想定外の脅威
洞窟内に異変を感じながら俺達は奥へと突き進んでいるのだが……以降、特に洞窟内で何か生じるわけでもなく、魔物すら現われない。
「さっきのは何だったんだ……?」
肩すかしのような状況なのだが、もちろん警戒は怠らない。というか、ブラフのようなものでこちらを罠に引き込むような何かかもしれないし。
ただ、魔物が襲ってこないのが理解できない……現状の報告を使い魔によりソフィアへ行うと彼女は、
『微妙ですね……首謀者側が何かをしてトラブルに遭ったという可能性も否定できないかと』
「それなら逆に面倒そうなんだよな……例えば天使の遺跡内で問題が生じて首謀者が倒れたとする。もしそうだったら俺達は確かめようがない」
むしろ攻勢を掛けてくれた方が居所をつかみやすいんだけど……と、ここでソフィアは、
『私達側に問題があるのは理解していますが、かといって調査を疎かにするわけにはいきませんし』
「まあ確かにそうだよな……ソフィア、そちらは問題ないのか?」
『魔物の索敵は行っていますが、気配などはありませんね』
「わかった。使い魔は常に周辺にいるから、何かあればすぐに報告してくれ」
『はい。ルオン様についても問題があればすぐに言ってください。駆けつけますので』
「ああ」
そうしたやり取りの後、周辺を調べていたカティが一言。
「洞窟内に変化があるってわけではないわね。首謀者が遺跡の外に出たって可能性も低そうだし……何だったのかしら」
「少し調べればわかることなのかもしれないし……とにかく、調査は続行――」
そう告げた矢先のことだった。パキン、と再び音と共に魔力を感じた。進行方向であり、全員がそちらへ視線を移した矢先……魔物の雄叫びが聞こえてきた。
「来たか……って、待てよ」
ただ、その声はおかしかった。俺達へ仕掛けるべく吠え立てていた……と最初は思ったのだが、即座に悲鳴のようなものも混じる。なおかつキンキンと剣を合わせるような音……誰かが戦っている?
俺は即座に使い魔を飛ばした。様子を見てから確認すべきであり――
通路の奥、金属音がどんどん近づいていくと、開けた空間に出た。俺達がこの洞窟を訪れた場所のような、広大な空間。そこで、魔物達が戦っていた。
なおかつ、魔物達は円形に布陣しており、その中央に……ローブ姿の男性がいた。
見た目はおよそ三十代半ばといったところだろうか? 黒髪の地味な風体ではあるのだが、一つだけ顔に亀裂が走るように赤い紋様が存在する。それがどういった効果があるのか理解できないが、少なくとも普通の存在でないことは理解できる。
使い魔越しでは人間なのか魔族なのか判別はつかないが……魔物に守られていることから、間違いなく一連の事件を引き起こした首謀者で間違いなさそうだった。
そして、魔物達が戦っているのは――
「……なんだ、これ?」
「ルオン、何が?」
シルヴィが問い掛けてくる。俺は少し困惑しながら説明を開始する。
「通路の先に広い空間があって、そこで魔物が戦っている。そこに首謀者と思しき存在もいる」
「外に出てきたわけか。とはいえ戦っているとは? 相手は誰だ?」
「それが……」
魔物達はおそらく天使の武具のレプリカを所持している。それを振りかざしているのだが……相手になっていなかった。数は多いのだが連携もとれず、剣を放ってもあっさりと弾かれ、相手の大剣を体に受け、消滅する。
その相手……なのだが、
「シルヴィ、レスベイルを想像してくれ……あれと似たような、全身鎧姿の天使だ」
「何?」
そう、背に白い翼を生やした鎧を身につける天使……ただ、この場合中身があるのかどうか。
その時、魔物の剣が天使の一体へ叩き込まれた。ガアンと金属音が周囲に響く。音の具合からして、おそらく中身はなさそうだ。
「天使の遺跡に眠っていたガーディアンか何か……というのがたぶんしっくりくる」
「遺跡内に封印されていて、首謀者が解除したら暴れ出したとか?」
「その可能性もありそうだな……天使の武具を用いれば、操れると考えていたのか」
俺達の攻勢からかなりまずい状況であると悟ったため、首謀者はガーディアンの封印を解いた。けれど言うことを聞かず、暴走……使い魔を通して見える現状として妥当な回答はそんなところだろうか。
「天使が俺達を見てどういう反応をするのかは不明だけど……首謀者を倒すチャンスでもある。行こう」
「もし天使が襲い掛かってきたら?」
「中身のない、遺跡を守護するだけの存在だ。破壊して問題はないだろ」
命令なんて聞きそうにないし……俺達は走る。とりあえず首謀者が現われたのは間違いないし、ここで一気に決着がつきそうだ。
通路をひたすら走り、俺達は現場に到着。最初に使い魔で見つけた時と比べて魔物の数が半減していた。次いで首謀者は俺達のことを見て、
「ちっ……!」
舌打ちした。同時に魔力を気配で探る。
「ルオン、魔族のようね」
「ああ、魔王軍の生き残りというわけだ」
すぐに把握した俺は、天使に注意を向けつつ首謀者へ向け剣を構える。
「ソフィア、聞こえるか? 首謀者を発見した。気配は魔族。捕縛か? それとも――」
『魔族ならば……倒すほかないと思います』
「わかった。魔界とは友好的になりつつあるけど、魔王軍の生き残りっぽいし……仕方がないよな」
説得しても、俺達に敵意を示すだけだろう。まして魔界の現状を知らぬまま、この山にこもっていればなおさらだ。
俺は地面を蹴り真っ直ぐ首謀者目掛け突っ走る。仲間達はその援護をしてくれるようで、魔法を使い進行方向にいる魔物達を吹き飛ばす。
魔物の使役者は目を見開きどうすべきか思案した様子だが……天使が逃げ道すら塞いでいる。かといってこのまま堪え忍んでも魔物が撃滅されるだけ。
どうすべきか――魔族は俺を見て、反撃する道を選んだ。彼が握るのは短剣。どうやらそれは天使の武具。
途端、周囲の天使達も反応した。武具を魔族が使っているということで、動いているのか。天使がこちらの味方なのかは不明だが……首謀者は完全に追い込まれた形。
ただ短剣の能力が何なのか不明な以上、油断はしない……! 魔物を蹴散らしながら接近。相手もまたそれに応じるように、短剣の力を解放した。




