異例な出来事
その後も継続して騒動の首謀者を探し続けたのだが……結局、見つかることはなかった。今日調べ回ったのはあくまで山の麓周辺なのだが……魔物が出現する場所どころか気配すらつかむことができなかった。
こうなってくるとやはり敵の居所は山中……ただ、冬の山だ。登るだけでもかなり大変なことになる。
「装備は持ってきているため、組織の面子だけなら入ることはできる」
夕刻、拠点となっている村へ集まり、俺達は話し合いをすることに。先んじて口を開いたのはエーメル。彼女は今回敵が現われなかったことで多少なりとも不満そうな顔をしている。
「だからまあ、後は私達の踏ん切り次第だが……」
「エーメル、魔族の気配とかは感じたか?」
俺の問いに彼女は肩をすくめた。
「私の姿は観察しているはずだが、目立った反応はなしだった。もしかすると相手が私のことを知らない可能性もある。まあ魔族であることは理解したはずだろうから、潜伏しながら憤慨しているかもしれないが」
「わかった……さて、山を本格的に調べるとなったらかなり気合いを入れないといけない。小さなイベントではなくなってしまったわけだが、敵の戦力を考えると放置は絶対にできない」
「ここで決着をつけるのは絶対ですね」
ソフィアが言う。バールクス王国を根城にしている魔族……字面だけなら相当厄介な案件だ。
星神と交戦した事実からすれば大したものではないかもしれないが……今回は一般人に影響が出ている。早急に処理しなければならない。
「なら、今日と同じメンバーで別所から山へと入る……ただ、この場合村や町が問題だな。手薄になったところへ襲撃を仕掛ける可能性も否定はできない」
「エイナ」
ソフィアが名を呼ぶ。そこで彼女は、
「近隣の騎士や兵士を集めています。現段階で今日配置されていた戦力は倍増していますので、もしものことがあったとしても耐えられるかと」
「近隣の町などに配備できる数になっているの?」
「はい。近くに存在する駐屯地から派兵されて来ましたので」
駐屯地……この場合、魔物を討伐するようなことを想定した軍勢かな。バールクス王国側も本腰を入れている。
「よって、皆様については気にする必要性はないかと思います……ここまでの規模になった以上、私については参加できませんが」
「エイナ一人でどうにかなるのか?」
もっともな疑問を投げかけると彼女は、
「どうにかしてみせる……としか」
「踏ん張りどころってことだな。俺達にできることはこの緊急事態を少しでも早く解除することか」
その言葉に仲間達が全員頷いた。
現状、フェルノ山を中心にして厳戒態勢に入っている。敵は山中に閉じこもっているので山の周囲を守ればいいわけだが、防衛範囲が大きすぎるために警戒する範囲が大きく、住民達を不安にさせている。
騎士達だって動員し、なおかつ見張りをしなければならない。これが長期間もつようなことは絶対に無理なので、可能な限り早期に解決しなければならない。
「敵は天使の遺跡に閉じこもっていると解釈していいんだよな?」
そんな疑問がアルトから成された。それにこちらは首肯し、
「ああ、そこはほぼ確定で良いと思う。天使の遺跡は元来魔法的な処置などによって見えない……場所が場所だけに誰も調べようとしなかっただろうから、潜伏先としては最適だったな」
「しかも今は天使の武具まで用いているため、発見が難しくなっている……と」
アルトは呟きながら視線を別に移す。そこには、回収した天使の武具が。
「あれ、どうするんだ?」
「俺の班ではコーリが試し切りをしたけど、すぐに使いこなしていた……が、さすがに今回は使用できない。長時間使ったらどういう結果になるのか……そういう検証をまったくしていないからな。安全性を確保してからじゃないと使わない方がいい」
「そりゃそうだよな……残念だ」
「これらの武器だけど」
と、リーゼがふいに声を漏らす。
「正直、私達が星神へ挑む際に使っても遜色ないくらいじゃないかしら?」
「そうだな……天使の武具が遺跡に眠っているというのはよくあることだ。アーティファクトという強力な効果が存在する物だって多数出土しているからな。でも、今回のは異例だ。これだけ強力な武具が魔物に持たせるだけの数存在している……そんな話は今まで聞いたこともなかったし、魔王を倒した後に遺跡を回っていた俺からすると考えられない状況だ」
「あれほど多種多様な武具が残っているとは想像もしませんでした」
ソフィアが武具を見据えながら語る。
「異例づくしの出来事ですね……出所なども気になりますが」
「そこは首謀者を締め上げてもたぶん判明しないだろうな……ともかく、今回天使の武具は保管だ。それとエイナ」
「どうした?」
「レスベイルも残していくから、存分に使ってくれ」
「良いのか?」
「武具についてはガルクが回収するとしても、敵が奪還のために攻めてくる可能性があるだろ。守りを固めないといけないし、今回の戦いは攻めよりも守りに不安があるからな」
俺の言葉にエイナは苦々しく頷く……レスベイルを用いれば、防衛面も少しは改善するはずだ。首謀者としては回収するべく動きたいはずだし、守りを強化しないと。
「ガルク、何か意見とかは?」
『特にはない……が、一つだけ』
子ガルクは俺の右肩で仲間達を一瞥し、
『今回の敵は、魔物の能力はさほどといったところだが、武具は強力だ。アンバランスに思えるため対処は難しくないと思えるが……戦いの中で経験を積み強くなる危険性もある。ルオン殿達ならば油断するようなことはないだろうが、最大限警戒すべきだ』
そこで一度言葉を切る。
『精霊の方にも連絡はしているが、神霊についてはおそらく助力は難しい。とはいえ山へ侵入しルオン殿達へ協力ではなく、周辺の村や町に援護くらいはできるかもしれん』
「精霊の助力か……それは大変ありがたい。ガルク、もし援護できる態勢になったらエイナに連絡を」
『承った』
「よし、それじゃあ明日からは本格的に山へ入る……全員、気合いを入れてくれ。それと今日の夜の警備については――」
打ち合わせは進む。敵の姿を想像しながら、その日は仲間達との作戦会議に費やすこととなった――




