったわけだが……、
「ルオンさん、どうする?」
アルトが問い掛ける。そこで俺は、
「後方に注意しながら耐える……カティ! クウザ! いけるか?」
「大丈夫よー」
「ああ、任せてくれ」
二人の言葉を受け、俺は決断する。
「というわけで、もう少し持ちこたえよう」
「そうだな……しかし」
アルトは鎧の天使達の群れを眺め、
「数が多い……が、さすがに増援があるわけじゃないか」
「遺跡内にはまだこういう個体がゴロゴロいる可能性はあるけどな……こいつらを倒せば、少なくとも厳戒態勢は解かれる。もう少しの辛抱だ」
俺の言葉を受け全員の顔が引き締まる。それと同時に天使達が再び突撃を開始する。
それを受けながら押し返していると後方から魔法の雨あられ……着実に数を減らしていく。鎧に大きな損傷があれば魔力を維持できなくなって動けなくなるようだ。
「機能停止した個体は後回しだ。とりあえず動けるやつを優先的に叩く。全員、天使達の動きを見極めて動いてくれ」
「了解」
代表してシルヴィが応じる。彼女の剣もまた鎧天使をはね除け、吹き飛ばす。
この調子なら、一時間も経たずして倒せるか……とはいえまだまだ油断はできない。増援などが来ることも想定しつつ……俺は仲間と共に剣を振るい続けた。




