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賢者の剣  作者: 陽山純樹
真実の探求

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世界の法則

 道中で怪しい所は全て確認しているのだが、結局それらしい場所は発見できず、時間だけが過ぎていく。山道が整備されているのでひとまず進むことに問題はないのだが、これはこれで不気味ではあるため、敵の計略かと考えてしまう。


「わざと山に進ませて下から攻撃するとか?」


 コーリが敵の攻撃について予測をした。その可能性もありそうだな。

 魔物達の能力を踏まえればそうなっても強引に突破することはできそうだけど……ただ山道が戦場となったら足場なども不安はある。できるなら包囲されている状況とかにはしたくないな。


「いざとなったらそっちは逃げることに注力して、俺が殿やるから」

「また無茶言い出したわね……」


 呆れたようにカティが呟く。次いで、


「でもそれが一番生存可能性が高いのも事実よね……」

「そういうことだ……ん?」


 木々がいよいよ少なくなり、目の前が真っ白い大地になる。ここまでは進む度に少しずつ雪の領域が増えつつあったが、木々がなくなり阻むものがなくなった場所では、銀世界が広がっていた。


「深い森は抜けたみたいだな……まだ木々は転々としているけど」

「そうね。結構登ったんじゃないかしら」

「息とかは大丈夫か?」


 カティに尋ね返すと彼女は小さく肩をすくめ、


「問題ないわ。高山病を懸念しているのよね? その辺りは装備とかでどうにかなっているから」


 この世界も俺の前世と物理法則は(魔法を除けば)同じなので標高が上がれば空気が薄くなる。よって高山病なども懸念されるのだが……魔法や装備で処置が可能であり、登山するにしてもある程度魔法の心得があれば高山病にかかることはない。

 ただそれは、平常時の場合だ。何らかの形で魔法が途切れたりすれば途端に窮地に陥る。まして魔法などで対策しているため体が順応していない。よって装備などが破損して対策がなくなれば前世以上に危ないことになる。


 よって、こうした山岳地帯での戦闘は気を遣わなければならないし、天使の遺跡を探って山を登ったときは魔物と遭遇しないようになど注意をしていたのだが……俺は周囲の気配を探る。やはり何もない。


「敵の動きがまったくないな……閉じこもってしまった可能性が高そうだ」

「相手は完全に隠れることができると思っているのかしら?」

「天使の遺跡に加え武具まで用いているとすれば、いけると考えているのかもしれない」

『ルオン様』


 使い魔から声。現状報告かな。


『こちらは何もありません。魔物とも遭遇していません』

「俺も同じだよ。こっちは中腹まで辿り着いたが」

「私もです。あ、竜鳴花が咲いているのですが……持って帰りましょうか?」

「ついでに、か……うーん、さすがに止めておこう。全部解決して改めてでいいんじゃないか?」

『わかりました』

「まだ先へ進む?」


 カティからの問い掛け。俺は一考し、


「そうだな……まだ時間に余裕はあるし、調べられる場所があれば捜索しよう」

「了解。それじゃあ――っと」


 ふいに、カティはあらぬ方向へ目をやった。何か見つけたのかと尋ねようとしたとき、彼女から口を開いた。


「魔力が乱れた場所があったんだけど……」

「魔力?」

「山の天候が変わりやすいのと同様、こういう変わった気配というのは往々にしてあるけれど……調べてみる?」

「怪しい場所があるのなら、とにかくしらみつぶしがいいな。案内してくれ」

「わかったわ」


 カティが先導して先へ進む。その間にシルヴィともやり取りをするが、そちらも異常はなし。ただ、気掛かりなことを言及した。


『そもそも魔物がいない。村人からの情報によると、今回武装する魔物が現われるより前には時折魔物が出現していた。自然発生した個体だと考えられるが、そうした気配もまったくない』

「あー、言われてみれば普通の魔物だって出てきてもおかしくはないよな……でも、それはない。とすると、これもまた今回の事件における首謀者が関係している、と?」

『かもしれない……周辺の魔力を操作しているのか? 魔物が発生するプロセスは、魔力が色々なものに結びついてだったはずだが』

「あるいはその魔物が発生する過程を利用して、自分の兵士を増やしているか」

『あり得るな。ただこれ、問題にならないか?』

「……自然に発生する魔力をどうこうしているからな。いい話じゃないのは確かだ」


 魔物というのは人間を襲う可能性があるので駆除する他ないのだが、ゼロにすることはできない。魔力が世界に存在している以上は、魔物の発生は切っても切り離せないのだ。

 魔法という恩恵と引き替えに存在するこの世界の法則なわけだが……それを多少なりともねじ曲げているか、あるいは利用しているか……自然由来の魔力を使っているというのは、それだけの規模で魔法を行使できることを意味している。相手は何かしら切り札を持っている可能性があるわけで……要注意かもしれない。


「報告ありがとう。こちらは少し怪しい場所があったので、そこを調べようとしている」

『わかった。何かあったら報告を』


 通信が途切れる。さて、カティが述べた場所にもうすぐ辿り着くのだが、


「ここよ」


 指を差したのは岩陰に存在するくぼみ。この先に洞窟などが存在しているのなら怪しさ満点だが、岩か何かによって削られた空間にしか見えない。

 ただ天使の遺跡を調べ回っていた俺からすると、確かに怪しい場所ではある。遠方から見ても入口が気付かれにくい……そんな場所に天使の遺跡の入口はあることが多いのだ。


 もしここが敵の本拠地入口だったら、魔物が多数飛び出てきてもおかしくないけど……手で壁面に触れる。魔力の類いは感じられないのだが、


「うーん……判断に困るな。何か魔法でも使ってみるか?」

「天使の遺跡って、攻撃したら入口が見えるんですか?」


 フィリからの質問に対し俺は小さく首を振り、


「そういうわけじゃない……いや、ここは遺跡によって特性も違うから。ともあれ怪しい場所なんだ。納得いくまで調べようじゃないか」


 周囲の気配を探りつつ……と、壁面に手を触れながら魔力を高めたその時――変化が、起きた。


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