組織の未来
翌日、俺達は前日と同じメンバーに分かれてフェルノ山へ登り、騒動の首謀者を探すことになった。
山頂へ進む登山ルートはいくつかあり、登山の難易度はそれほど変わらないらしい。神聖な山として訪れる者もいるらしく、だからこそいくつかのルートが整備されている、と。後はバールクス王国側も訪れるため、国が管理している面もあるのだろう。
今まで山に登っても首謀者が率いるような魔物に襲われるようなことはなかったらしいのだが……これは今回魔物を使役する存在が居場所を露見しないようにしていたためだろう。けれど俺達が訪れたことで、行動を開始した。居所はおおよそバレてしまった以上、ここからは本腰を入れて攻撃を仕掛けてくるのは間違いない。
だからこそ、こちらも万全の装備で挑む……ひとまず山のふもとにある登山道の入口までは問題なく進むことができた。
「魔物に天使の武具を持たせたことが結構効いているのかもしれないわね」
カティはそんな評価を下す。
「さすがにあれだけばらまいたわけだし、敵も次の策を講じるのに時間が掛かるんでしょう」
「だと良いんだが……時間があるのなら、今のうちに天使の遺跡を含め、怪しい場所を調べていく」
俺はフィリ達を引き連れ山を登る。魔物の気配や姿はなく、問題なくどんどんと進んでいける。
とはいえ周囲は相変わらず森の中。山の中腹にでも差し掛かれば木々もなくなるのだが、そこまではとにかく周囲を注意しながら進むことになる。
登れば登るほど、今度は雪の対処に苦労する羽目になるかな……前世では遭難の危険性や雪崩などもかなり怖いわけだが、今だと魔法があるので即座に対応できれば難を逃れることはできる。とはいえ雪崩に飲み込まれたら抜け出すのは大変だし、遭難だって方向などがわからなければ面倒なことになる。注意をしないと。
「……ソフィア、そっちはどうだ?」
なんとなく近くにいる鳥形の使い魔に呼び掛ける。
『こちらは何もありませんね』
「そっか……シルヴィ、そっちは?」
『こっちも変化なしだ。敵としては攻め寄せてきている以上は反撃が来ると思うんだが』
「前回の戦いでリソースを吐かせたのなら良いんだけど……」
『ルオン様、あれだけの武具……さらに数があるのなら、これはもう国家が保有するレベルですよ。いえ、一国が保有して良い段階を超えるほどでしょうか』
……軍事転用するなら、とんでもない兵器であるのは間違いないよな。正直これを人間の国家が利用し始めたら、パワーバランスが壊れる。
ガルク達に預けて正解かもな、これ……まあバールクス王国とかは組織とかでもはやとんでもないことになっているので今更かもしれないけど……神霊や天使などが介入しているため、ある程度説明をすることはできる。
けれどまあ、ここからさらに誰にでも扱える武具とか手に入れたら、批判は強くなるだろうな……バールクス王国にその気がまったくないにしても、武具を用いて侵略してくるのでは、とか噂が立ってもおかしくない……まあ今の段階でそういう噂がゼロかと言われると微妙なところなんだけど。
「……話は変わるが、ソフィア」
『はい』
「今の段階で聞くのはどうかと思うんだが……組織について、風当たりは良いのか?」
『お父様は諸国に上手く説明はしているようですね。カナンが私達を支持しているのも大きいかと』
「魔王との戦いによる発言力が、まだまだ残っているか」
『はい。魔王以上の脅威がいる……実際に星神の使徒が顕現しましたからね。どうやら大陸南部の国家は海上に何か出現したという事実を察知したようです。無論その詳細は遠距離だったので解析することは無理だったようですが』
「その辺りの事実と絡めて、組織の説明をした、と」
『そうですね。事実ですし、神霊達の説明もあったようなので、諸国も信用するしかなかったと』
……神霊達はあくまで協力者で、中立的な立場というのも大きいか。ただまあ組織『エルダーズ・ソード』に肩入れしているのは事実だし、内心面白くないと思っている可能性はありそうだけど。
「……星神を打倒したら、組織は即座に解体すべきかなあ」
『集ってくださった方々のことを思うと、それも微妙ですね……』
「なんだか不穏な話をしているわねえ」
と、カティが呆れたように呟いた。
「ま、私達も組織の性質がとんでもないことは理解しているし、それもやむなしとは思うけどね」
「再就職先はできる限り斡旋するということで、いいか?」
「別にいいわよ、そこまでしてもらわなくても」
『――星神を倒して、それで終わりでしょうか?』
と、ソフィアからさらなる意見が。
『星に巣くう存在を除去できれば、私達の仕事は終わりかもしれませんが……』
「まあその辺りはどうなんだろうな……俺達は星神の詳細について完璧に把握したわけじゃないからな……ま、組織の規模は縮小するにしても、色々と星神の調査を続けるために組織を維持するのは良いかもしれない。天使や精霊達と協力関係は維持するにしても、城内に常駐するようなことはしない。組織に集ってくれたメンバーで運営していく。これがまあ、無難な道筋か」
『そうですね……ただ、今から話し合ってもその通りにならないような気はしますが』
「確かに、な」
予定外のことが多すぎるからなあ……俺はフィリ達へ視線を移す。
「組織がどうなるかはわからないけど、俺が納得できるまで……付き合ってもらうことはできそうか?」
「そもそもそれがどのくらい先なのか、よね」
「まったくです」
カティとフィリが相次いで述べる。
「ルオンが納得できるまで……とかなったら、十年経っても終わらないなんて可能性もあるわね」
「否定できないのが悲しいが……気の早い話ではあるけど、考えておいても損はないさ。星神の調査を合わせ、どうするかは考えていくとするよ」
返答した後周囲を見回す。のんびりと会話をしているわけだが、気配はない。
「出てこないな……それなら好都合か。カティ、気配は探れているだろうけど、何か発見はあったか?」
「天使の遺跡がありそうな場所もないわね。相手は限界まで隠蔽しているでしょうから、通り過ぎた可能性もあるけど」
「それでも今あるやり方で探していくしかない……ひとまず、山の中腹を目指そう」
俺の言葉に全員は頷く。そしてひたすら、山を進み続けた。




