侵攻の再現
魔物の魔力にすぐさま俺達は戦闘態勢に入ったのだが……問題は魔物が発する力の大きさ。どうやら目の前の敵達は全て、天使の武具を所持――しかもそれはオリジナルだ。
「厄介ですね、これは」
「相手も本腰を入れてきたってことかしら……」
フィリとカティが相次いで呟く。その間にガルクが周囲の状況を分析する。
『どうやら山を中心にして色々な場所に魔物が出現している……しかも全て魔力が高い』
「これだけ一斉に、しかもオリジナルの武具を持って……か。天使の武具の数がすさまじいわけだが、これなら最初からオリジナルで武装すれば良かった話では――」
『相手としては、それでは望むような結果にはならないということだろう』
「望むような……?」
『もしかすると首謀者は……魔王の侵攻を再現しようとしているのかもしれん』
恐ろしいことを口にするガルク。
『確かに周辺の町や村を襲うだけならば、天使の武具で武装した魔物達を使えばいいだけの話。しかし、数は多いにしても軍を成すには至らない。そもそも武具は強力だが武装しているのは魔物だ。より精巧に……強力にするためにはまだ時間が必要だったと考えていいし、こうした戦術は相手としても望ましくはなかったのだろう』
確かに魔物の技量は低かったからな……目の前で吠える魔物達は先日戦った敵と同系統。となれば、技量面については多少強化されているとしても劇的な変化はないはず。
『武具を扱う魔物をより強力に……そして、天使の武具のコピーについては、雑兵に持たせるつもりだった……そう解釈すると、オリジナルを持つ魔物を隊長にして軍を成すと考える方が自然ではないか?』
「確かにそうだな……数自体、大陸を蹂躙するにはまだまだだったが……フェルノ山は神聖な山として扱われているし、見つからないと考えていた……」
『うむ、ここに潜り込んで機を窺っていた……魔物を作成しながら。それだけ遠大な時間を消費して計画を練ろうとしている輩だ。相手は人間ではなく魔族と考えてもよさそうだな』
「とすれば魔王の配下……生き残りってことか。エーメルと会わせたら矛を収めてくれないかな?」
『魔王の目的について把握しているのかわからないからな。エーメルについても人間に寝返った裏切り者という扱いかもしれん』
……まあこちらを攻撃してきたのだ。今更の話か。
「ともあれ、これはかなり厄介だ……さて」
『ルオン様!』
と、ここで傍らにいる使い魔からソフィアの声が。
『状況は把握されていると思いますが』
「ああ。天使の武具……オリジナルを所持している魔物だ。しかも多数」
『迎撃を開始しますが、こちらもかなり激しい戦いになるでしょうね』
「もし状況が悪くなればすぐに退却してくれ」
『わかりました』
俺は他の場所にいる使い魔を経由して状況を連絡。ひとまず山狩りを開始した隊を狙って魔物が出現しているようで、配置も三つの隊の近くである。よって、
「村や町に被害が出ないようにするため、ここでできれば片付けたいが……フィリ達、いけるか?」
「愚問です」
「やるしかないわね」
フィリとコーリが相次いで応じる。彼らも組織に所属して鍛えている。強力な武具を有しているとはいえ、魔物相手に後れは取らないはずだ――
その時、再び魔物が咆哮を上げた。即座に俺達は仕掛ける。まずは手近にいたウェアウルフの魔物。
持っている武器は大剣。天使の武具オリジナルである以上は直撃すれば相応のダメージを受けることになるだろうけど……俺は臆せず踏み込んだ。
魔物はすかさず迎撃しようとするが、それよりも先に俺が剣を一閃する。それによって魔物はあっさりと砕け散る……武具は強力だがやっぱり魔物そのものは強くない。対処は難しくないな。
『この策の最大の問題は、一度形勢が不利になるとあっさりと終わることだ』
魔物を倒していると、ガルクが声を上げた。
『なぜかというと、こちら側に天使の武具が奪われてしまうからな』
「確かに。人間なら容易に扱える武器だし、倒したら倒しただけ有利になるな。向こうにとっては大幅な戦力ダウンだ」
『だからこそ、天使の武具オリジナルを所持する魔物の投入は控えていたはず……だが、こちらの動きを見ていずれ見つかると判断した故に、苦渋の選択をしたと』
「現状はそれが答えか……とはいえ一撃もらったら厄介だ。できる限り警戒して――」
俺は真正面から迫る魔物を切り払いながら告げる。その間に横手から新手がやって来たが――それにはコーリとカティが対処した。
まずは魔物の斬撃を、コーリが受ける。大丈夫なのかと思いそうだが、コーリはかなりの魔力を刀身に注いだため、魔物の武具である剣と激突した瞬間、魔力が周囲に弾け飛んだ。
バチバチバチと雷光でも発生したかのような乾いた音。武器の性能からすればコーリの方が下であることは間違いないのだが、彼女の斬撃は技量や能力によってカバーされ、魔物と互角……いや、コーリが力押しで弾いた。
天使の武具はポテンシャルを引き出せば相当な力となるはずだけど、魔物にとっては宝の持ち腐れか。コーリは手早く魔物の首をはねて勝負を終える。倒れる魔物の体と天使の武具。すると、
「よっと」
コーリは魔物が持っていた武具を拾い上げる。ま、そうなるよな。
「試し切りしても?」
「魔物を迎撃できるのであれば」
告げた矢先、コーリは迫ってきた魔物へ一閃した。先ほどと同等の魔力収束を拾った天使の武具へ注いだらしく……魔物もそれに応じて剣を合わせた。刹那、
ズオ――重い風の音が聞こえた。それは大気の魔力が乱れ、周囲に荒れ狂う状況。コーリの剣が生み出したものであり、振り抜いた瞬間、魔物の体が――消し飛んだ。
凄まじい魔力の衝撃波だった。魔物が持っていた武具は無傷だが、斬撃の余波に魔物が耐えきれなかったのだ。しかも魔力は魔物を倒すだけ留まらず、奥に存在していた木々へ直撃した。
途端、落雷が発生したような轟音が周囲に響いた。コーリの目が点になるような状況だったが……いつものように放った斬撃が、天使の武具による魔力増幅効果で、必殺の一撃へと昇華した。
「こ、これ……トンデモナイ武器では?」
剣を放った側のコーリが困惑するほどの物。これはやっぱり放置できない……そう判断した俺は、残りの魔物を手早く仕留めることにした。




